柴田明彦著
朝日新書 735円
朝日新書 735円
多くの企業が企業理念や行動規範を文章化しているが、社員以外に知られているものは皆無に近い。しかし、内容を暗記していなくても、電通マンの猛烈さを示すものとして「鬼十則」という名前をかなり多くの人が知っていると思う。
わたし自身は「鬼十則」を読んだことがあるが、読み飛ばしていた。今回あらたに柴田氏の著書を読み、尋常でない迫力に驚いた。また昭和という時代を思い出した。
本署は、「お二重の利」10錠を1錠ずつ章建てとし、柴田氏の解釈、経験、どう札を語っている。しかし鬼中乗りの
鬼十則第1条 仕事は自ら「創る」べきで、与えられるべきでない。
鬼十則第2条 仕事とは、先手先手と「働き掛け」て行くことで、受け身でやるものではない。
鬼十則第3条 「大きな仕事」と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。
鬼十則第4条 「難しい仕事」を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。
鬼十則第5条 取り組んだら「放すな」、殺されても放すな、目的完遂までは…。
鬼十則第6条 周囲を「引きずり回せ」、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきができる。
鬼十則第7条 「計画」を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。
鬼十則第8条 「自信」を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚味すらがない。
鬼十則第9条 頭は常に「全回転」、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。
鬼十則第10条 「摩擦を怖れるな」、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。
十則全体が積極的な行動重視で貫かれている。近年、求める人材像として「出る杭」が上げられるが、要するに打たれても打たれても出てくる杭のような行動を取れ、ということだ。
心理学的に説明すれば「達成欲求」「親和欲求」「権力欲求」のうち、ビジネスで成果を上げるには「達成欲求」が大切と言っているようにも読める。
ただやみくもに行動しても成果は出ない。「自分の仮説の実現可能性を追求する行動力を持ち、非実現の際に検証を見極めて、成功と失敗の経験値をストック」して「総合的な企画力を進化」させていく(第1条21p)。
著者は「創造力」に加えて、「想像力」も重要だと説く。ただし一般の想像力ではなく、確かな情報収集に基づいた想像力だ。企画立案で陥る罠のひとつに"想像力の欠如"がある。
たとえば消費者ニーズを捉えるマーケットインによる商品企画が失敗する理由は、間違って消費者ニーズを想定しているからだ。これが想像力の欠如であり、欠如の理由は情報が正しくないからだ。より精度の高い情報を得るには、より多元的に、より情報発信源に近いところで収集しなければならない。
鬼十則第2条では、スピード感の重要性が語られる。著者によれば、「社会環境は"ストレス・フリー"へと変貌している。ストレス・フリーの背景には、コンビニ、ATM、新幹線、インターネットなどの出現がある。
便利さに慣れているので、「時間を要する」「待つ」ということに異様にストレスを感じるのだ。そして世の中全体が極力「お金をかけずに」「時間をかけずに」「無駄な手間や労力をかけずに」といったストレス・フリー社会にシフトしている。
だから「社に持ち帰って検討しまして、後日再度ご提案します」という"化石化した営業姿勢"でき競合他社に仕事を奪われてしまう。組織も個人もスピードアップした判断が求められる(42p)。
そのために必要なのが「仮説力」だ。「仮説」→「実行」→「検証」のサイクルを循環させて「仮説力」を鍛える。朝刊を読む時、電車の中、会議、食事、訪問先、会合の場などで、すべての起こり得る視野開示書に対して「もし自分だったら」と仮定し、当事者意識を持って、考えることから仮説力を高める修練が始まる(44p)。
鬼十則第4条 「難しい仕事」を狙えでは、日本社会の"均質性"を批判している。つねに"和解"を目指す論争、"馴れ合い"に終わる対話。このような愛社精神が"排他性"や"閉塞感情"を生む。そして個は慣行に従っているうちに自分の枠やストッパー設定してしまう。
柴田氏は「棺桶のフタが閉まるまで自分の枠を限定することを止めてみよう」と呼びかける。そして現状の能力を凌駕する目標「ストレッチ・ゴール」を設定することを進める。具体的には「難しい仕事」に取り組むのだ。
本書は、1983年に電通に入社した柴田氏が取り組んだ仕事、描いたゴール、そのための方法、学び成長したことを主体にして叙述されているが、途中から「成長」そのものがテーマになってくる。キャリア・ビジョンや、次世代リーダーの育成だ。
学者がリーダーについて語ると観念的になるが、柴田氏は電通マンとして成長し、リーダーとして後進を育ててきた。非常に具体的なリーダー論であり、実践的である。
読みながら思い出したのは、1980年代(昭和)の日本だ。当時は柴田氏に限らず、モーレツに仕事をすることができた。やらせてもらえたし、失敗してもとがめられず、成長の糧にできた。しかしいまはどうだろうか?
ISO9001、14001、コンプライアンス、CSR、個人情報、ワークライフバランス、残業規制と、「してはならない規則」で縛られているように思える。
本書の帯には、ビジネス環境が変わっても通底する「普遍の真理」がある、と書かれている。そして多くの読者にとって本書は有益だと確信する。とくにグローバル化ビジネスにおいて「普遍の真理」だと思う。だがその一方で、日本社会や企業文化が内向き志向に陥っていることも事実だと思う。
わたし自身は「鬼十則」を読んだことがあるが、読み飛ばしていた。今回あらたに柴田氏の著書を読み、尋常でない迫力に驚いた。また昭和という時代を思い出した。
本署は、「お二重の利」10錠を1錠ずつ章建てとし、柴田氏の解釈、経験、どう札を語っている。しかし鬼中乗りの
鬼十則第1条 仕事は自ら「創る」べきで、与えられるべきでない。
鬼十則第2条 仕事とは、先手先手と「働き掛け」て行くことで、受け身でやるものではない。
鬼十則第3条 「大きな仕事」と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。
鬼十則第4条 「難しい仕事」を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。
鬼十則第5条 取り組んだら「放すな」、殺されても放すな、目的完遂までは…。
鬼十則第6条 周囲を「引きずり回せ」、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきができる。
鬼十則第7条 「計画」を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。
鬼十則第8条 「自信」を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚味すらがない。
鬼十則第9条 頭は常に「全回転」、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。
鬼十則第10条 「摩擦を怖れるな」、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。
十則全体が積極的な行動重視で貫かれている。近年、求める人材像として「出る杭」が上げられるが、要するに打たれても打たれても出てくる杭のような行動を取れ、ということだ。
心理学的に説明すれば「達成欲求」「親和欲求」「権力欲求」のうち、ビジネスで成果を上げるには「達成欲求」が大切と言っているようにも読める。
ただやみくもに行動しても成果は出ない。「自分の仮説の実現可能性を追求する行動力を持ち、非実現の際に検証を見極めて、成功と失敗の経験値をストック」して「総合的な企画力を進化」させていく(第1条21p)。
著者は「創造力」に加えて、「想像力」も重要だと説く。ただし一般の想像力ではなく、確かな情報収集に基づいた想像力だ。企画立案で陥る罠のひとつに"想像力の欠如"がある。
たとえば消費者ニーズを捉えるマーケットインによる商品企画が失敗する理由は、間違って消費者ニーズを想定しているからだ。これが想像力の欠如であり、欠如の理由は情報が正しくないからだ。より精度の高い情報を得るには、より多元的に、より情報発信源に近いところで収集しなければならない。
鬼十則第2条では、スピード感の重要性が語られる。著者によれば、「社会環境は"ストレス・フリー"へと変貌している。ストレス・フリーの背景には、コンビニ、ATM、新幹線、インターネットなどの出現がある。
便利さに慣れているので、「時間を要する」「待つ」ということに異様にストレスを感じるのだ。そして世の中全体が極力「お金をかけずに」「時間をかけずに」「無駄な手間や労力をかけずに」といったストレス・フリー社会にシフトしている。
だから「社に持ち帰って検討しまして、後日再度ご提案します」という"化石化した営業姿勢"でき競合他社に仕事を奪われてしまう。組織も個人もスピードアップした判断が求められる(42p)。
そのために必要なのが「仮説力」だ。「仮説」→「実行」→「検証」のサイクルを循環させて「仮説力」を鍛える。朝刊を読む時、電車の中、会議、食事、訪問先、会合の場などで、すべての起こり得る視野開示書に対して「もし自分だったら」と仮定し、当事者意識を持って、考えることから仮説力を高める修練が始まる(44p)。
鬼十則第4条 「難しい仕事」を狙えでは、日本社会の"均質性"を批判している。つねに"和解"を目指す論争、"馴れ合い"に終わる対話。このような愛社精神が"排他性"や"閉塞感情"を生む。そして個は慣行に従っているうちに自分の枠やストッパー設定してしまう。
柴田氏は「棺桶のフタが閉まるまで自分の枠を限定することを止めてみよう」と呼びかける。そして現状の能力を凌駕する目標「ストレッチ・ゴール」を設定することを進める。具体的には「難しい仕事」に取り組むのだ。
本書は、1983年に電通に入社した柴田氏が取り組んだ仕事、描いたゴール、そのための方法、学び成長したことを主体にして叙述されているが、途中から「成長」そのものがテーマになってくる。キャリア・ビジョンや、次世代リーダーの育成だ。
学者がリーダーについて語ると観念的になるが、柴田氏は電通マンとして成長し、リーダーとして後進を育ててきた。非常に具体的なリーダー論であり、実践的である。
読みながら思い出したのは、1980年代(昭和)の日本だ。当時は柴田氏に限らず、モーレツに仕事をすることができた。やらせてもらえたし、失敗してもとがめられず、成長の糧にできた。しかしいまはどうだろうか?
ISO9001、14001、コンプライアンス、CSR、個人情報、ワークライフバランス、残業規制と、「してはならない規則」で縛られているように思える。
本書の帯には、ビジネス環境が変わっても通底する「普遍の真理」がある、と書かれている。そして多くの読者にとって本書は有益だと確信する。とくにグローバル化ビジネスにおいて「普遍の真理」だと思う。だがその一方で、日本社会や企業文化が内向き志向に陥っていることも事実だと思う。
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