リーダーには、求められるスキルが多数ある。そのうちのひとつが「感情管理能力」である。企業を統括するトップマネジメントから初めて部下を持った若手社員まで、組織・グループの大小を問わず必要になるといわれるものだ。果たして、この「感情管理能力」とはどのような力なのだろうか。
「自分の感情」をコントロ-ルできる「心の技術力」
「感情管理能力」とは文字通り、感情をコントロールする能力のことである。ここでいう感情のコントロールには、ふたつの種類がある。ひとつは「自分の感情」のコントロール、もうひとつは「周囲の感情」のコントロールである。初めに、「自分の感情」のコントロールとは、自分自身の心に沸いた怒り、焦り、恨み、苦しみなどの“マイナス感情”を、感じたままに体外に放出させない「心の技術力」である。
例えば、部下がミスをし、組織に損失を与えたとする。このような事態に直面すると、多くのリーダーの心の中には、「何でこんなミスをするんだ!」という“怒りの感情”が沸き上がる。このとき、心の中で生まれた“怒りの感情”を、感じたままの言葉で部下にぶつけてしまうリーダーがいる。これが、“マイナス感情”をコントロールできていない状態である。
「何でこんなミスをするんだ!」と“怒りの感情”をストレートに部下にぶつけても、発生してしまった損失が回復することはない。また、リーダーから一方的に厳しい言葉で叱責を受けた場合、部下は「反感を持つ」、「委縮する」のいずれかの反応を示すだけであり、多くの場合、その後も同じミスが繰り返される結果となる。
さらに、“怒りの感情”をストレートに部下にぶつけるリーダーの下では、ミスをした事実がリーダーに報告されなくなる傾向が強い。怒られるのが嫌だからである。
このように、自身の“マイナス感情”をコントロールできないリーダーがマネジメントする組織では、部下がリーダーの顔色をうかがいながら自身の行動を決定するという、“後ろ向きの行動”が多くなりがちである。
「周囲の感情」をコントロ-ルできる「コミュニケーションの技術力」
次に、「周囲の感情」のコントロールとは、部下に対して仕事や職場への“前向きな感情”を持たせるための「コミュニケーションの技術力」である。「コミュニケーションの技術力」が劣っている典型的なリーダーの例が、「部下に対し、笑顔で目を見て、好ましい挨拶ができない」というケースである。例えば、朝、出勤してきた部下に対して、リーダーが次のようなコミュニケーションを取ったとしよう。
・パソコンの画面を見たまま、部下の目を全く見ずに「おはよう」と言う
・笑顔がなく、真顔で「おはよう」と挨拶する
・小声で「おはよう」と言うので、部下には聞こえていない
・部下が「おはようございます」と挨拶をしたときだけ、自分も「おはよう」と言う
・「おはようございます」と挨拶した部下に対して、「うす」、「ちーっす」などという言葉で返す
・部下が「おはようございます」と挨拶をしても、一切、挨拶を返さない
こうしたリーダーがいる場合、仕事や職場に対して「よし、頑張ろう!」と“前向きな感情”を持つ組織メンバーは、決して多くはないだろう。
他にも、以下のような態度は適切ではない。
・部下にコピーを取ってもらっても、お礼を言わない
・部下が大変な仕事を完遂しても、ねぎらいの言葉を掛けない
・部下の業務報告を、別の仕事をしながら片手間に聞く
・部下に、命じる仕事の背景を説明しない
・部下に何も告げずに職場からいなくなる
このように、リーダーが職場での“適切なコミュニケーション”を欠く事例は数多い。
部下に対する気配り・目配りや、部下の視点で物事を解釈することができて初めて、仕事や職場に対する部下の感情を“前向き”にコントロールできるようになる。そのため、日々、上記のようなコミュニケーションが行われる職場では、部下の“前向きな感情”を醸成することが困難にながりがちなのだ。
組織風土は「感情風土」だ
「心の技術力」と「コミュニケーションの技術力」の一方、または両方が劣るリーダーの率いる組織は、不必要な緊張感がみなぎり、居心地の悪い沈滞した職場になりやすい。そのため、部下の“前向きな行動”など、期待できるはずもない。反対に、リーダーの「感情管理能力」が優れている場合には、そのリーダーが統括する職場は明るく、積極的に仕事に取り組む“好ましい雰囲気”が醸成されるものである。その結果、自身の仕事に意義を見出した部下が、安心して仕事に打ち込める“前向きな組織”になりやすい。
「組織風土は“感情風土”である」という言葉がある。組織メンバーの感情の集合体が、組織風土を構成するからだ。そのため、リーダーの「感情管理能力」は、組織風土を決定付ける大きな要因となる。組織メンバーの感情をプラスのエネルギーに変換するのも、マイナスのエネルギーにしてしまうのも、リーダーの「感情管理能力」次第である。