法律用語に「過失」がある。誰の目にも明らかにわかる重大な過失もあれば、一つひとつはさほど影響力のない、目にみえない小さな過失もある。しかしそんな小さな過失でも、積み重なることで、重大な過失を構成する場合がある。
この記述、病気とも思えぬ、かと言って、過激な運動をしたわけでもないのに我が身から去らぬ“凝(こ)り”と重なる。そして図らずも、昨今の成熟した企業に起きている問題を連想させる。

日々おこる諸々の中に、特別荷重なことをやっているわけではないのに、疲れが、澱が、小さな間違いが積みあがっていく。それも“知らぬ間”に…。
“小さな凝り”を見逃さない

組織も凝る

“知らぬ間”の主は、習慣だ。人間は、習慣の僕である。最初は大変なことでも、慣れてしまえばどうということなく、すらすらとできるようになる。
それがよき習慣なら結構だが、悪しきものもある。小さな不自然さや、疲れ、過失は見えにくい。放っておいてもわからず、慢性化してしまうと、異常であることにすら気づかなくなってしまう。異常が轍をつくり、倣いとなると、重症化してしまうことは、人間も組織も同じであろう。

企業の“凝り”の発見には、さまざまなチェック機能があるはずだ。社内検査、内部・外部の監査、健康診断やストレスチェックなど。しかし問題は、チェック機構の形骸化による機能不全だ。さらには高齢化、人材不足が招く組織の代謝低下など、巡りが悪くなる要因は、実に多い。

小さな“凝り”に気づくことからはじめてみよう

危険は小さいうちに見つけることが肝要だ。それもできる限り早く。大きな問題を発生させないために。そのためには、何よりも気づくことが大切だ。個人レベルでも、すぐにできることがある。
ここで、「記憶力に対する思い込み」と「思考の凝り」を体感できるゲームを1つ紹介しよう。 

最低4人からの偶数人でグループを作る。講師役は1人。

まず、各人から身近な名詞を思いつくまま、グループ全体で30個あげてもらう。講師は番号をふりながら、それを紙に記録する。講師は各人に、「30個の名詞を覚えて下さいね」と言い、2回ほど読み上げる。その後、実際に覚えているか、講師は各人に聞いてみる。この段階で覚えている単語はせいぜい数個だろう。

そこで、カードを使った以下の記憶術を受講者に試してもらう。
講師は「全部覚えられるようになりますよ」と言い、名詞10個を書けるサイズのカードを、6枚各人に配る。そのうち3枚のカードに、さきほどの名詞30個を10個ずつ、番号をつけながら書いてもらう。これを「基本カード」とよぶ。

残る3枚は「テーマカード」として使う。1枚目には、「現在地まで来る途中で見たもの」を、2枚目には「行ってみたい国や場所」を、そして3枚目には「興味のある人や有名人」を、それぞれ名詞で10個書く。基本カード1枚とテーマカード1枚を1セットとする。すると、1人3セット持つことになる。

次に各人で基本カードとテーマカードを並べ、1番なら1番どうし、2番なら2番どうし、それぞれ呼応する名詞を関連づける作業をする。関連づけは、できる限り突飛なものとするよう指示する。やり方としては、講師が番号を読み、5秒ほどの時間を与える。長くてはいけない。これをテーマごとに3セット行う。

ここまで準備が整ったら、2人1組になり記憶の確認を行う。
持っているカードを相手と交換し、一方が基本カードの番号だけを読みあげ、相手はそのカードに書かれている名詞を当てる。テーマごとに3セット、基本カードに書かれた全30の名詞に対して行う。次は相手と役割を交代して、同じことを行う。
(※参考図書 渡辺 剛彰著 『一発逆転ワタナベ式記憶術』)

さて、このゲームを行う前と後で、どういう変化があっただろうか。
最初は、30個のうちせいぜい、3つ4つしか覚えていない。ところが、次第に覚えられるようになる。

キメ手は、名詞どうしを関連づける“非日常的”かつ“あり得ない”発想である。 
例えば、街路樹の「ハナミズキ」と「ラーメン」を関連づける場合、「ハナミズキという名のラーメン屋」では当たり前過ぎて記憶に残らない。これを「ハナミズキにラーメンが垂れさがっていた」、とイメージすると、何日たっても忘れない。

このゲームを試してみると、それまで物事が覚えづらかったのも、歳だからとか、記憶力が悪いからではなく、訓練を怠ったためだとわかる。また、このゲームはテーマの難易度や対象を変えることで、いくらでも展開可能だ。
参加者からは、「常識に囚われていると気づいた」、「記憶力に自信が持てそうだ」といった声があがるだろう。そして、柔軟な思考を持つためのよいきっかけとなると同時に、「記憶力は訓練できるのだ」ということを知ることができる。

“凝り”は警告だ。凝り対策は、いわばリスクマネジメントである。
今、大きな変革の波がひたひたと迫っている。現代は成熟していると思い込み、安穏としている場合ではないようだ。危機感を持たなくてはならない。“小さな凝り”からも、危機への対応の糸口は見える。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!