常見 陽平 著
WAVE出版 1,470円
WAVE出版 1,470円
新しいタイプの就活本が登場した。小説という形式を採用し、読者を主人公に感情移入させながら、ぐいぐいと読み進ませる筆力は相当なものだ。筆者は人材コンサルタントの常見陽平さん。300ページ以上のボリュームだが、一気に読める。
これから就活を始める学生にとって良書だと思う。就活は、大人と話すという体験が重要だが、なぜ重要なのかを就活を始める前の学生が理解することは難しいと思う。本書を読めば、主人公の心理や行動を追体験できる。そして就活とは何か、働くとは何かを知ることができる。そして偽物ではなく本物の就活を始めることができる。
主人公は名古屋の公立高校から都内の大学に進学した晃彦。偏差値55の大学はすべり止めだった。2年間は、単位を取るために大学に通い、週に3~4日バイトするだけの生活。そんな晃彦が3年生になり、就職ガイダンスに出席するところから始まる。
晃彦は若く、働くことの意味を考え、迷う。しかし話し合う友だちはいない。そんな晃彦を励まし、叱り、導くのは、晃彦がバイトしているロックカフェのオーナー兼マスターのジミーさんだ。
ジミーさんは意外な過去を持っていた。その過去が何かは本書をお読みいただくとして、彼の就活の教えは全部で22ある。最初と最後の教えを紹介しよう。最初の教えは「内定をゴールにしたら、就活は失敗する」。最後の教えは「自分にウソをつくオトナになるな!」。ふたつともスパイシーな名文句だ。残りの20の教えも切れ味があってよく効く。
ジミーさんの教えは、常見さんの学生へのアドバイスでもある。常見さんがシューカツを論じる時の舌鋒は鋭いが、学生向けに書かれた本書の文章はとても暖かい。多くの就活に悩む学生たちと話し、後押ししてきた経験が反映されているのだと思う。
就活の深みにはまる学生は、企業に対し卑屈になり、「内定をもらえる学生」に自分を近づけようとする。晃彦もこの罠にはまり、エントリーシートを捏造し、ジミーさんを激怒させてしまう。ジミーさんは晃彦を諭す。
「人生には"変えられるもの"と"変えられないもの"がある」
「重要なのは"変えられるもの"にフォーカスするってことなんだ。ところが、みんな"変えられないもの"にばかり注目しちゃう。たとえば、学歴」
そして5番目の教えを伝える。「"変えられないもの"は受け入れる。そして、胸を張れ!」。これは常見さんが就活を始める学生に、まず伝えたいことだろう。このような重要なことは太文字で強調されており、わかりやすい。
また下段には脚注が設けられ、就活で知っておいたほうが良いことが説明されている。たとえば「内定率の格差」「就活難民」「ブラック企業」「採用活動はウソだらけ」などと多彩なコンテンツだ。本文で説明すると小説のリアルさが損なわれるから、こういう構成にしたのだろう。
この本のいいところは晃彦の成長していく姿に共感できることだ。大人が読めば、20歳そこそこの頃の自分に戻り、緊張した就職面接や入社後の最初の商談を思い出すだろう。学生が読めば、晃彦の姿に自分のこれからの就活をダブらせるだろう。
そしてこの小説はハッピーエンドで終わらない。内定を獲得するシーンはないのだ。読者に「よし、晃彦がようやく内定!」と思わせながら、その期待を上手に裏切っている。
内定のシーンまで書いてしまえば、「こうすればうまくいく」という小説仕立てのマニュアルになってしまうが、常見さんは書かない。たぶん就活の成功にマニュアルはないと考えているからだろう。
もちろん小説だからエンディングはある。第10章「内定の、その先へ。」が最終章だ。小説やドラマでもっとも重要なのはラストシーンだ。本書のラストシーンは意表を突かれる展開で、かなり感動的だ。
就活生を主人公にし、就職スケジュールに沿って起こるイベント、主人公の心理、そしてオトナのジミーさんとの会話で構成された小説。「就活の神さま」というタイトル通り、就活をテーマにしているように見える。
しかし読み終えて見ると、著者が提示したかった本当のテーマは若者の成長であるように思えてきた。
これから就活を始める学生にとって良書だと思う。就活は、大人と話すという体験が重要だが、なぜ重要なのかを就活を始める前の学生が理解することは難しいと思う。本書を読めば、主人公の心理や行動を追体験できる。そして就活とは何か、働くとは何かを知ることができる。そして偽物ではなく本物の就活を始めることができる。
主人公は名古屋の公立高校から都内の大学に進学した晃彦。偏差値55の大学はすべり止めだった。2年間は、単位を取るために大学に通い、週に3~4日バイトするだけの生活。そんな晃彦が3年生になり、就職ガイダンスに出席するところから始まる。
晃彦は若く、働くことの意味を考え、迷う。しかし話し合う友だちはいない。そんな晃彦を励まし、叱り、導くのは、晃彦がバイトしているロックカフェのオーナー兼マスターのジミーさんだ。
ジミーさんは意外な過去を持っていた。その過去が何かは本書をお読みいただくとして、彼の就活の教えは全部で22ある。最初と最後の教えを紹介しよう。最初の教えは「内定をゴールにしたら、就活は失敗する」。最後の教えは「自分にウソをつくオトナになるな!」。ふたつともスパイシーな名文句だ。残りの20の教えも切れ味があってよく効く。
ジミーさんの教えは、常見さんの学生へのアドバイスでもある。常見さんがシューカツを論じる時の舌鋒は鋭いが、学生向けに書かれた本書の文章はとても暖かい。多くの就活に悩む学生たちと話し、後押ししてきた経験が反映されているのだと思う。
就活の深みにはまる学生は、企業に対し卑屈になり、「内定をもらえる学生」に自分を近づけようとする。晃彦もこの罠にはまり、エントリーシートを捏造し、ジミーさんを激怒させてしまう。ジミーさんは晃彦を諭す。
「人生には"変えられるもの"と"変えられないもの"がある」
「重要なのは"変えられるもの"にフォーカスするってことなんだ。ところが、みんな"変えられないもの"にばかり注目しちゃう。たとえば、学歴」
そして5番目の教えを伝える。「"変えられないもの"は受け入れる。そして、胸を張れ!」。これは常見さんが就活を始める学生に、まず伝えたいことだろう。このような重要なことは太文字で強調されており、わかりやすい。
また下段には脚注が設けられ、就活で知っておいたほうが良いことが説明されている。たとえば「内定率の格差」「就活難民」「ブラック企業」「採用活動はウソだらけ」などと多彩なコンテンツだ。本文で説明すると小説のリアルさが損なわれるから、こういう構成にしたのだろう。
この本のいいところは晃彦の成長していく姿に共感できることだ。大人が読めば、20歳そこそこの頃の自分に戻り、緊張した就職面接や入社後の最初の商談を思い出すだろう。学生が読めば、晃彦の姿に自分のこれからの就活をダブらせるだろう。
そしてこの小説はハッピーエンドで終わらない。内定を獲得するシーンはないのだ。読者に「よし、晃彦がようやく内定!」と思わせながら、その期待を上手に裏切っている。
内定のシーンまで書いてしまえば、「こうすればうまくいく」という小説仕立てのマニュアルになってしまうが、常見さんは書かない。たぶん就活の成功にマニュアルはないと考えているからだろう。
もちろん小説だからエンディングはある。第10章「内定の、その先へ。」が最終章だ。小説やドラマでもっとも重要なのはラストシーンだ。本書のラストシーンは意表を突かれる展開で、かなり感動的だ。
就活生を主人公にし、就職スケジュールに沿って起こるイベント、主人公の心理、そしてオトナのジミーさんとの会話で構成された小説。「就活の神さま」というタイトル通り、就活をテーマにしているように見える。
しかし読み終えて見ると、著者が提示したかった本当のテーマは若者の成長であるように思えてきた。
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