金沢大学では2018年卒業者向けの就職ガイダンスを10月からはじめております。本学ではキックオフ、自己分析、業界企業研究、ES、面接対策などのテーマ別にガイダンスをすすめており、1月までにおおよそのテーマを終えるような予定で進めております。この数年は売り手市場ということもあり、学生の参加数が年々少なくなっていることがとても気になっています。
他の大学のキャリアセンターの方とお話していても同じような状況で、中長期的なスパンで見ると、景気が良い時は学生の就活へのモチベーションがさがり、景気が悪くなると上がるという事です。結局のところ、就活を自己成長の場として肯定的にとらえ、前向きに取り組む学生を増やすことができていないという点では、とても残念な思いがあります。私たち学生に関わる大人たちがまだまだ未熟なのかなと思う今日この頃です。

さて、そういうわけで現在の3年生の動きはとても遅くなっています。就活をはじめている学生は全体の2割くらいしかいないのではと思っています。一方で、大手の採用活動は2017卒以上に前倒しされているという噂(地方ですとあまり直接的に情報が入ってこないのでこういう書き方になってしまいます)があり、また2019年卒からの指針の見直し論の情報なども入ってくる中で、2018年卒の早期化がさらに促進されるのではないか?みたいな話もちらちら聞こえてきています。

これまでの就活というか企業側の動きを見ていると、大手企業の動向に地方企業や中小が追随する、といった流れで全体の動きが形成されていたと思います。この全体の流れの文脈の元となるのが指針で定めるルールという事ですね。しかしこの数年のルール化の迷走っぷりを見ているとこの流れ自体が変わってきているのではと感じ始めています。

一つ目の視点として、指針を定めている経団連の社会的な位置づけの変化です。端的にいうと、これまでは日本の経済界を代表するような団体としての位置づけだったのが、今は超大手企業の業界団体になっているというか、なりつつあるという見方です。同じようなことなのでは、と思われる方も多いかもしれませんが、従来、経団連は<超大手→系列大手→下請け→中小>というように、大きな規模の企業から小さい企業までの仕事のサプライチェーンが形成されていました。そのため、超大手を対象とした政策を行うと、その効果は日本経済全体に波及伝播しやすかったわけです。しかしこの構図が徐々に崩れつつあり、たとえばニッチトップ技術を持つ中小企業が直接アップルと取引を行う一方、超大手はグローバル化して海外拠点に生産シフトし、多拠点展開を推進し、結果、大手のビジネスの波及効果が国内の中小企業に下りてきにくくなってきていると感じます(この視点で見るとこの数年政府が主導して行っている官製賃上げはかなり無理があると思います)。
実質的にこれまで日本の就活の流れをリードしてきた経団連という団体の影響力が、目に見えて落ちてきているのではないか、と思っています。

これと関連する二つ目の視点は、経団連で行われている指針に関する議論が、我々地方に生活するものから見ていると、「地方の現実にそぐわなくなっている」という印象が強くなってきていることです。

地方の大学でキャリア教育を考える立場としての視点でインターンシップをとらえると、3年の夏休みまでに実施される中長期のインターンシップと、3年の秋以降に行われるインターンシップというのは、明らかに目的が異なります。3年の夏休みくらいまでにインターンシップに参加する学生に対しては、就業感の育成や社会人基礎力の向上、大学生活後半への専門教育への動機づけを主目的としてキャリア教育、あるいはコーオプ教育の一環として位置付けるべきではと思いますし、秋以降のインターンシップは就職のための基礎情報収集のためのイベントとなると思います。大学教育の世界では前者がインターンシップであり、後者は別のものです。意味性を否定するような意見も多いのですが、私自身はそれぞれの意味性と目的が異なることを前提として、実施の有効性を挙げるべき議論を行うべきだと思っています。いずれにしてもこうした議論がほとんど行われていないことに違和感を覚えます。

現在、金沢大学では石川県や地元企業と組んで夏のインターンシップの普及に取り組んでいますが、これは地元企業の採用に直結させることを目的にしているわけではありません。就業感の育成を地域ぐるみで行うことで、自分の価値観に沿って企業を選ぶことのできるマインドを養い、積極的な意思決定で地元に関わる人材を増やしていこうという視点での取り組みです。現在の過熱する採用活動は、ある程度就業感や自律性の育った人材の取り合いになっていると感じています。ですから、それとは別の視点で、そうした人材を育成する仕組みを地域ぐるみで、産官学で取り組もうとしているのですが、こうした論点が経団連の指針にほとんど現れていない(実際の議論に参画していないので詳細はわかりえないのですが・・)ことに違和感があるわけです。

結局のところ冨山和彦氏の唱えるG型とL型の二極構造化社会に向かっていることを実感しており、これまでのグローバル推進一辺倒の論点では、就活も論じきれなくなっているのかなあと思っています。経団連を批判するわけではありませんが、「経団連はG型企業の業界団体になってきている」と定義づけてみると、論点がかなりすっきりするように感じています。だとすると、就活全体のあるべき姿を論ずる際にはL型企業の意見も反映させるべき、という事になるのではないでしょうか。ちなみに学生はG型企業にもL型企業にも就職するので、私たちも、もう少しそのあたりの論点を整理して指導していかないといけないなあと思う今日この頃です。
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