10月4日から7日にかけて、今年で19回目となる「HR Technology Conference & Exposition (HR Tech)」が米国シカゴで開催されました。HR TechはHRテクノロジーに関する世界最大規模のイベントで、本年も418社のブース出展および103のセッションが実施され、来場者数は8,500名を超えました。
第4回 世界のHRテクノロジーの動向と日本の人事への適用可能性

HR Techで入手した最新トレンド

当レポートでは、本年のHR Techで紹介された各社の最新HRテクノロジーを(1)従業員体験と候補者体験の向上、(2)「コンシューマ化」への対応とゲーミフィケーション、(3)アナリティクス(データ分析)の進化の3つの観点からご紹介します。
第4回 世界のHRテクノロジーの動向と日本の人事への適用可能性
第4回 世界のHRテクノロジーの動向と日本の人事への適用可能性

(1)従業員体験(Employee Experience)と 候補者体験(Candidate Experience)の向上

従業員体験(Employee Experience)の向上

第4回 世界のHRテクノロジーの動向と日本の人事への適用可能性
◆VRの活用―時間や場所を問わないオンボーディング・ソリューション

世界約57万社にサービスを提供する世界最大の人事給与アウトソーシング会社であるADPでは、VRを活用したオンボーディング(On-Boarding:新たに採用・配属された従業員を組織や部署のルールあるいは仕事の進め方などにいち早く慣れさせるためのプログラムなどを指す)の機能を紹介していました。

入社時のオリエンテーションを人間ではなくVRが行うというソリューションで、実際に出勤する初日ではなく事前に、あるいは、本社から遠く離れた拠点など実際の担当者がいない状態でも、上司やチーム・メンバーの紹介、社内システムやツールの紹介といったオリエンテーションを実施できます。

このオリエンテーションには専用のゴーグルを着用することで参加できます。デモでは、(VRの世界の)担当者から一通りの説明を受けた後で大きな部屋に通され、これから一緒に仕事をしていくメンバー達から祝福ムードいっぱいで迎え入れられ、実際の人と握手をしているような臨場感も得られました。また、上を見上げれば綺麗な紙吹雪が舞い落ちてくるといった演出もあり、仮想体験でも十分に祝福ムードを実感できました。

◆「従業員の声」を聞く―高頻度な調査でエンゲージメントを高める

従業員体験の向上には、まず「従業員の声」を聞くことが重要です。その手法として、定期的な従業員エンゲージメント調査があります。そして、その調査結果に基づき、組織としての課題を見つけ、その解決策を確実に遂行していきます。このとき重要なのが、調査を実施する頻度です。多くの企業では、この調査を年に1回の「一大イベント」として実施し、そのため質問数が非常に多く、調査対象者である従業員や集計・アクションプラン策定を行う実施者の負担も小さくありません。そこで最近では、1回の質問数を少なくし調査頻度を上げて実施する「パルス・サーベイ」が注目されています。
「IBM Kenexa Employee Voice」は、パルス・サーベイを実施するためのクラウド・サービスで、調査だけでなく調査結果を受けて最適なアクションプランを生成する機能と、調査結果を分析する機能が組み込まれています。分析機能においては、自然言語を理解する「IBM Watson」のエンジンを活用し、人事の専門用語を使った文章でデータ分析の命令ができることが特徴です。

◆AIの活用―言葉で問いかけると最適なポジションを提案
さらに、様々な人事業務の局面に AIやコグニティブ・コンピューティング技術を活用するソリューションが数多く開発されています。コグニティブ・コンピューティングとは、膨大なデータを理解、推論、学習し、自ら学習するシステムで、代表的なものが「IBM Watson」です。今後リリース予定の「IBM Watson Career Coach」では、自然言語処理の機能とデータ分析に基づき、キャリアパスの提案を行います。たとえば「このポジションに長年いるのに新しいことにチャレンジする機会も与えられず、給与も上がらない。このままここにとどまるべきか?それとも社内に他の機会があるのか?」という内容をIBM Watson Career Coachに言葉で問いかけると、「そのポジションで続けても、この先3年間は状況は変わらないだろう。思い切って○○のポジションに挑戦してみてはどうか。」というアドバイスをくれるソリューションです。
このソリューションは、これまでのキャリアや保有しているスキル、コンピテンシーなどの詳細データを分析し、各ポジションのジョブ・ディスクリプションとマッチングさせるものです。一見畑違いの、本人では思いもよらないようなポジションが提案される場合もあります。
第4回 世界のHRテクノロジーの動向と日本の人事への適用可能性

候補者体験(Candidate Experience)の向上


◆ビデオインタビュー . いつでも受けられる面接
Web面接「HireVue」は、事前に収録された面接官の設問ビデオを見て、候補者は回答している状況を同様にビデオに録画して提出します。面接の日程調整が不要、かつ、何度か録画してベストな自分をアピールできるといったメリットが、よりよい候補者体験につながります。企業側にとっては、採用プロセスにおける1次面接の面接官の時間を節約できる上、従来型の面接を実施するのと同様な効果が得られます。
面接ビデオを人工知能で分析することにより、企業が必要とする人材を推奨して選考を支援するというオプション機能も備えています。また、「ライブ面接」にも対応しており、遠隔地の採用担当者同士が、面接中にチャットで会話できるという機能も活用できます。
このようなビデオインタビューはすでに欧米ではスタンダードとなっています。この先1、2年の間に日本においても普及していくものと思います。

◆モバイルの活用 . デジタルネイティブ世代への対応を
候補者体験の向上に欠かすことの出来ないもう一つの要素は、「モバイル対応」です。デジタルネイティブ世代、特に、PCよりもモバイル端末を頻繁に利用し、キーボードよりモバイル端末の操作性に慣れている世代の候補者が今後ますます増えてきます。モバイル対応が不十分で応募をためらう、という状況が生じる可能性も小さくありません。
たとえば「IBM Kenexa Talent Acquisition Suite」という採用管理ツールは、「Mobile Responsive Design」といった完全モバイル対応のコンセプトで設計されており、モバイル端末からの操作性の良さにも定評があります。

◆AIの活用 . マッチング度合いを提示し、最適なポジションへ
採用の局面にもAIやコグニティブ・コンピューティングを活用したソリューションが多くあります。
IBMにおいても、候補者と募集ポジションのマッチング機能を備えた「IBM Watson Recruitment」という製品をリリースする予定です。
Watson Recruitmentでは、IBM Watsonが候補者のレジュメの内容を読み込んで過去の経歴や強み・弱みといった内容を理解し、募集ポジションの要件やスキルセットの情報と照合して「マッチング度合い」を提示します。これにより、企業はその結果を元に応募者の今後の採用プロセスを検討でき、候補者は、仮に応募したポジションとのマッチング度合いが低くても、別のポジションを企業側から提案してもらえる可能性があります。よりよい候補者体験を提供する仕組みと言えます。

(2) 「コンシューマ化」への対応とゲーミフィケーシ...

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