田宮 寛之 著
東洋経済新報社
1365円
東洋経済新報社
1365円
「就活は3年生からでは遅すぎる! 」というタイトルだけを読むと、1年生からの就活指南本と誤解する人もいるだろう。まったく違う。サブタイトルの「内定を勝ち取るための、大学1~2年生の過ごし方」が本旨である。
1~2年生を対象とし、わかりやすく納得できる内容だ。学生にとって有益だが、キャリア教育をどのように展開すべきかに悩む大学教員、キャリアセンター職員にも推薦したい。得られるものは大きいはずだ。
著者の田宮寛之氏は、東洋経済HRオンラインの現役編集長だ。経済紙の記者として積み上げてきた経験をベースに、現在の就活を分析し、内定を勝ち取れる学生になる方法を伝授したのが本書である。「おわりに」で田宮氏は、真夏の炎天下にリクルートスーツで歩いている就活生に思わず声をかけたくなったと書いている。「今さらどんなにがんばっても遅いぞ。何でもっと早くからやるべきことをやらなかったんだ?」と。
「やるべきこと」とは何か。多くの就活本は、自己分析、敬語の使い方、エントリーシートの書き方、面接スキルなどを説明し、内定を獲得するためには自らの「術」を磨くことが必要と学生に信じ込ませている。
本書は違う。自己分析、SPI対策、面接についても触れているが、論旨の立脚点がまったく異なる。就活本には「学生の本分は学業にある」という基本的な視点が抜け落ちているが、本書は「学業」を中核に置き、「企業は勉強する学生を評価する」という当たり前の真実から就活=内定を論じている。
勉学で成果を出すには時間がかかる。学業が内定のための条件だとすれば、3年生になってからがんばっても間に合わない。「3年生から4年生にかけて1年以上も就活をがんばるエネルギーがあるのならば、なぜその力を1~2年生の時に使わなかったのか?」。
第1章「今こそ勝負! 1~2年生の時にやっておくべき5つのポイント」は、まことにわかりやすい。まず「語学力のアップ」。最低でもTOEIC600。NHKのラジオ講座や大学内の語学講座を利用して地道に勉強しようと説く。
中国語なら中国語検定3級でも評価される。しかし3年生からでは遅すぎる。1~2年生の早いうちから勉強して3級を取得できれば、就活を有利に進められる。
2つ目のポイントは「経理的能力」だ。著者は簿記検定取得をすすめている。転職では簿記2級が必要だが、新卒なら簿記3級でもだいじょうぶ。
3つ目のポイントは「経済に強くなる」。多くの就活本は日経新聞をすすめているが、著者は違う。「1年生から日経新聞を読むのはやめましょう」と諭している。
この文章を読んで気づいたが、いまの学生は新聞を読む習慣を持っていない。3年生になってはじめて読む新聞として適しているのは、ビジネスパーソンのために編集されている日経新聞ではなく、一般人を読者にしている朝・毎・読の三大全国紙や地方紙だろう。
ポイントの4つ目は、「1~2年生からのインターンシップ参加」。インターンシップに参加すれば、仕事の中身がリアルにわかり、志望職種・業界が決めやすくなる。自分の適性についても理解が進む。また社会人と接することで、社会人慣れする。社会人慣れは、就活本番の面接に生かされる。もちろん礼儀、立ち居振る舞い、言葉遣いなどのビジネスマナーが身につく。
5番目のポイントは「就活開始前に就活資金を確保」すること。3年生の5月までに20万円ほどの就活資金のメドを立てておくことが必要だ。なぜなら6月からインターンシップの選考試験が始まるからだ。
5つのポイントは実践的だし、1年生、2年生から始めるならTOEIC600、中国語検定3級、簿記3級の資格取得はそれほど高いハードルではない。
これまでの就活の常識は観念過剰で、どの本も似通っていた。多くの人事が「面接で学生の差がわからない」と言うが、そうなってしまう理由は簡単だ。学生たちは同じようなお題目を読んで自己分析し、自己PRのアピールポイントを探し、「御社を志望する理由」を作っているのだから差がなくなるのが当たり前だ。
本書はそういう就活の常識の真偽を、経済紙記者の目で平易に解説している。就活の常識では「黒いスーツ」が必要だが、著者は黒くなくても構わないと断言している。
就活の常識は、就職情報の収集基地が就職ナビとキャリアセンターだと教えているが、著者は「もっと活用すべきなのは(新卒応援)ハローワーク」と説いている。
エントリーシートや面接での自己PRでは、バイト経験、サークル活動、ボランティア、海外留学などをアピールする学生が多い。就活のため友だちとサークルを作ったり、短期の語学留学したりする学生もいるが、そういうものが有利になるという就活の常識があるからだ。しかしこの常識も著者は否定している。理由は、これらの活動は学生の本業と無縁だからだ。
重要な指摘が105pから107pにかけて書かれている。現在の就活の常識では、書類選考やペーパー試験は足切りのために行われており、重要なのは面接だと信じられている。だから経団連の倫理憲章の「選考開始」は「面接解禁」を意味している。そして学生は面接での印象を良くするために、就活スキルを磨き、内定確率を上げるために多くの企業にエントリーしてきた。
ところが2011年入学の1年生が選考を受ける時には、そういう常識が崩れ、面接重視から学力重視になっていると著者は予測している。そうなるかもしれない。
面接の印象だけで採用を決めている国は日本くらいだし、日本でもかつては大学名、大学での成績、筆記試験の結果などの学力が重視されていた。面接自体がなくなることはないだろうが、人材選考の基準が面接から学力になれば、若者たちの就活準備は様相を変え、就活・採活が健全化していくかもしれない。
1~2年生を対象とし、わかりやすく納得できる内容だ。学生にとって有益だが、キャリア教育をどのように展開すべきかに悩む大学教員、キャリアセンター職員にも推薦したい。得られるものは大きいはずだ。
著者の田宮寛之氏は、東洋経済HRオンラインの現役編集長だ。経済紙の記者として積み上げてきた経験をベースに、現在の就活を分析し、内定を勝ち取れる学生になる方法を伝授したのが本書である。「おわりに」で田宮氏は、真夏の炎天下にリクルートスーツで歩いている就活生に思わず声をかけたくなったと書いている。「今さらどんなにがんばっても遅いぞ。何でもっと早くからやるべきことをやらなかったんだ?」と。
「やるべきこと」とは何か。多くの就活本は、自己分析、敬語の使い方、エントリーシートの書き方、面接スキルなどを説明し、内定を獲得するためには自らの「術」を磨くことが必要と学生に信じ込ませている。
本書は違う。自己分析、SPI対策、面接についても触れているが、論旨の立脚点がまったく異なる。就活本には「学生の本分は学業にある」という基本的な視点が抜け落ちているが、本書は「学業」を中核に置き、「企業は勉強する学生を評価する」という当たり前の真実から就活=内定を論じている。
勉学で成果を出すには時間がかかる。学業が内定のための条件だとすれば、3年生になってからがんばっても間に合わない。「3年生から4年生にかけて1年以上も就活をがんばるエネルギーがあるのならば、なぜその力を1~2年生の時に使わなかったのか?」。
第1章「今こそ勝負! 1~2年生の時にやっておくべき5つのポイント」は、まことにわかりやすい。まず「語学力のアップ」。最低でもTOEIC600。NHKのラジオ講座や大学内の語学講座を利用して地道に勉強しようと説く。
中国語なら中国語検定3級でも評価される。しかし3年生からでは遅すぎる。1~2年生の早いうちから勉強して3級を取得できれば、就活を有利に進められる。
2つ目のポイントは「経理的能力」だ。著者は簿記検定取得をすすめている。転職では簿記2級が必要だが、新卒なら簿記3級でもだいじょうぶ。
3つ目のポイントは「経済に強くなる」。多くの就活本は日経新聞をすすめているが、著者は違う。「1年生から日経新聞を読むのはやめましょう」と諭している。
この文章を読んで気づいたが、いまの学生は新聞を読む習慣を持っていない。3年生になってはじめて読む新聞として適しているのは、ビジネスパーソンのために編集されている日経新聞ではなく、一般人を読者にしている朝・毎・読の三大全国紙や地方紙だろう。
ポイントの4つ目は、「1~2年生からのインターンシップ参加」。インターンシップに参加すれば、仕事の中身がリアルにわかり、志望職種・業界が決めやすくなる。自分の適性についても理解が進む。また社会人と接することで、社会人慣れする。社会人慣れは、就活本番の面接に生かされる。もちろん礼儀、立ち居振る舞い、言葉遣いなどのビジネスマナーが身につく。
5番目のポイントは「就活開始前に就活資金を確保」すること。3年生の5月までに20万円ほどの就活資金のメドを立てておくことが必要だ。なぜなら6月からインターンシップの選考試験が始まるからだ。
5つのポイントは実践的だし、1年生、2年生から始めるならTOEIC600、中国語検定3級、簿記3級の資格取得はそれほど高いハードルではない。
これまでの就活の常識は観念過剰で、どの本も似通っていた。多くの人事が「面接で学生の差がわからない」と言うが、そうなってしまう理由は簡単だ。学生たちは同じようなお題目を読んで自己分析し、自己PRのアピールポイントを探し、「御社を志望する理由」を作っているのだから差がなくなるのが当たり前だ。
本書はそういう就活の常識の真偽を、経済紙記者の目で平易に解説している。就活の常識では「黒いスーツ」が必要だが、著者は黒くなくても構わないと断言している。
就活の常識は、就職情報の収集基地が就職ナビとキャリアセンターだと教えているが、著者は「もっと活用すべきなのは(新卒応援)ハローワーク」と説いている。
エントリーシートや面接での自己PRでは、バイト経験、サークル活動、ボランティア、海外留学などをアピールする学生が多い。就活のため友だちとサークルを作ったり、短期の語学留学したりする学生もいるが、そういうものが有利になるという就活の常識があるからだ。しかしこの常識も著者は否定している。理由は、これらの活動は学生の本業と無縁だからだ。
重要な指摘が105pから107pにかけて書かれている。現在の就活の常識では、書類選考やペーパー試験は足切りのために行われており、重要なのは面接だと信じられている。だから経団連の倫理憲章の「選考開始」は「面接解禁」を意味している。そして学生は面接での印象を良くするために、就活スキルを磨き、内定確率を上げるために多くの企業にエントリーしてきた。
ところが2011年入学の1年生が選考を受ける時には、そういう常識が崩れ、面接重視から学力重視になっていると著者は予測している。そうなるかもしれない。
面接の印象だけで採用を決めている国は日本くらいだし、日本でもかつては大学名、大学での成績、筆記試験の結果などの学力が重視されていた。面接自体がなくなることはないだろうが、人材選考の基準が面接から学力になれば、若者たちの就活準備は様相を変え、就活・採活が健全化していくかもしれない。
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