組織体たる職場のパフォーマンスは、そこに属するヒトの行動で左右される。部下は上司の顔色・声色を窺いながら行動を選択するため、上司はマネジメントする立場として、組織体としての効率性がアップするように部下の行動にコミットしなければならない。しかし、多くの管理職が痛感しているのは、ヒトを理屈どおりに動かすのは難しいということだろう。
行動分析学で人は変えられる!
確かに、思慮分別もなく強制的にヒトを動かすことも可能ではある。しかし、それでは部下や組織に熱がなく成長力も伴わない。ではどうすればいいのか?その方法論に的確に答えてくれるのが、行動分析学だ。その哲学は、「ヒトの行動は外部からの働きかけで変えられる」というもの。ヒトの行動を決定づけるのは、「強化」「消去」「弱化」の3つの原理でしかなく、これでヒトのすべての行動を分析・予測・制御することができる、というものだ。この3つの原理を活用すれば、上司として部下の行動をコントロールすることはもとより、同僚として相互に協力し合ったり、部下の立場から上司を変えることさえ可能となる。ヒトは他人が様々な行動をとるとき、性格や人格の問題で片づけようとする。しかし、それは他人へのレッテル貼りに過ぎない。よくよく考えれば、ヒトはそんなに単純なものではないはずだ。また、自らに対しても、「どうせ自分は~だから」などと自身にもレッテルを貼ってしまいがちだ。いずれも、人間の性だと言ってしまえばそれまでだが、ある意味で安心感を求める深層心理がそうさせるのかもしれない。行動分析学では、これらのレッテル貼りを超え、「ヒトは変われる」という具体的な行動戦略を提示してくれるため、他人はもとより、自分自身、ひいては組織そのものの行動まで変えることが可能となる。3つの行動原理を紐解いてみよう。
「強化」「消去」「弱化」の3つの原理とは
第一は、「強化」である。ヒトは「ある行動をとった直後に良いことがあると、その行動をもっとするようになる」という原理である。例えば、問題を抱えた部下が「上司に相談に行く」という行動をとった直後に、その上司が「笑顔で迎える」「問題が解決するようなアドバイスをする」といった対応をとれば、部下の「上司に相談に行く」という行動は「強化」されることになる。つまり、上司への相談が繰り返され、組織としての風通しが良くなるわけだ。逆に、良くない行動がいつまでも直らない「強化」の例が「タバコを吸う」という行動だ。タバコを吸った直後には、「ニコチンの禁断症状がなくなる」「開放感を味わえる」「休憩ができる」といった、その行動を「強化」する反応ばかりを感じてしまうため、なかなか止められない行動となる。このように、「強化」は行動の直後に良いことがあると、ヒトは「心地よさ」「苦しみからの解放」などを感じ、その行動を繰り返すという原理である。
次は、「消去」である。ヒトは「ある行動をとった直後に何も変わらないと、その行動を徐々にしなくなる」という原理である。
例えば、問題を抱えた部下が「上司に相談に行く」という行動をとった直後に、その上司が「無視する」「問題が解決しないようなアドバイスをする」といった対応をとれば、部下の「上司に相談に行く」という行動は「消去」されることになる。つまり、段々と「上司へ相談に行く」ことをしなくなり、組織には閉塞感が漂うことになる。また、行動が「消去」されればその行動は徐々になくなる、ということにも注意しておいた方がいい。
これまで「強化」が繰り返されていた行動をとったところ、いきなり「消去」されたら、その行動はどうなるだろうか。例えば、子どもが母親に「おかあさん」と呼びかけたところ、普段であれば「はーい」と答える母親が、家事で忙しくて返答しなかった場合、無視されたと勘違いした子どもは段々切迫した声で「おかあさん、おかあさん」と呼ぶようになり、そのうち「おかあさん!」と大きな声で叫ぶようになる。それでも母親が返事をしないと、最後には諦めて声をかけなくなる。つまり、「消去」は最終的には行動を消してしまうが、はじめのうちは爆発的な行動を招いてしまう。これを「バースト」というが、聞き慣れた例では「逆境をバネにする」というのもその類のひとつである。
注意すべきは、「バースト」は、その前提として「強化」が繰り返しあったからこそ起こるという点だ。逆境をバネにして頑張れるヒトをつくりたければ、まず成功体験を十分に積ませ、行動を「強化」しておかなければならない。
最後は、「弱化」である。ヒトは「ある行動をとった直後に嫌なことがあると、その行動をしなくなる」という原理である。
例えば、問題を抱えた部下が「上司に相談に行く」という行動をとった直後に、その上司が「睨みつける」「問題が複雑化するようなアドバイスをする」といった対応をとれば、部下の「上司に相談に行く」という行動は「弱化」されることになる。これによれば、直ちに行動がストップするから、「消去」よりも強烈である。具体的な活用場面としては、その行動を直ちに止めさせる必要のあるケースが想定されよう。例えば、「規則を破る」といった行動の直後に、「叱る」「罰する」といった対応をとれば、「規則を破る」という行動は「弱化」され、その行動は直ちに消失することになる。くれぐれも「消去」との使い分けには注意しなければならない。職場で、ハラスメントが起こっているときに、仮に「消去」という手法を使ってしまえば、これには「バースト」が起こり得るため、一時的にその行動がエスカレートする恐れがある。この場合は、確実に「弱化」を使って問題をこじらせない対応が肝心だ。
このように、行動分析学が提供する「強化」「消去」「弱化」というヒトの行動をコントロールできる3つの原理は、組織マネジメントに大いに活用できる。特に、部下を抱え、そのパフォーマンスを最大限発揮させる使命のある管理職には必須のマネジメントツールなのである。
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