テニスの錦織選手の活躍はスポーツニュースにうとい自分も気になる。精悍なスポーツマンなのに、インタビューでのトロリとした話し方にぐっと親しみを感じてしまうのである。彼の着ているウエアと同じものが欲しくなり、スポンサーのショップを覗くミーハーと化している。
最高のパフォーマンスを生み出すための仕事のコントロール度
それにしても疲れるだろうに、彼はどう休み、心身を回復していくのだろうかと、母性は案じる。勝負の時に最高に調子のよいコンディションで臨むために万全の準備をしているだろう。案じるには及ばない。彼の最高のパフォーマンスを生み出すために、コーチやドクターなど多くの人々ががっちりサポートしているようだ。
プロの選手だけでなく、自分の調子のよい時間をいつにもっていくのか、またはいつなのかを知っていることは、毎日が勝負のビジネスパーソンのわきまえとして大変重要だ。そして自分にできない部分のサポートやアドバイスを得られる人間関係を築いていくことも重要である、と錦織選手は教えてくれる。
会社が親の様に面倒を見てくれるような時代ではなくなり、働くもの個々の自律、コントロール能力が問われる時代だ。 今までにも増して、時間や仕事に対する意識やスキルが働く人の生活、人生の質を変えていく。
労働安全衛生法によるストレスチェックの件で、職業性ストレス簡易調査表の評価項目を眺めてみると、仕事のコントロール度に目がいった。自分のペースややり方で仕事ができる、職場の仕事の方針に自分の意見を反映できる、とある。
ただのわがままで自分のやり方が通るわけもない。仕事のコントロール度ともう一方に報酬という物差しをあててみた。
この報酬は金銭の対価だけではなく、お金でカウントできない評価としての名誉、称賛、感謝等も含む。簡易調査表では“周囲のサポート”項目が評価に該当するだろう。
時間の支配者になるためにひとりの時間をつくる
仕事のコントロール度と報酬の2本の物差しでマトリックスを作ってみると、両方とも限りなく高い場合、錦織選手のようなスーパースターがくる。コントロール度が高まるほど勝ち、賞金もさることながら、名声、称賛とこれもグングン高くなる上昇スパイラルに乗る。時間の支配者は、仕事が面白くてたまらないか、面白くなくても、面白さを発見できる人だ。
一方両方とも低い領域には、時間の奴隷が位置する。
時間の奴隷から逃れる方策はあるのか。その一つはひとりになる時間を持つことだ。
毎日、疲れきって会社から帰り、寝るだけ、という生活では将来の投資のための時間が生まれない。
1人になる時間は、会社で“1人残り”静かに働く時になり、たまに早く帰っていくと、“どこか悪いの?”などと言われるようなると、思考が化石化していく。なんの不具合も感じていないなら、余計なお世話だが、早く仕事を仕上げる創意・工夫、発想の転換等とは無縁になる。
忙しいんだから、無理なんだ、というが、将来への準備や投資には“ひとりの時間”が欠かせない。1人になり自分と向き合う。本を読み、会社生活では出会わない人々からものの見方・考え方を広げ、自分で考えをめぐらす時間を持つ。
毎日ほんの1ページでも、あらかじめ時間を決め、5年10年と継続することで、支配者の領域の住人となっていく。
よい状態で働くには健康であることだ。1人でメンタルな部分と向き合うとともに、フィジカルとも向き合うことだ。調子のよい状態、悪い状態を把握し、漠然とした健康ではなく、コントロールできるツールを持つことは人生の財産だ。
読書が思考の稼働域を広げるとしたら、運動ツールはフィジカルな稼働域を広げることと言える。稼働域を広げることは、本来の能力を柔軟に機能させることでもある。
自分の体とよく向き合える点では経験から、ヨガをおすすめする。体の様々な部分への感覚が開かれることで、心身のクセに気づき、本来自分がもっているよい状態へ修正する方法がわかる。
ヨガ以外にも、ウオーキング、水泳など、自分のペースでできるものもよい。そして正しいコーチを受け、正しい努力をすることがポイントだ。そして継続すること。
このままだと働く年数は増えるだろう。ライフデザイン、キャリアデザインも重要だが、体調を整え、前向きな姿勢で生きることが大前提だ。自分の心身の手入れ法を各自心得ておく必要がある。正しい手入れをした衣服は、箪笥の中に寝かせることで甦るそうだ。
甦る、とはよい言葉だと思う。生、は字統によると、草の発芽生成のこととある。ひとりの時間が心身を涵養する。時に過酷かもしれないが、心身を甦らせ、次への成長を育む大切な時間なのだ。そしてはじめて、他人を喜ばせることや気配りが出来、感謝や楽しさという“報酬”が高まるのである。
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