「2回目の増税延期はしません」

1年半前に、安倍晋三首相は消費税増税延期に関して、次のように述べていた。
「来年10月の引き上げを18カ月延期し、そして18カ月後、さらに延期するのではないかといった声があります。再び延期することはない。ここで皆さんにはっきりとそう断言いたします。平成29年4月の引き上げについては、景気判断条項を付すことなく確実に実施いたします。3年間、3本の矢をさらに前に進めることにより、必ずやその経済状況をつくり出すことができる。私はそう決意しています。」

「ここで皆さんにはっきりとそう断言いたします。」と明快に一国の首相の重い言葉を残している。「リーマンショック並みの経済危機」や「東日本大震災級の大災害」でも起こらない限り、確実に増税することを約束して、先の総選挙が行われた。しかも、得意満面にアベノミクスの3本の矢が経済を上向かせると豪語していたのだ。
消費税増税は社会保障の拠り所

やっぱり増税は延期します

ところが、前言を翻し「2017年4月からの2%消費税増税の2年半延期」を決定してしまった。しかも、この国内マターを「伊勢・志摩サミット」という国際舞台を利用しようとしたことから、海外メディアからは非難の嵐である。各国首脳が大人の対応をしてくれたことで、火花が散ることはなかったが、国際的な日本政治のプレゼンスは相当ダメージを受けたのではなかろうか。麻生財務大臣が、この増税延期について「衆議院解散で国民の信を問うべきだ」と息巻いていたのは、伊勢・志摩サミット数日前に仙台で行われた「G7財務大臣・中央銀行総裁会議」で「日本は消費税増税は予定どおり実施する」と発言していたこととも関係しているのだろう。少なくとも財務省は蚊帳の外だったのだ。

2年半の延期ということは、2019年10月までは増税しないことを意味する。しかもアベノミクスの看板を下ろすが如く「財政出動」もセットにするらしい。勝手ながら、国家・地方予算の財源不足と財政再建に赤信号が灯るのではと危惧している。

増税延期の弊害

そもそも、消費税増税は何を目的として与野党で決定されたのか。それは、今後の社会保障制度を持続可能なものとするためではなかったのか?増税すれば景気が一時的に落ち込むのは当たり前であり、それが嫌なら増税を決めなければよかったのだ。少々景気が悪くても増税を実施しなければならない、と政治的に判断した理由があったのではないか。下図は、平成27年度予算ベースの「社会保障の給付と負担の現状」だ。社会保障給付費117兆円に対し、財源の内訳は「保険料65兆円」「税45兆円」となっているのがわかる。今後も、この社会保障給付費は、医療・介護・年金を中心として増加していくことが予想され、その増加を賄う財源のひとつが消費税であることを我々は理解しておくべきだ。さもなければ、赤字国債による補てんが行われて、将来負担が増加するどころか、日本の財政問題が世界的にスポットライトを浴びることになってしまう。



日本の国債残高は約1000兆円だが、そのボリュームを想像できるだろうか。なんと、1万円札を平置きして積み上げたら、高さ1万㎞にもなる。それを、東京起点に太平洋をまたいで倒したらシカゴまで届く距離である。重さは10万トンだ。具体的にイメージすれば、途方もない借金の額だ。これだけの借金をさらに増やすということが何を意味するか真剣に考えなければならない。

国の政治のレベルは、国民のレベルだと言われる。今まさに将来を担う孫・子のために賢明な選択を迫られているのではなかろうか。今痛みを分かち合うか、さらに大きな痛みを将来に先送りするかだ。今回の参議院選挙も、ほぼすべての政党が消費税増税延期賛成だろうから、実質的な選択肢は用意されていないだろう。悲しい日本の政治状況である。5月21日付のBARRON’S ASIAを見ていたら、Blackstone strategistのByron Wien氏の特集記事が目に入った。そこに氏の「LIFE LESSONS」が掲載されていたので、拙訳でご紹介しておく。

●人生で運を掴むためには、できるだけ多くの人と知り合うことが重要である。
●初対面の人に会うときは友人として扱いなさい。
●常に本を読みなさい。自身の仮説を立てて読み、正しかったどうか検証しなさい。
●睡眠は十分にとりなさい。
●広く旅行しなさい。
●フィランソロピー(社会貢献)は痛みを和らげる。
●茨の道は正しい道。決して近道を選んではならない。
●ライバルに勝つことを目指さず、違ったことにトライしなさい。
●給料の多少にとらわれず、仕事は楽しいものを選びなさい。
●リタイア―してはならない。永遠に働き続ければ、永遠に生きられる。


齢83の現役ストラテジストの人生訓である。政治に期待感を持てず、これからの厳しい世界を生き続けていかなければならない我々への教訓のように聞こえる。狼少年と揶揄されることは厭わないが、狼少年だとは思っていない。
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