先日“好感度アップ”研修を行った。もっと前に知りたかった、と好評だった。英語では“ライカビリティ”といい、好感度に加え、好きになられる能力、人の気持ちを前向きにする能力を意味する。相手との言葉のやり取りのパターンを知り、好感度アップのポイントを掴みトレーニングするものだ。
目にみえない"空間"と好感度の関係
研修では言葉のやり取りに焦点をあてたが、もうひとつ目にみえない、“空間”と好感度の関係を見てみよう。私達は場違いであることに不快を感じる。例えば、電車の中で化粧をするなどは、その代表である。
なぜか。私個人のやること、どこでやろうと勝手でしょ、だが、公共の場、スペースが共有されている、つまり、あなたの場所でもあるが、私の場所でもあるため、勝手に他人が自分のスペースに入り込んで、自分の嫌いなことをやっていることからくる不快さを感じるのである。
心理学では“自分の快適に必要な占有空間”、をパーソナル・スペースと呼ぶ。はっきり目には見えないが、私達はこの見えない空間に生きている。 原始時代には危険察知に必要な能力だったようだ。
現代はいらないか、というとそうでもなく、つい最近もあった通り魔事件のニュースを聞くと、危険察知能力は今もあった方がよい能力だ。
職場は、このパーソナル・スペースと仕事場という共有スペースで構成されている。最近部下が近寄ってこない、女性社員から嫌われている、としたら、“危険”である。
前出の研修を始めるにあたり、好感度を感じない人を上げてもらったら、続々と出てくる。だらしない、髪がぼさぼさ、不潔感があるなどから始まり、挨拶を返さない、生返事をするなど山のごとく噴出である。自分のパーソナル・スペースに入ってきてほしくない、または、パーソナル・スペースへの距離感にズレがあると、好感度は得られない。
パーソナルスペースの8パターン
アメリカ人の文化人類学者、エドワード・ホールという人が社会生活の中で使い分けられる距離の取り方を8つのパターンに分類している。 そのうちの基本となる四つの距離についてあげると、・密接距離(0~45センチ)
夫婦や恋人など、極めて近しい間柄。
・個体距離(45~120センチ)
相手に触れるために、どちらかが手を伸ばすと届く距離から、両方が手を伸ばすと届く。友人同士の距離感。
・社会距離(120~360センチ)
言葉を交わすことはできても、個人的な会話には向かない。
形式的・儀礼的なやりとりの距離。仕事上の付き合いや、それほど親しくない仲間同士の距離。
・公衆距離(360センチ以上)
ここまで離れると個人的な関係をつくることは難しい。
無関心、無関係な人との距離感。
日頃無意識に感じる快、不快、近寄りたい感じ、離れたい感じ、思い当たるところである。距離の与える心理的な要因として押さえておきたい数値、感覚だ。
トイレは究極のパーソナル・スペースだが、職場においては共有しなければならず、他人への配慮の有無の図りどころである。トイレを見れば、というのは躾が行き届いて綺麗というよりも、他者への配慮、ひいては顧客への配慮まで図りうることができる、ということだろう。クリーンリネスを実行することで“気づき”が高まるからである。個人の好感度、企業の好感度もこの場所が多くを語る。
パーソナル・スペースに対する感度の緩い人は、おおらかと言えるが、他人への配慮が鈍いとも考えられる。組織内の人間関係をパーソナル・スペースへの配慮、距離感で捉えると違う地図が見えてくる。
部下指導で見てみよう。
心理的なパーソナル・スペースを意識することで、“好感度”の高い部下指導ができる。
①自分のデスクに部下を呼び付けて、大声でガナル、ところを自分から部下のデスクに出向き、アドバイスする。
②アイツ、相変わらず挨拶もしない、部下から挨拶するべきだ、とすることころを自分から先に“おはよう、元気か”と声をかける
③会議中腕組みをして出た意見にマイナス評価をするところを、「うんうん、今のいいね」とまずは頷く
上司は“上司の場”に席をおろした途端に、上司であると思い易いが、それは誤解である。
こんなアホで弱っちいことできるか。そもそもオレのメンツに関わる、と感じたならばやや重症である。好感度は下がるばかりで、そんな上司の言うことは聞かないのが相場だ。勿論、部下が上司のメンツを潰すようでは生き残れないが。
隣りの住人には無関心、社員旅行なんて行きたくないが、SNSでは繋がりたい、ツイッタ―で自分をアピールしたい、など住処が狭くなっている。
うまくやっているうちはよいが、トラブルが起こると閉塞しやすい現代である。パーソナル・スペース関係図は見えただろうか。パーソナル・スペースは別名縄張りともいう。
互いのパーソナル・スペース、共有スペースの物理的、心理的影響を知ることは、快適で生産的な職場づくりに繋がるのである。
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