ファイナンシャルプランナー(以下FP)資格の取得から随分月日が経ち、そろそろ復習しておかなければ、と思っていた矢先にFP受験講座の講師依頼が舞い込んだ。教壇に立つにあたって改めてテキストを通読したが、実務に落とし込む部分は個々のFPの力量や考え方に任せる部分が多い。今回は、FP実務の中で最も多い「保険」に関して、所見を述べる。
ファイナンシャルプランナーが紐解く保険とリスク

正しく保険を選ぶには?

 保険の購入にあたって誰もが考えるであろう「リスク」を説明する際に、よく引き合いに出すのが「自動車保険(任意保険)」である。自動車保険を購入する場合、多くの人たちが選択しているのが「対人賠償無制限」「対物賠償無制限」の保険である。どちらにするのかを無意識のうちに選択している人が多いが、実はちゃんとした根拠をもって選ぶことができる。

 理不尽なことかもしれないが、自動車の死亡事故における被害者への賠償は、「被害者の稼ぎ」によって決められてしまう。したがって、場合によっては数億円の損害賠償となることもあり得るのだ。加害者が、その損害賠償額を普段の収入や貯蓄の中から支払えればいいが、大多数の人にそのような資力はない。そのため「保険」という仕組を使って、万が一の状況に至ったときのために「リスク」を外部に移転しておくわけである。そうすることで、安寧な生活が確保できることになる。
 つまり、ある「保険を購入」すべきか否かは、遭遇する可能性のある事故による経済的負担が自身の普段の生活を破壊するか否か、というメルクマールで測定することに他ならない。

 この考え方を「生命保険(死亡保険)」に当てはめてみよう。
 この保険は、被保険者(例えば夫または妻)の死亡事故により、困窮するであろう遺族(例えば妻または夫や子ども)の生活を補償するための保険である。被保険者が亡くなっても、その家族に多額の資産があれば、生命保険に頼る必要はない。そうでない場合は、前述の自動車保険と同様の考え方でリスク移転を検討しなければならない。しかし、ほとんどの人はここで「感覚」に頼って保険を購入してしまう。

 例えば、夫の収入が妻より多い共働き会社員の夫婦がいたとしよう。このようなケースでは、例外なく「夫が購入している生命保険金」>「妻が購入している生命保険金」となっている。普通に考えれば、何ら不思議ではないように見えるが、ここに大きな落とし穴がある。「遺族年金」の試算が全く欠けているのだ。生命保険の必要保障額算定には、「遺族年金」(遺族基礎年金及び遺族厚生年金)の知識が必須なのである。

 日本の年金制度は「女尊男卑」であることは以前のコラムでも取り上げた。
 「遺族基礎年金」は平成26年からやっと男女平等になったが、「遺族厚生年金」は未だに男女差が大きい。詳細は割愛するが、女性が遺族となれば年齢に関係なく受給できるが、男性の場合は60歳未満であれば支給されない。であれば、先ほどの夫婦の場合の生命保険金は「夫」<「妻」であるべきことがわかる。

生活のリスク管理としての、保険の重要性

さらに、「医療保険」を考えてみよう。
 この保険は誰のために買うのかといえば、自分のためである。では、自分のどのようなリスクを保険に移転するのだろうか?病気や怪我になったときの医療費の自己負担分が支払えないから?中にはそのような人もいるだろうが、多くの場合、かかった病気や怪我による医療費を自己負担できないことはないだろう。単純に公的医療保険の「高額療養費」の存在や内容を知らないだけだ。これによれば、入院1カ月につき約10万円の自己負担で済んでしまう。その程度のリスクであれば、敢えて医療保険に頼る必要性は限りなくゼロに近い。

 では、視点を変えて、病気や怪我などの事故によって、自分の生活が破綻するようなリスクは考えられないだろうか?当座の医療費は賄えても、それらの後遺症で重い障害等が遺り、仕事を失ってしまう恐れもあり得るだろう。このような状況に至るリスクこそ保険によってカバーしておくべきだ。
 もちろん、公的制度として「傷病手当金」や「障害年金」も用意されている。しかし、可能であれば多くの選択肢を準備しておいた方がよい。保険商品の中には、病気や怪我等によって就業不能状態となった場合に毎月定額の保険金が70歳まで支給される「就業不能保険」というのもあるので、一考の価値はある。

 以上のように、保険を購入する場合は、販売されている保険商品ありきで考えないことが肝要である。ある事故によって、誰がリスクを負い、そのリスクが普段の生活や将来の生活にどのような影響を及ぼすか、そして自分たちの生活を破壊するリスクに限定して商品購入を検討すべきだろう。併せて、健康保険制度や年金制度など社会保障制度の理解に努めておかなければならない。
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