現在、読書に親しむ時間が少ないビジネスパーソンは珍しくない。一方で、「読書をする社員」の育成を重要な経営課題のひとつと位置付ける企業も存在している。「社員の読書量」と「企業経営」には、何か関係があるのだろうか。今回は、「読書をする社員」が企業活動上なぜ必要なのかについて考えてみよう。
3分の2の若手社員が月に1冊も本を読まない
「読書はほとんどしない」という人が少なくない。文化庁が平成31年2月から3月にかけ、全国の16歳以上の男女に対して実施した、平成30年度「国語に関する世論調査」の結果によると、「月に1冊も本を読まない」と回答した人の割合は47.3%に上ったという。
また、オンライン書店の「楽天ブックス」が平成31年1月、管理職および入社5年目までの20代前半の若手社員を対象に実施した「上司と部下の読書事情に関する調査」の結果では、平成30年の読書量が「月平均で1冊未満である」との回答が、管理職では58.6%、若手社員では64%に及んだという。
以上の調査結果から、現在、日常生活では読書機会が非常に減少しており、とりわけ企業に勤務する若手社員は、3分の2近くが月に1冊も本を読まない現状にあるということが見て取れる。果たして、このような状況は、企業経営にどのような影響を与えるのであろうか。
ビジネススキルが伸びづらい「読書をしない社員」
ビジネスパーソンが読書を習慣化できていない場合、ビジネスを行う上で必要とされるさまざまな能力の成長度合いが低くなりがちである。例えば、読書をしない社員は読解経験が過少なため、語彙が少なく、文法理解が不十分になりやすい。その結果、文書の内容を精緻に把握すること、誤解の余地がない文章を記述することなどが不得手となり、「理解力」・「文章力」に問題を抱えやすい。
また、読書の機会が少ない場合には、論理的思考経験が希薄になりがちである。そのため、物事を順序立てて考え、考えた内容を分かりやすく整理することなどを苦手とし、「論理力」・「説明力」が低くなりやすい。
さらに、読書をしない社員は保有する情報量が相対的に少ないため、複眼的な視点を持つことを不得手としやすい。その結果、他者への共感性が低く他責思考が強いなど、「コミュニケーション力」・「人間関係力」に問題を生じるケースさえ散見される。
「企業の質は社員の質に依存する」と言われる。先行き不透明なこの時代に、ビジネススキルに問題を抱える社員ばかりを雇用していたのでは、企業の持続的成長はおろか、現状維持さえもおぼつかない。そのため、“読書をしない社員”の上記のような現実を鑑みれば、「読書をする社員」の育成は極めて重要かつ喫緊の経営課題だと言えよう。
「読書をしない社員」は幼少期に読書習慣が身に付かなかった?
一般的に、読書習慣は幼少期に形成されると言われる。子供の頃に本を読むことが習慣になるような家庭環境で育つと、大人になっても読書を継続できる傾向にある。例えば、本を読むことが好きな両親に育てられた場合には、子供の頃から本に触れる機会が多いため、読書が日常生活を構成する“当たり前の要素”となりやすい。反対に、両親がほとんど本を読まないなど、本に親しむ機会の少ない家庭環境に身を置いていた場合には、読書が習慣化されるケースは多くない。
幼少期に読書が習慣化できなかった場合、義務教育を終えると読書量が極端に減少し、読書習慣が身に付かないまま学生生活を終える傾向が強い。この場合、社会人になってから読書を習慣化するのは極めて困難である。
例えば、社会に出て数年を経た時点で、新たに読書習慣を身に付けようと思い立つビジネスパーソンは少なくない。その場合、現状の生活時間から読書時間を捻出しようと試みることになる。
ところが、現代人の生活時間はSNS・コンテンツ配信サービス・フリマアプリなど、IT技術に基礎を置く依存性・中毒性の高いサービスに占有されている。そのため、これらに充てている時間を継続的に短縮することがどうしてもできず、読書の習慣化を断念する事例は枚挙にいとまがない。
リーダーの読書姿勢が社員へのモデリング効果を生む
社員に読書習慣を身に付けさせようと考えた場合に、「読書の重要性を説いたうえで、あとは本人の自主性に任せる」という手法は効果的ではない。自主性に依拠した読書の習慣化は、自律性が極めて高い社員でなければ実現不可能だからである。従って、社員に読書習慣を身に付けさせるには、一定程度、読書を強制する必要がある。ただし、その際には、リーダーも他の社員と一緒に読書をすることが重要である。部署単位で読書習慣の構築に取り組むのであれば、部長以下の全メンバーが読書を行わなければならない。企業単位で取り組むのであれば、社長以下の全役員・社員が読書を行う必要がある。
ビジネスパーソンには「上司のマネをする」という特性がある。このような仕組みを「モデリング効果」という。そのため、リーダーが読書の意義を説いたうえで、自ら熱心に読書する姿勢を見せ続ければ、他の社員の読書活動が「モデリング効果」により実効性のあるものとなりやすい。反対に、「皆に読書を命じておきながらリーダー本人は何もしない」などということがあると、社員の読書習慣構築の取り組みは全て形骸化するであろう。
管理職の58.6%が月にわずか1冊の本さえも読まないというほど(前出「上司と部下の読書事情に関する調査」/楽天ブックス)、現在、組織をつかさどるリーダーの読書量は貧困極まりない。そのため、リーダー自身も組織メンバーと一緒に「読書習慣の構築」に取り組む行為は、リーダーが「リーダーたるに相応しい力」を身に付けるという点においても、意義深いと言えよう。