ウォークマンとエアバッグの開発に見るイノベーション
いま日本企業に必要なのは次世代リーダー=イノベーターだ。しかしなかなかイノベーターは育たず、イノベーションは起きない。なぜか。盛田昭夫さんは「アイデアの良い人は世の中にたくさんいるが、良いと思ったアイデアを実行する勇気のある人は少ない」と言っている。どういうことか。
かつてウォークマンの発売にあたって、ソニー内部で猛烈な反対があった。「録音機能が付いていない」「スピーカーがない」「こんなモノが売れるはずはない」。そういう反対を押し切って盛田さんは商品化を命じ、ソニーを躍進させる爆発的ヒットになった。
別の例を挙げよう。エアバッグを開発したのはホンダの小林三郎さんという課長だった。エアバッグについてはトヨタ、日産、GM、フォード、クライスラーが開発を中止したが、ホンダだけは開発を継続し、その開発チームのトップが小林さんだった。ただ「車に火薬を積むなんて常識はずれだ」という反対の意見が強く、16年間の開発期間中10回も開発中止が検討された。そして小林さんの安全研究室・六研は「猫またぎの六研」と呼ばれた。猫もまたいでよける味の悪い魚を六研に見立てた悪口だ。
そんな中でエアバッグを世に送り出した小林さんは「若手がやりたいと言ってきたら、目を見ろ」と言っている。目の色を見れば、やる気が本物かどうかがわかるというのだ。
人馬一体を実現したユーノスロードスターの成功
ユーノスロードスターは1989年に発売され、マツダを復活させた名車だ。しかし開発は逆風の中で行われた。社内から「アメリカにライトウェイトスポーツカーの市場はなんてない」「排気量をもっと大きくしろ」「車体をもっと大きくしろ」「最低地上高を上げないと社内規定違反だ」と、人・金・モノ・場所・社内の理解もない何重もの逆境だった。開発にあたった平井敏彦主査は「人馬一体のコンセプトを1つでも譲らなければならないなら俺は辞める」と自らの信じるライトウェイトスポーツカーを開発しようとした。
そして発売される↓大ヒット。ギネスブックに生産台数が最も多い「2人乗り小型オープンスポーツカー」として登録され、その記録を二度書き換えた。
イノベーションを生み出す人材の意識構造
イノベーションを生み出す人材の意識は共通する構造を持っている。その構造を三角形で表し、底辺から「環境レベル」、「行動レベル」、「能力レベル」、「信念・価値観レベル」、そして頂点に「アイデンティティーレベル」という5層のレイヤーを置く。そうするとイノベーターというアイデンティティーを持つ人物は、「環境レベル」では外部の刺激的な仲間と交わり、異文化に触れる。「行動レベル」では情熱的なプレゼンテーションを行い、粘り強く行動する。「能力レベル」ではビジョンを描き、人を巻き込む。そして「信念・価値観レベル」では挑戦・創造・ユニークという特徴を持っている。
一般的なサラリーマンの意識構造はどうだろうか。「環境レベル」では愚痴を言い合える仲間と計画的な貯蓄。「行動レベル」では指示待ち・前例踏襲。「能力レベル」では言われた仕事をそつなくこなすが、主体性・決断力が弱い。そして「信念・価値観レベル」では協調・安全・安定。「アイデンティティーレベル」は会社の歯車だ。
ミッションを明確にしてイノベーターを励ます
会社の歯車でなく、イノベーターを育てるにはどうしたらいいか。ミッションを明確にしてイノベーターを励ますことだ。ミッションとは、この会社は誰に、どんな貢献をするために存在しているのか? その企業に集う従業員の誇りと言ってもいいだろう。ミッションが明確なら、・歯を食いしばってイノベーションを起こせる。従業員のアイデンティティーが高まり、現場に誇りを与え、挑戦を促すことができる。そして経営陣の意思決定がぶれない。
未来をたぐり寄せる唯一の方法は未来を作り出すこと
現代は夢のない時代だ。若者に夢を問うても「とくにない」と言う。小学生に夢をきくと「正社員になりたい」と答える。たぶん親が正社員にならないといけないと教えているのだろう。夢も希望もない時代だ。20数年前までのバブル経済以前は違っていた。右肩上がりに経済は成長し、未来を各自に想定できた。企業経営者は論理と分析によって競合他社との競争戦略を立案すれば、業績を伸ばすことができた。
バブル経済崩壊後に、未来は不確実で想定できない時代になった。未来を確実にたぐり寄せる唯一の方法は未来を作り出すことだ。そして未来を作り出すのがイノベーターだ。
わたしが代表を務めているワークハピネスとは、仕事を楽しく、という意味だ。仕事を楽しむイノベーターを輩出するお手伝いをこれからも続けていきたいと思う。
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