健全な経営のために「ワークルール」の確認を。労使紛争やコンプライアンス違反を防ぐ

「ワークルール」とは、働くときに必要な法律や決まりのことです。働き方が多様化しているなかで、知識不足から生じる不幸なトラブルを防止するために、ワークルールを理解することが重要となっています。現状のワークルール教育は、主として学生が対象とされていますが、経営者がワークルールを理解していない場合、これまでの経営を続けることが法律違反や労務リスクとなる可能性もあります。経営者と社員が共通の法律知識を身に付けることによって、コンプライアンスの推進および無用な紛争の回避につながり、事業を円滑に進めることができます。本稿では、主要なワークルールについて解説します。

「ワークルール教育」の実態

厚生労働省は、2016年度の「労働法教育に関する調査研究等事業」で、「『はたらく』へのトビラ~ワークルール 20のモデル授業案~」の冊子等を作成し、全国の高等学校等に送付しました。同省では、これまでも『知って役立つ労働法』や『まんが知って役立つ労働法Q&A』など、若い人々が労働法や制度を学習するのに役立つ資料等を公開しています。ですが、労働法や各種制度といったワークルールは人々に生涯にわたり関係すること、働く上では様々なトラブルや問題が起きることなどから、高校生等にさらにワークルールについての理解を深めてもらうべく、関連授業の充実のため、高校教員等に向けた資料として冊子を作成し、全国の高等学校等に配布したものです。

一方、日本労働組合総連合会(略称:連合)の「20代のワークルールに関する意識・認識調査」によると、「これまでに、働くときに必要な法律や決まりごとについて学習する機会があったか」という問いに対し、「あった」と回答したのは35.9%でした。そこで、「学習する機会があった」と回答した人に、「働くときに必要な法律や決まりごとについてどこで学習したか」を聞いたところ、「学校」が最も多く52.4%、以下「勤務先(アルバイト先を除く)」が42.3%、「アルバイト先」が22.6%、「自分で調べた」が21.7%、「労働組合」が8.9%となりました。「学校」と答えた人は、「公民」などの授業でワークルールを学んだケースが多いのではないでしょうか。
健全な経営のために「ワークルール」の確認を。労使紛争やコンプライアンス違反を防ぐ

高校生や大学生にとっての「ワークルール」

高校生や大学生向けにワークルール教育を行っていると、過度な自己責任論が、高校生や大学生に浸透していると感じます。例えば、職場で物を壊してしまったとか、ミスをしたという場合に、損害賠償を全額しないといけないとか、解雇されても仕方ないなどと考えているようです。他にも「重要な試験があるのにシフトを変更してもらえない」、「自分がアルバイトを辞めるのであれば、代わりに誰かを紹介する」というケースもあるようです。そこで、「経営者の損害賠償請求や解雇には制限があること」や、「労働基準法に違反する内容の契約は認められない」という話をすると、高校生や大学生たちは驚いています。

学校教育で、人に迷惑を掛けてはいけないことや、ルールを守ることが強調されているのに対し、ワークルール教育では「働く上で理不尽なことは自分で抱え込まず、詳しい専門家に相談すること」が大切だと伝えています。最近は、インターネット等の情報を信じてしまう傾向がありますが、インターネット等の情報の全てが正しいとは限りません。最終的には、ワークルールを調べたり、詳しい専門家に相談したりすることが必要です。

経営者にとっての「ワークルール」

ワークルールを守ることは、働く人にとってだけではなく、経営者にとっても重要です。まず、基本的なワークルールが守られないような職場では、退職者が増え、必要な人材の採用ができなくなる可能性が高いです。よって、必要な労働力を確保することが困難となり、経営を継続することが難しくなります。

例えば、労働基準法に反して残業代を支払わない企業が製品を安売りしている場合、一時的には、労働基準法を守る他の企業が不利になるでしょう。しかし、労働基準法に反している企業は、健全な事業の継続ができなくなります。そう考えると、今後は労働基準法を守れる企業のみが、事業を継続することが可能になるのではないでしょうか。

さらには、経営者がワークルールを知らないことが原因で、無用な労使紛争が生じることもあり、健全な労使関係の構築を妨げてしまいます。このように、企業が健全に発展するためにも、経営者もワークルールを学ぶ必要があります。

最近は、法改正も頻繁に行われています。今までの経験も重要ですが、経営者が知るべきことはワークルール以外にもたくさんあります。経営者の皆様は、専門とする業務に専念するためにも、詳しい専門家と契約をして、今までの経営に問題がないかを含めて相談するようにしましょう。