このコラムではこれまで、企業におけるクロスカルチャーの問題を検討してきた。今回は最終回として、これまでの考察を総括する。
このコラムではこれまで、企業におけるクロスカルチャーの問題を検討してきた。今回は最終回として、これまでの考察を総括する。
今日の日本企業は、異文化接触の波にさらされている。海外進出と輸出に結びついていたかつての「国際化」とは異なり、今日の「クロスカルチャー」は、日本が、企業運営の場としても、市場としても、文化的に多様な環境になった状況に関連している。この変化は、日本企業が海外資本との関係を深めていること、日本国内での外国人雇用が当然になったこと、人々の価値観が多様化したこと、さらには、企業で女性が活躍するようになったことに起因する。
一方で、文化的多様性への対応は十分とは言えない。これらが受動的で遅いため、発展の機会を逃し、組織効率が低下している例が、数多く見受けられる。このような現状をふまえ、日本企業が異文化接触によるあつれきを乗り越え、組織効率を向上させるための方策として、以下の三つを挙げたい。
第一の方策は、「グラウンド・ルール」の制定である。これは、リーダーが文化多様性を尊重することを宣言して、そのための原則を打ち立てることである。ここでいうリーダーとは、経営陣にとどまらず、部門長、グループの責任者など、すべての階層でチームを率いる人を意味する。従ってこの「グラウンド・ルール」は、経営方針としての「ビジョン」や「バリュー」のような全社的なものから、各部署のルールのような身近なものまでを含むことになる。
例えば、「会議は60分以内に収め、最初の5分間で、前回のアクションアイテムの進行状況を振り返り、最後の5分で、次回に向けてのアクションアイテムを確認する」という取り決めは、会議の進め方を定める細かいルールのようだが、実は、組織文化形成のための重要な基礎であり、多様な文化から誤解が生じるのを避けるうえで重要なものだ。
こうした「グラウンド・ルール」を制定する際、ハイ・コンテクストの文化や、合意によって意思決定を行う文化に育ってきた人は、アクションアイテム確認の習慣がないため、会議の合意事項を改めて確認すること自体に抵抗を感じる場合がある。逆に、ロー・コンテクスト文化に育った人は、会議内容の確認がないと不安でストレスを感じるだろう。このような誤解を避けるために、リーダーが理由を明確にしたうえでルールを宣言し、メンバー全員と共有することが必要とされる。
第一線のマネージャーのこのような行動は、リーダーシップの意味合いが、工程、進捗状況、“ヒト・モノ・カネ”のリソースを「管理」することで方向性を示し、メッセージを発信して「リード」することへと変わってきた、という観点からも重要である。
次に、第二の方策として「ワークショップ」を挙げたい。チームの構成メンバー全員が集まり、メンバー間の文化的相違について話し合い、メンバーおのおのが基盤としている文化を理解して、その違いを乗り越える方策を話し合い、合意する。ワークショップの成果物は、「相互理解」「メンバー間のルール」「行動指針」である。
ここで重要なのは、おのおのの文化の“優劣”ではなく“違い”に目を向けることと、お互いを尊重し、チームとして成果を上げるための方策を建設的に模索すること、また、取るべきアクションや方策について全員が合意することである。
「グラウンド・ルール」は、ルール制定過程でメンバーの意見を取り入れるとしても、本質的に、トップダウンのアプローチである。「ワークショップ」は、あくまでもグループやチーム内での合意に基づくアプローチである。
最後に、第三の方策として、一対一のコミュニケーションに基礎を置く「メンター制度」が有効である。
メンターとメンティーの間の個別コミュニケーションを通して、お互いに耳を傾け、フィードバックを提供することは、世代間の価値観の相違に目を向けてゆく上で重要な意味を持つ。また、女性の活躍に伴い、男性中心の組織の価値観や習慣からの脱却を図る上で、トップダウンあるいは集団内合意形成のアプローチを補うことにもなる。メンター制度では、メンターとメンティーとの間の相互信頼関係を築くことが何よりも大切である。信頼関係があってはじめて活発な意見交換がなされ、メンターからのアドバイスが有効なものになるからだ。
これら三つの方策はお互いに補い合うものであり、組み合わせて実施することで、効果が増す。今求められているのは、クロスカルチャーが日本企業にとって大きな課題であり、不可逆的な流れであるという認識であり、異文化接触を、障害としてではなくチャンスととらえることである。文化的差異を積極的に受容する組織文化を醸成することが、今日の日本企業の大きな課題である。
今日の日本企業は、異文化接触の波にさらされている。海外進出と輸出に結びついていたかつての「国際化」とは異なり、今日の「クロスカルチャー」は、日本が、企業運営の場としても、市場としても、文化的に多様な環境になった状況に関連している。この変化は、日本企業が海外資本との関係を深めていること、日本国内での外国人雇用が当然になったこと、人々の価値観が多様化したこと、さらには、企業で女性が活躍するようになったことに起因する。
一方で、文化的多様性への対応は十分とは言えない。これらが受動的で遅いため、発展の機会を逃し、組織効率が低下している例が、数多く見受けられる。このような現状をふまえ、日本企業が異文化接触によるあつれきを乗り越え、組織効率を向上させるための方策として、以下の三つを挙げたい。
第一の方策は、「グラウンド・ルール」の制定である。これは、リーダーが文化多様性を尊重することを宣言して、そのための原則を打ち立てることである。ここでいうリーダーとは、経営陣にとどまらず、部門長、グループの責任者など、すべての階層でチームを率いる人を意味する。従ってこの「グラウンド・ルール」は、経営方針としての「ビジョン」や「バリュー」のような全社的なものから、各部署のルールのような身近なものまでを含むことになる。
例えば、「会議は60分以内に収め、最初の5分間で、前回のアクションアイテムの進行状況を振り返り、最後の5分で、次回に向けてのアクションアイテムを確認する」という取り決めは、会議の進め方を定める細かいルールのようだが、実は、組織文化形成のための重要な基礎であり、多様な文化から誤解が生じるのを避けるうえで重要なものだ。
こうした「グラウンド・ルール」を制定する際、ハイ・コンテクストの文化や、合意によって意思決定を行う文化に育ってきた人は、アクションアイテム確認の習慣がないため、会議の合意事項を改めて確認すること自体に抵抗を感じる場合がある。逆に、ロー・コンテクスト文化に育った人は、会議内容の確認がないと不安でストレスを感じるだろう。このような誤解を避けるために、リーダーが理由を明確にしたうえでルールを宣言し、メンバー全員と共有することが必要とされる。
第一線のマネージャーのこのような行動は、リーダーシップの意味合いが、工程、進捗状況、“ヒト・モノ・カネ”のリソースを「管理」することで方向性を示し、メッセージを発信して「リード」することへと変わってきた、という観点からも重要である。
次に、第二の方策として「ワークショップ」を挙げたい。チームの構成メンバー全員が集まり、メンバー間の文化的相違について話し合い、メンバーおのおのが基盤としている文化を理解して、その違いを乗り越える方策を話し合い、合意する。ワークショップの成果物は、「相互理解」「メンバー間のルール」「行動指針」である。
ここで重要なのは、おのおのの文化の“優劣”ではなく“違い”に目を向けることと、お互いを尊重し、チームとして成果を上げるための方策を建設的に模索すること、また、取るべきアクションや方策について全員が合意することである。
「グラウンド・ルール」は、ルール制定過程でメンバーの意見を取り入れるとしても、本質的に、トップダウンのアプローチである。「ワークショップ」は、あくまでもグループやチーム内での合意に基づくアプローチである。
最後に、第三の方策として、一対一のコミュニケーションに基礎を置く「メンター制度」が有効である。
メンターとメンティーの間の個別コミュニケーションを通して、お互いに耳を傾け、フィードバックを提供することは、世代間の価値観の相違に目を向けてゆく上で重要な意味を持つ。また、女性の活躍に伴い、男性中心の組織の価値観や習慣からの脱却を図る上で、トップダウンあるいは集団内合意形成のアプローチを補うことにもなる。メンター制度では、メンターとメンティーとの間の相互信頼関係を築くことが何よりも大切である。信頼関係があってはじめて活発な意見交換がなされ、メンターからのアドバイスが有効なものになるからだ。
これら三つの方策はお互いに補い合うものであり、組み合わせて実施することで、効果が増す。今求められているのは、クロスカルチャーが日本企業にとって大きな課題であり、不可逆的な流れであるという認識であり、異文化接触を、障害としてではなくチャンスととらえることである。文化的差異を積極的に受容する組織文化を醸成することが、今日の日本企業の大きな課題である。