SDGsが広く社会に発信され人々にも浸透しつつある中、「女性活躍」や「ダイバーシティ」といった課題に取り組む企業が増えてきている。だが、企業価値を高めるため、経営戦略としてこれらの課題に向き合うにあたり、その本質を正しく理解できているだろうか。本稿では、「ダイバーシティ」や「女性活躍」について、詳しく解説していく。
「ジェンダー・ギャップ指数」の順位が年々落ちる日本
10年間の時限立法として施行された「女性活躍推進法」がスタートして、今年で丸5年となる。少子高齢化により将来的な労働力の減少が予想される中、女性が働きやすい環境づくりを企業に求める法律なのだが、なかなか成果が上がっていない。さらに、対象企業をブレークダウンさせることを主旨とした一部改正法が2019年5月29日に成立し、6月5日に公布されている。その内容は、次のとおりである。●2020年4月1日施行分(常時雇用する労働者が301人以上の事業主)
・行動計画の数値目標設定の仕方を変更
●2020年4月1日施行分(常時雇用する労働者が301人以上の事業主)
・女性の活躍推進に関する情報公表の強化
・特例認定制度(プラチナえるぼし)の創設
●2022年4月1日施行分(常時雇用する労働者が101人以上の事業主)
・行動計画の策定・届出義務及び女性活躍に関する情報公表義務の対象を301名から101人以上の事業主に拡大
・行動計画の数値目標設定の仕方を変更
●2020年4月1日施行分(常時雇用する労働者が301人以上の事業主)
・女性の活躍推進に関する情報公表の強化
・特例認定制度(プラチナえるぼし)の創設
●2022年4月1日施行分(常時雇用する労働者が101人以上の事業主)
・行動計画の策定・届出義務及び女性活躍に関する情報公表義務の対象を301名から101人以上の事業主に拡大
これにより、さらに女性活躍の舞台を増やそうということだろう。しかし、「国が行う施策」と「本来企業が取り組むべき施策」とに乖離があると感じているのは筆者だけだろうか。
世界経済フォーラムが2005年から毎年発表しているジェンダー・ギャップ指数を見ると、日本は2015年の101位から、111位、114位、110位、そして121位と、ほぼ毎年順位を落としている。ちなみにジェンダー・ギャップ指数とは、以下の4分野14項目から、国際機関が発表するデータを基に、男女格差の度合いを指数化したものである。
1.経済活動の参加と機会
2.教育
3.健康と寿命
4.政治への関与
本来、この指数が高いことが目的なのではなく、企業経営の結果として指数が高くなるのが理想だ。
なぜ女性活躍が必要なのか、企業は目的をきちんと議論できているか
ところが、日本の場合は企業の成長もままならず、かつ女性活躍の度合いも低位に甘んじている。これは何を物語っているのか。ひとつの仮説として、「どのような目的のために女性活躍が必要であるのか」の議論や戦略が決定的に不足していることが考えられる。国の施策の推進もあり、「女性活躍」を掲げて女性登用に取り組む企業数は増えてはいる。SDGsの影響も大きいだろう。しかし、その本質を捉え、経営戦略として取り組んでいる例は少ないように見える。言葉は不適切かもしれないが、「ちゃんとした企業はどこもやっているから」という程度の横並び意識に駆られて、というのが現実だろう。
例えば、最近一般化した「ダイバーシティ」という言葉、これを「女性活躍」と同義に捉えてしまっているのが典型例である。筆者が理解する「ダイバーシティ」とは「物事を捉える視点の多様性」、すなわち「物事をどのように発想するか」、「どのような分析・評価をするか」、「どのような価値観を持っているか」ということだ。性別や国籍などの形式的な多様性ではない。このような形式に終始していても、経営的に意味のある多様性、そこから波及する経営効果が生まれてこないのは自明だ。
企業としては、国が行う「女性活躍」という政策誘導は、決して戦略的企業経営には結びつかないことを改めて肝に銘じる必要がある。そのうえで、実質的な「ダイバーシティ」=「物事を捉える視点の多様性」を、企業経営のツールとしてのコアコンピタンスとしなければならない。「女性活躍」は、あくまで二次的効果だと捉えるべきだ。もちろん、方法論としてポジティブ・アクションやクオータ制から始めるのでもよい。
企業によっては、事業の性質上、生産性は同質集団による作業のほうが高く、かえって「ダイバーシティ」が逆効果となることもあるだろう。他方、既存事業にとどまらず、新しい事業を生み出す人材を必要とする企業では、「ダイバーシティ」は必要不可欠な要素となる。このように、それぞれの企業がなぜ自社に「ダイバーシティ」が必要なのかを、真剣に考えていくことが必要だ。
「私は女性活用のためにダイバーシティを浸透させたのではない。IBMという会社のカルチャーを変えないとIBMは再生できない。同じ経験、同じ成功体験、同じようなバックグラウンドを持つ人たちがずっと会社を引っ張っていても、会社というのは変わることはできない。そこに多様性を入れないと、カルチャーは変わらないし、変革は起きないんだ。それが私がダイバーシティをIBMに浸透させた本当の理由だ。」
これは、米IBMのCEOに社外から初めて就任したルイス・ガースナー氏が、IBM再生の戦略のひとつとした「ダイバーシティ」導入の趣旨を言い表した言葉だそうだ(当時、日本IBM初の女性役員を務めた内永ゆか子NPO法人J-Win理事長による~2021.3.26ダイヤモンドオンライン)。
女性活躍やダイバーシティを考えるにあたり、このルイス・ガースナー氏の言葉の意味は重い。今からでも、企業経営の一丁目一番地として取り組んでいきたい。
大曲義典
株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ
社会保険労務士・CFP