守島 基博著
日経プレミアシリーズ 893円
日経プレミアシリーズ 893円
本書の帯に「日本企業はなぜ人が育たないのか」と書かれている。この「育たない」問題を複数のキーワードから解き明かしていくプロセスがおもしろく、発見が多い。
20年前には存在しなかった現象(多数の非正規社員など)が現代の職場には存在している。またいろんな常識が横行している。たとえばコンプライアンスやワークライフバランスだ。いずれも「推進しなければならない良いこと」と信じられているが、守島氏によればどちらも「いきすぎ」ではないかと問題を提起している。
コンプライアンスは「法令遵守」意味するが、現在では「内部統制」の色合いが強くなっている。いまの会社は規制だらけだ。個人情報保護法令によって、パソコンやデータを家に持ち帰れない。明日までに仕上げなくてはならない仕事を会社でやろうとしても、残業時間規制がある。
会食についても「だれ」「いくら」「食事の内容(店)」まで細かく規制されている。メールについても記録がチェックされている。新卒採用で人事は「求む、型破り人材」と言うが、こんな規制の中ではだれも型を破れない。
守島氏は、こうした仕組みは経営者が従業員を信頼していないと受け取られやすいと説く。その通りだろう。またルールに従うことに慣れると、「ルールに従うこと自体が目的になり、自律的に考えることをやめてしまう」とも言う。
こういう負の結果を招かないための処方箋も提示されている。コンプライアンス経営の原則と理念を経営者と従業員が共有し、ある程度の柔軟性を許容することだ。また末端のパートタイム従業員の意見を取り入れることも有益だ。
ワークライフバランスについても「いきすぎ」がある。本書では「3つの誤解」と書いている。まず「みんながワークとライフをバランスさせなければならない」と思いこんでいること。しかし「みんな」がそうしなくてはならない必然性はない。どうバランスさせるかは個人が選択することだが、「みんなが家族と子どもとたくさんの時間を過ごさなければならない」という風潮がある。これは誤解だ。
次に「ワークライフバランスは働き方の変革を引き起こす」という誤解がある。働く人が私生活を充実させると労働が効率化され、長時間労働がなくなり、もっと人間的な生活ができる、というワークライフバランス論に対し、守島氏は「ワークライフバランスは結果であって原因ではない」と言う。つまり働き方が効率化され、長時間労働がなくなることでワークライフバランスという結果になると言うのだ。
3番目の誤解は「ワークライフバランスは企業の競争力を向上させる」というものだ。これからの人材獲得大競争時代を乗り切るためには、ワークライフバランスによる採用力の向上が必要という論理だ。一理ある。ただし守島氏によればそういう見方は狭く、ワークライフバランスで採用しても、競争力に結びつけるには人材育成、配置、評価・処遇という人材活用の仕組みが大きく影響すると述べている。当たり前のことだが、会社のなかで人をどう気づけるのは仕事そのものなのだ。
本稿ではコンプライアンスとワークライフバランスについて紹介したが、もっと多くの見識が示されている。とくに優れている点は。過去20年間の人材の歴史(能力主義から成果主義、そして終身雇用の見直し)を振り返り、いま起こっている人材不況の理由を明らかにした上で、具体的な処方箋を提示していることだ。
とくに経験が少なく、若い人事担当者に本書を薦めたい。さまざまな人事制度の背景をわかりやすく学ぶことができる。
20年前には存在しなかった現象(多数の非正規社員など)が現代の職場には存在している。またいろんな常識が横行している。たとえばコンプライアンスやワークライフバランスだ。いずれも「推進しなければならない良いこと」と信じられているが、守島氏によればどちらも「いきすぎ」ではないかと問題を提起している。
コンプライアンスは「法令遵守」意味するが、現在では「内部統制」の色合いが強くなっている。いまの会社は規制だらけだ。個人情報保護法令によって、パソコンやデータを家に持ち帰れない。明日までに仕上げなくてはならない仕事を会社でやろうとしても、残業時間規制がある。
会食についても「だれ」「いくら」「食事の内容(店)」まで細かく規制されている。メールについても記録がチェックされている。新卒採用で人事は「求む、型破り人材」と言うが、こんな規制の中ではだれも型を破れない。
守島氏は、こうした仕組みは経営者が従業員を信頼していないと受け取られやすいと説く。その通りだろう。またルールに従うことに慣れると、「ルールに従うこと自体が目的になり、自律的に考えることをやめてしまう」とも言う。
こういう負の結果を招かないための処方箋も提示されている。コンプライアンス経営の原則と理念を経営者と従業員が共有し、ある程度の柔軟性を許容することだ。また末端のパートタイム従業員の意見を取り入れることも有益だ。
ワークライフバランスについても「いきすぎ」がある。本書では「3つの誤解」と書いている。まず「みんながワークとライフをバランスさせなければならない」と思いこんでいること。しかし「みんな」がそうしなくてはならない必然性はない。どうバランスさせるかは個人が選択することだが、「みんなが家族と子どもとたくさんの時間を過ごさなければならない」という風潮がある。これは誤解だ。
次に「ワークライフバランスは働き方の変革を引き起こす」という誤解がある。働く人が私生活を充実させると労働が効率化され、長時間労働がなくなり、もっと人間的な生活ができる、というワークライフバランス論に対し、守島氏は「ワークライフバランスは結果であって原因ではない」と言う。つまり働き方が効率化され、長時間労働がなくなることでワークライフバランスという結果になると言うのだ。
3番目の誤解は「ワークライフバランスは企業の競争力を向上させる」というものだ。これからの人材獲得大競争時代を乗り切るためには、ワークライフバランスによる採用力の向上が必要という論理だ。一理ある。ただし守島氏によればそういう見方は狭く、ワークライフバランスで採用しても、競争力に結びつけるには人材育成、配置、評価・処遇という人材活用の仕組みが大きく影響すると述べている。当たり前のことだが、会社のなかで人をどう気づけるのは仕事そのものなのだ。
本稿ではコンプライアンスとワークライフバランスについて紹介したが、もっと多くの見識が示されている。とくに優れている点は。過去20年間の人材の歴史(能力主義から成果主義、そして終身雇用の見直し)を振り返り、いま起こっている人材不況の理由を明らかにした上で、具体的な処方箋を提示していることだ。
とくに経験が少なく、若い人事担当者に本書を薦めたい。さまざまな人事制度の背景をわかりやすく学ぶことができる。
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