平成16年の年金制度改正に併せ、年金財政に関する長期的な見通しが「財政検証」として制度化された。これは、年金制度が長きにわたって継続していくべきものであるため、5年に一度、今後100年間における年金財政の見通しを国民に示すものだ。
前回の「財政検証」は平成21年に行われたが、これは平成16年の財政再計算を踏襲したもので、いわゆる「100年安心」を強調したものとなっていた。
前回の「財政検証」は平成21年に行われたが、これは平成16年の財政再計算を踏襲したもので、いわゆる「100年安心」を強調したものとなっていた。
〇厚生年金保険料率を平成29年まで毎年引き上げ、最終的に18.3%で固定する。
〇マクロ経済スライド(給付額引き下げ措置)を財政が安定するまでの期間適用する。
〇国民年金保険料を平成29年まで毎年引き上げ16,900円(平成16年度価格)で固定する。
〇国民年金の国庫負担割合を1/2とする。
そして、あり得ない経済前提(例えば、賃金上昇率2.5%、積立金運用利回り4.1%など)を想定し、その結果、100年後も十分な積立金が残り、年金財政は「100年安心」どころか「未来永劫安心」のプロパガンタが行われたのである。
どうも怪しい。人口オーナス社会の到来、経済のグローバル化、賦課方式の年金制度、等々考え合わせれば、こんなバラ色の未来を描けるはずがない。と思った私は自ら「財政検証」の検証を行ってみた。
保険料率など制度的な枠組はすでに決定されていたことから、将来の見通しを左右するのは「経済前提」のマクロ変数に違いない。そこで、この変数を過去の実績や今後の日本の社会・経済情勢を踏まえ、より現実的な数値に置換して算定することとした。具体的には、「賃金上昇率」と「物価上昇率」を0%、「積立金運用利回り」を1%(パターン1)と1.5%(パターン2)で試算した。その結果、パターン1では2028年に、パターン2では2032年に、いずれも積立金残高がマイナス(枯渇)となったのである。
つまり、年金財政の収入変数である「賃金上昇率」や「積立金運用利回り」を現実的な数値以上に高く設定すると、100年間の複利効果が発揮され、とんでもない方向へ導かれていたのである。わずか数%の変数置換で「バラ色の未来」から「暗黒の未来」への崩落だ。
さらに私の試算は続く。前述のパターン2を基本に、破綻を回避するための前提として、「マクロ経済スライド」を全面適用(2045年まで)、年金保険料の引き上げ(2031年に20.2%で固定)の2点を試算に加えた。これにより、積立金も枯渇せず100年安心となったのだ。つまり、年金給付額をドラスティックに引き下げ、企業の過重な負担にならない程度の保険料引き上げを同時に行わないと、100年安心とはならない確証を得たのである。
私が、平成26年、つまり今回の財政検証で期待していたのは、前回の財政検証の見通しを実績値と比較のうえ検証し、現実的な堅い経済前提を立て、基本シナリオを掲げながら、制度維持へ向けた方策が国民へ提示されるのでは、ということだった。しかしながら、淡い期待はもろくも裏切られ、上図のような8つの経済前提を立て、その結果として所得代替率がどうなるかを示した内容にとどまり、基本シナリオは示されなかった。
これらの経済前提を見ればわかるとおり、すべてのケースにおいて楽観的なマクロ経済変数が使われている。以下、名目値を使ってみてみよう。
例えば、「ケースA」では賃金上昇率4.3%、積立金利回り5.4%である。一番悪いシナリオとされている「ケースH」でも賃金上昇率1.3%、積立金利回り2.3%とされている。識者の間では「ケースH」がより現実に近いと考えられているようだが、それでも私には到底現実的だとは思えない。また、数値間の相関や数値と実態との相関にも矛盾点が見え隠れする。例えば、「ケースH」では、経済成長率は0.2%とされているが、そのような経済環境下で賃金上昇率が1.3%、また積立金運用利回りが2.3%という世界は絶対ありえない。さらに、「ケースA~E」の積立金運用利回り5.4%~4.2%を想定する経済環境下で「長期金利」はどうなると考えているのだろうか?金融の専門家であれば、3.4%~1.6%位にはなると考えるはずである。もし、そうであれば日本の財政は大丈夫なのだろうか。毎年発行される200兆円弱(借換債含む)の国債の適用金利が上昇すれば、10年も経たずに発行残高(約850兆円)すべての国債の金利が上昇してしまう。利払い額が毎年20~30兆円である。これでは、年金財政どころか国家財政が破綻してしまいかねない。
いやはや、何とも頼りない「財政検証」結果だ。また、今回の財政検証にはオプション試算(1)(2)(3)がついている。(1)は「マクロ経済スライドの全面適用」、(2)は「厚生年金の適用拡大」、(3)は「国民年金保険料の納付期間の延長」である。年金財政への効果から言うとオプション試算(1)だけが意味のあるメッセージだろう。
ここまで平成26年の財政検証を見てきたが、少なくとも私には意味不明に映る。手前味噌だが、私が試算した平成21年財政検証の検証結果が未だに妥当だと思っている。
その「妥当」さを延長すれば、今後私たちを襲うのは、(1)マクロ経済スライドの全面適用、(2)支給開始年齢の引き上げ、の2つだろう。もちろん、その前段で保険料収入の拡大策も様々なオプションの1つとして出てくることは想定しておきたい。
〇マクロ経済スライド(給付額引き下げ措置)を財政が安定するまでの期間適用する。
〇国民年金保険料を平成29年まで毎年引き上げ16,900円(平成16年度価格)で固定する。
〇国民年金の国庫負担割合を1/2とする。
そして、あり得ない経済前提(例えば、賃金上昇率2.5%、積立金運用利回り4.1%など)を想定し、その結果、100年後も十分な積立金が残り、年金財政は「100年安心」どころか「未来永劫安心」のプロパガンタが行われたのである。
どうも怪しい。人口オーナス社会の到来、経済のグローバル化、賦課方式の年金制度、等々考え合わせれば、こんなバラ色の未来を描けるはずがない。と思った私は自ら「財政検証」の検証を行ってみた。
保険料率など制度的な枠組はすでに決定されていたことから、将来の見通しを左右するのは「経済前提」のマクロ変数に違いない。そこで、この変数を過去の実績や今後の日本の社会・経済情勢を踏まえ、より現実的な数値に置換して算定することとした。具体的には、「賃金上昇率」と「物価上昇率」を0%、「積立金運用利回り」を1%(パターン1)と1.5%(パターン2)で試算した。その結果、パターン1では2028年に、パターン2では2032年に、いずれも積立金残高がマイナス(枯渇)となったのである。
つまり、年金財政の収入変数である「賃金上昇率」や「積立金運用利回り」を現実的な数値以上に高く設定すると、100年間の複利効果が発揮され、とんでもない方向へ導かれていたのである。わずか数%の変数置換で「バラ色の未来」から「暗黒の未来」への崩落だ。
さらに私の試算は続く。前述のパターン2を基本に、破綻を回避するための前提として、「マクロ経済スライド」を全面適用(2045年まで)、年金保険料の引き上げ(2031年に20.2%で固定)の2点を試算に加えた。これにより、積立金も枯渇せず100年安心となったのだ。つまり、年金給付額をドラスティックに引き下げ、企業の過重な負担にならない程度の保険料引き上げを同時に行わないと、100年安心とはならない確証を得たのである。
私が、平成26年、つまり今回の財政検証で期待していたのは、前回の財政検証の見通しを実績値と比較のうえ検証し、現実的な堅い経済前提を立て、基本シナリオを掲げながら、制度維持へ向けた方策が国民へ提示されるのでは、ということだった。しかしながら、淡い期待はもろくも裏切られ、上図のような8つの経済前提を立て、その結果として所得代替率がどうなるかを示した内容にとどまり、基本シナリオは示されなかった。
これらの経済前提を見ればわかるとおり、すべてのケースにおいて楽観的なマクロ経済変数が使われている。以下、名目値を使ってみてみよう。
例えば、「ケースA」では賃金上昇率4.3%、積立金利回り5.4%である。一番悪いシナリオとされている「ケースH」でも賃金上昇率1.3%、積立金利回り2.3%とされている。識者の間では「ケースH」がより現実に近いと考えられているようだが、それでも私には到底現実的だとは思えない。また、数値間の相関や数値と実態との相関にも矛盾点が見え隠れする。例えば、「ケースH」では、経済成長率は0.2%とされているが、そのような経済環境下で賃金上昇率が1.3%、また積立金運用利回りが2.3%という世界は絶対ありえない。さらに、「ケースA~E」の積立金運用利回り5.4%~4.2%を想定する経済環境下で「長期金利」はどうなると考えているのだろうか?金融の専門家であれば、3.4%~1.6%位にはなると考えるはずである。もし、そうであれば日本の財政は大丈夫なのだろうか。毎年発行される200兆円弱(借換債含む)の国債の適用金利が上昇すれば、10年も経たずに発行残高(約850兆円)すべての国債の金利が上昇してしまう。利払い額が毎年20~30兆円である。これでは、年金財政どころか国家財政が破綻してしまいかねない。
いやはや、何とも頼りない「財政検証」結果だ。また、今回の財政検証にはオプション試算(1)(2)(3)がついている。(1)は「マクロ経済スライドの全面適用」、(2)は「厚生年金の適用拡大」、(3)は「国民年金保険料の納付期間の延長」である。年金財政への効果から言うとオプション試算(1)だけが意味のあるメッセージだろう。
ここまで平成26年の財政検証を見てきたが、少なくとも私には意味不明に映る。手前味噌だが、私が試算した平成21年財政検証の検証結果が未だに妥当だと思っている。
その「妥当」さを延長すれば、今後私たちを襲うのは、(1)マクロ経済スライドの全面適用、(2)支給開始年齢の引き上げ、の2つだろう。もちろん、その前段で保険料収入の拡大策も様々なオプションの1つとして出てくることは想定しておきたい。
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