前回のこのコラムでは、企業におけるクロスカルチャーの問題を広い文脈で考え、日本企業が単一的な規範を提示することが困難になっていること、また異文化接触という点から、社員の価値観が多様化していることを考察した。今回はこれらのクロスカルチャー課題に対し、メンター制度が果たす機能について述べたい。
前回のこのコラムでは、企業におけるクロスカルチャーの問題を広い文脈で考え、日本企業が単一的な規範を提示することが困難になっていること、また異文化接触という点から、社員の価値観が多様化していることを考察した。今回はこれらのクロスカルチャー課題に対し、メンター制度が果たす機能について述べたい。
メンター制度は一般的には、「若手社員(メンティー)1人に、先輩社員(メンター)1人がついて、一対一の対話を通してコミュニケーションを取り、若手社員の声に耳を傾け、成長を支援する制度」と定義づけられる。多くの企業がこの制度を導入しているが、現場からは「メンタリングの場で何を話してよいかわからない」とか「メンターとして(あるいはメンティーとして)何をすべきなのかわからない」という声をしばしば耳にする。その結果、メンターとメンティーの対話が進まなくなり、制度がうまく運営されなくなる企業が見受けられる。
これらは、メンター、メンティー双方が「メンター制度の仕組みや枠組みが明確に定められていない」と考えていることに起因する。これ自体が日本企業の文化的特色のひとつである。
筆者は複数の外資系企業の人事部門に勤務したが、どの会社にも全社規模のグローバルなメンター制度はなく、日本法人のメンター制度は、多くが日本で作られたものだった。海外の企業でメンターという言葉は「精神的に支援し助言を与える、信頼のおける相談相手」と言う意味で使われることが多く、人となりや人格に結びついている。「あの人は私のメンターです」と言うのは、「あの人は親身になって助言してくれます」、さらには「私はあの人を師と仰いでいます」という意味に近い。筆者にもそのような人が何人かいる。彼らは求めに応じ、あるいは進んで、こちらの相談に乗り、アドバイスを提供してくれた。特に会社からメンターとして指名されたわけではない。自発的にメンター役を買って出てくれたのだった。
日本企業はメンターという考え方を取り入れるにあたって、分かりやすく社内で伝えるために「制度の枠組み」を必要とした。それが日本に従来からあった「先輩後輩」の概念と結びつき、入社年次の浅い〇年目の社員をメンティーとし、少し先輩の×年目の社員をメンターとしてアサインする、メンターとメンティーは△△の頻度で一対一で話す、話した内容は所定の様式に記入して提出する…というような、明文化された制度として形作られてきた。この考え方の下では必然的に、メンターもメンティーも、自分が何をすればよいのか制度が明確に示してくれることを望むことになる。
このような文化的背景を念頭に置くと、日本企業でメンター制度を効果的に運営するためには、以下のような仕組みにすることが適切であると考えられる。
-上司ではなく「ななめ上」の先輩社員がメンターとなる
-メンタリングは業務指示や業務連絡ではなく、相談や質問の場であることを明確にする
-メンターとメンティーの間の信頼関係構築を重視する
-メンターとメンティーが共に成長することを目的とする
この考え方は日本メンター協会の提唱するメソッドに沿っている。同協会では、メンターとメンティーの間の会話を円滑にし、信頼関係の構築につなげるためのツールを開発・展開している。
メンター制度は、中途入社社員や外国人社員を雇用している企業にとっても、有効な仕組みである。また、女性活躍のための支援策として、メンター制度を活用する企業も増えている。この場合、女性がメンティーなので、話しやすさを考えてメンターに女性を任命する例が見受けられるが、これが結果的に女性の役割を限定することにつながっていないかどうかは、検証する必要があると考える。
社員の価値観が多様化している今日の企業にとって、メンタリングは個別対話に基づくので、コミュニケーションの向上を図ったり、問題点を明確化し解決策の模索を図ったりする機会として、大変貴重である。苦労して採用した若手社員がすぐ離職してしまうことに悩む企業も、社員の声に直接耳を傾ける場として、また、社員が会社に対し帰属意識を感じられるようになるための方策として、メンタリングを活用すべきである。
次回のコラムでは、連載のまとめとして、企業がクロスカルチャーの環境下で高い成果をあげてゆくための方策を提示する。
メンター制度は一般的には、「若手社員(メンティー)1人に、先輩社員(メンター)1人がついて、一対一の対話を通してコミュニケーションを取り、若手社員の声に耳を傾け、成長を支援する制度」と定義づけられる。多くの企業がこの制度を導入しているが、現場からは「メンタリングの場で何を話してよいかわからない」とか「メンターとして(あるいはメンティーとして)何をすべきなのかわからない」という声をしばしば耳にする。その結果、メンターとメンティーの対話が進まなくなり、制度がうまく運営されなくなる企業が見受けられる。
これらは、メンター、メンティー双方が「メンター制度の仕組みや枠組みが明確に定められていない」と考えていることに起因する。これ自体が日本企業の文化的特色のひとつである。
筆者は複数の外資系企業の人事部門に勤務したが、どの会社にも全社規模のグローバルなメンター制度はなく、日本法人のメンター制度は、多くが日本で作られたものだった。海外の企業でメンターという言葉は「精神的に支援し助言を与える、信頼のおける相談相手」と言う意味で使われることが多く、人となりや人格に結びついている。「あの人は私のメンターです」と言うのは、「あの人は親身になって助言してくれます」、さらには「私はあの人を師と仰いでいます」という意味に近い。筆者にもそのような人が何人かいる。彼らは求めに応じ、あるいは進んで、こちらの相談に乗り、アドバイスを提供してくれた。特に会社からメンターとして指名されたわけではない。自発的にメンター役を買って出てくれたのだった。
日本企業はメンターという考え方を取り入れるにあたって、分かりやすく社内で伝えるために「制度の枠組み」を必要とした。それが日本に従来からあった「先輩後輩」の概念と結びつき、入社年次の浅い〇年目の社員をメンティーとし、少し先輩の×年目の社員をメンターとしてアサインする、メンターとメンティーは△△の頻度で一対一で話す、話した内容は所定の様式に記入して提出する…というような、明文化された制度として形作られてきた。この考え方の下では必然的に、メンターもメンティーも、自分が何をすればよいのか制度が明確に示してくれることを望むことになる。
このような文化的背景を念頭に置くと、日本企業でメンター制度を効果的に運営するためには、以下のような仕組みにすることが適切であると考えられる。
-上司ではなく「ななめ上」の先輩社員がメンターとなる
-メンタリングは業務指示や業務連絡ではなく、相談や質問の場であることを明確にする
-メンターとメンティーの間の信頼関係構築を重視する
-メンターとメンティーが共に成長することを目的とする
この考え方は日本メンター協会の提唱するメソッドに沿っている。同協会では、メンターとメンティーの間の会話を円滑にし、信頼関係の構築につなげるためのツールを開発・展開している。
メンター制度は、中途入社社員や外国人社員を雇用している企業にとっても、有効な仕組みである。また、女性活躍のための支援策として、メンター制度を活用する企業も増えている。この場合、女性がメンティーなので、話しやすさを考えてメンターに女性を任命する例が見受けられるが、これが結果的に女性の役割を限定することにつながっていないかどうかは、検証する必要があると考える。
社員の価値観が多様化している今日の企業にとって、メンタリングは個別対話に基づくので、コミュニケーションの向上を図ったり、問題点を明確化し解決策の模索を図ったりする機会として、大変貴重である。苦労して採用した若手社員がすぐ離職してしまうことに悩む企業も、社員の声に直接耳を傾ける場として、また、社員が会社に対し帰属意識を感じられるようになるための方策として、メンタリングを活用すべきである。
次回のコラムでは、連載のまとめとして、企業がクロスカルチャーの環境下で高い成果をあげてゆくための方策を提示する。