今年3月に厚労省から「受動喫煙防止対策の強化について(基本的な考え方の案)」が公表された。
受動喫煙防止が平成15年に努力義務とされ10年以上経過したが、依然として飲食店や職場等での受動喫煙は多く、取り組みは限界に達している。こうした現状を受けて、喫煙禁止場所の範囲、施設等の管理者の責務、利用者の責務を明らかにし、この3点の義務に違反したものに対して罰則(過料)を適用することが強化のポイントだ。
施工日は平成31年のラグビーワールドカップに間に合うようにしたい、としている。
受動喫煙防止法強化をどうとらえるか

国民の8割以上が非喫煙者に

日本たばこ産業の「全国たばこ喫煙者率調査」によると、昭和41年では8割強だった喫煙者率が平成28年には2割を切り、この50年間で喫煙者と非喫煙者の割合が逆転した。これに伴い、受動喫煙を問題視する声が大きくなった。

受動喫煙とは他人のたばこの煙(副流煙)を吸ってしまうこと。
たばこから立ち昇る煙や喫煙者が吐き出す煙にも、ニコチン等の有害物質が含まれており、本人は喫煙しなくてもこの受動喫煙を続けると健康被害を生ずるリスクが2~3割も高くなるといわれている。り患率からみると、肺がんで1.3倍、虚血性心疾患で1.2倍、脳卒中で1.3倍となっており、子どもでは乳幼児突然死症候群にかかるリスクが4.7倍になるとするデータもある。
さらに、平成28年国立がん研究センターの推計によると、受動喫煙が無ければ少なくとも年間1万5千人が死亡せずに済んだ、とされる。これは交通事故死亡者数の約4倍の数値である。

こうした受動喫煙の問題は日本だけでのものではなく、防止に向けた動きは世界各国で見られる。
厚労省「受動喫煙防止対策強化の必要」によると、世界の188か国中、公共の場所すべて(8種類)に屋内全面禁煙義務の法律があるのは49か国で次の通り。
禁煙場所の数国数代表的な国
8種類すべて49か国英国、カナダ、ロシア、ブラジル等
6~7種類22か国ノルウェー、ハンガリー等
3~5種類47か国ポーランド、ポルトガル等
0~2種類70か国日本、マレーシア等
※公共の場所とは、医療施設、大学以外の学校、大学、行政機関、事業所、飲食店、バー、公共交通機関を指す。

日本は最下位のグループに入り、世界の中でも公共の場所での禁煙が進んでいないことがわかる。

快適な職場環境を進めるきっかけに

では、職場の受動喫煙状況はどうなっているのだろうか。
厚労省の平成27年度「労働安全衛生調査(実態調査)」によると、取組事業所の割合は87.6%で、事業規模が大きいほどその割合は高く、50人以上の規模で9割を超えている。また、10~29人規模の事業所でも84.9%となっている。
業種別の取り組み割合は、鉱業・採石業等が72%と一番低く、次いで運輸・郵便業79.8%、宿泊業・飲食サービス業84.2%, 建設業86.9%となっている。

禁煙・分煙状況については「事業所建物内全体(執務室、会議室、食堂、休憩室、商談室等を含む)を禁煙とし、屋外のみ喫煙可能としている」が最も多く38.1%で、「敷地全体を含めた事業所全体を禁煙にしている」は15.2%となった。
取組推進上問題ありとする事業所は38.7%で、「顧客に喫煙をやめさせるのが困難」、「喫煙室からの煙の漏えいを完全に防ぐことは困難」と同数で30.6%、次いで「受動喫煙防止に対する喫煙者の理解が得られない」が25.4%となっている。受動喫煙のリスクを理解しながらも、まだ完全な実施が難しいと考える事業所が4割近いというのが現状だ。

一方で、積極的に禁煙に取組んでいる企業もある。
ご存じの方も多いと思うが、ジョンソン・エンド・ジョンソンでは職場禁煙ポリシーを掲げ、2007年より全世界のグループ企業すべての職場を禁煙とした。「社員に安全で健康的な職場環境を提供することが企業の責任」であるとする方針の下での取り組みだ。
その中での日本における活動をホームページから一部引用したい。

『ビル敷地、オフィス内、社用車、会社主催のイベントなどでは時間を問わず全面禁煙としました。また、所定の労働時間中は社内外を問わず禁煙とする「所定労働時間内禁煙」を一部では採用し、受動喫煙を含めて、従業員を喫煙による健康被害から守るために禁煙キャンペーンや禁煙サポートプログラム実施しています』


2020年のオリンピックを控え、受動喫煙問題がクローズアップされている。社会全体が関心を持っている今こそ、受動喫煙防止から職場環境の充実を図り、より高い生産性を目指すチャンスと捉えてはいかがだろうか。長時間労働に端を発した生産性向上の動きだが、その母体となるものは安全で健康的な職場環境にあることに疑いはない。
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