ミドルマネジャーが組織変革の起点になるには(ミドルマネジャーが持つ力を信じる)

マネジャー同士が自分たちのマネジメントについて語り合うことで、個々の力が向上していくのですが、その過程で絆が深まり、コミュニティが形成されていきます。ミンツバーグは、ミドルマネジャーが組織を変える力を持っており、このコミュニティこそがその起点になると語ります。

 マネジャー同士が自分たちのマネジメントについて語り合うことで、個々の力が向上していくのですが、その過程で絆が深まり、コミュニティが形成されていきます。ミンツバーグは、ミドルマネジャーが組織を変える力を持っており、このコミュニティこそがその起点になると語ります。

1. ミドルマネジャーこそが組織を変える

 ミンツバーグも当初は、経営者(CEO)を研究対象としていました。その後、彼はミドルマネジャーこそが組織を変えていく力を持っていると強く信じるようになったのですが、その背景には彼の徹底した実証研究の積み重ねがありました。
 彼の現場主義のスタートは、博士課程の時に遡ります。当時、コンピュータが職場に導入され始めて、それがもたらす変化に注目が集まっていました。その時、誰もマネジメントの実態について知らないことが露呈したのですが、それを直視して、マネジメントの地道な実態調査に取り組んだのはミンツバーグだけでした。彼自身も「私はためらっていた。というのは、それがモダンで科学的なビジネス・スクールではリスクの多い研究プロジェクトのように思われたから」と語っています。マネジメントの巨匠、ミンツバーグの代名詞となる実証研究を、本人自身がためらっていたということは面白いですね。
 その後、実態をつぶさに研究するうちに、経営トップではなく、ミドルマネジャーこそが組織を、会社を変える力があるということに気づきました。古くはフランス革命をはじめとして、多くの社会変革も市井の人々が力を合わせたところから出発したように、組織を変えるのも、現場に近いところから動きは始まります。
 彼がよく引き合いに出すのは、IBMがe-Businessによって大きな変革をもたらした事例です。この時のIBM復活はガースナーというカリスマ経営者による変革と言われていますが、発端はデビッド・グロスマンというプログラマーでした。リレハンメル冬季五輪においてIBMのデータがネット上にクレジットもなく流用されていることに驚き、警鐘を鳴らしたのです。そこに呼応して、次なる時代はインターネットが世界の主流になると見通したのは、ジョン・パトリックというミドルマネジャーで、e-Businessのコンセプトまで作り出しました。最終的に判断を下したのはガースナーですが、「Yes」と言えばよい段階まで戦略を作り込んだのは、ミドルマネジャーたちでした。
 ミンツバーグの言葉を借りると、「ミドルマネジャーは、現場で起こっている重要で詳細な事象にも近く、しかも全体像を見るにも十分な経験を持っている」のです。

2. ミドルマネジャー起点の組織変革:日本の事例

 ミドルマネジャーによる変革は、前述のような世界的なケーススタディだけでなく、日常に起こる取り組みにおいて力強く発揮されます。私自身が経験した、ソフトウェア会社での事例を紹介しましょう。舞台となったのは、この中で最も利益率が厳しい事業部でした。
 この会社では内省と対話を繰り返すリフレクション・ラウンドテーブルを導入していましたが、その卒業生たちが発起人となって、同じような内容をリーダー層(マネジャー手前の階層で、実質的なプロジェクトマネジャークラス)に受けてもらおう、と動き出したのです。業績が上がらない中、プロジェクトリーダーを担う後輩たちが孤立しがちであることを一番知っていたのが、卒業生たちだったからです。
 予算的に厳しいので、費用はかからない方法を選びました。事業部長に掛け合って、対話する時間を月に1回確保しました。そして、毎月ボランティアでリーダー層の対話の場を開きました。
 リーダー層は先輩であるマネジャーにサポートしてもらいながら、自分たちのマネジメントについて内省と対話を重ねました。語り合う中で、互いのことを信頼しあい、相談し、アドバイスする関係ができました。ミンツバーグが言うコミュニティ(=自分の居場所があり、自然とやる気がわいてくる場所)が生まれたのです。
 すると、職場に変化が生まれました。自分なりにやってきたことに自信を持っていいこと、自分のやり方よりもっといい方法があること、躊躇していたけどもっとやっていいと知ったこと、等々いくつもの発見がありました。そして、徐々に風通しの良い組織になり、現場での小さな問題やトラブルの予兆が素早くリーダーに報告され、未然に手だてを打てるようになりました。業績も徐々に回復し、第2弾、第3弾のチームもスタートして、さらに好転していきました。業績面だけでなく、事業部長、マネジャーとリーダー層との距離感も急速に縮まり、1年後の振り返りでは、「事業部長の方向性と自分の考えがあっていることに自信を持てた」、「従来よりも組織への帰属意識が高まった」という声があがりました。
 前述のIBMのような大ヒット商品が出たわけではありませんが、日常のマネジメントがうまく回りだし、組織が一つの方向性を見出すようになる。このことが最も基本的で、大切な組織変革だと言えます。

3. ミドルマネジャー起点の組織変革のポイント

 私たちジェイフィールは、ミンツバーグの思想に共鳴し、彼が始めたリフレクション・ラウンドテーブルを日本で展開しています。そして、前述のソフトウェア会社に限らず、いくつもの組織変革をミドルマネジャーが起こし、担っていく経験をしてきました。こうした経験をもとに、その成功の秘訣を次のようにまとめることができます。

①誰もが持つ改善と成長への欲求を土台とする
 人は誰でも自分は成長したいと思い、仕事をするなら良い仕事をしたいという気持ちがあります。一見するとそう思えない言動があったとしても、それは本心ではないと信じ、働きかけることが変革の出発点となります。

②メンバーに安心・安全な場を提供する
 ①項で述べた健全な欲求は、安心・安全な場があることで気兼ねなく発揮できます。仲間を追い落とすような過当な競争環境や、やったことが正しく評価されないという不安感があれば、疑心暗鬼を生み、本来持っている力が素直に発揮されません。

③感情を大切にし、思考と行動のどちらも変えていく
 変革を進めていくときには、何よりも実行が求められます。しかし、行動のみが求められれば、どこかで破綻をきたしてしまいます。一時的な危機回避には対応できるかもしれませんが、持続可能な成長をしていくには、なぜそうすべきなのかをメンバー一人ひとりが理解していることが不可欠です。そのためにも、健全な思考が生まれるように気持ち(感情)への配慮が大切です。

④実践と内省を繰り返し反復する
 前項と密接に関連しますが、実行しただけでなく、その振り返り=内省が大切です。振り返りは、単に業績の確認だけでなく、どうしてそういう数字になったのか、それを実現した私たちにどんな変化が生まれたのか、というところまで見つめることが大切です。

⑤ゴールの姿は自分たちで決める
 組織変革を進めるうえで、トップ主導とミドルマネジャーを中心としたコミュニティによる変革の最も大きな違いはこの点にあります。現場に近いところにいるミドルマネジャーがゴールをしっかりとイメージできることはとても力強いことです。環境変化が激しく、事業の構成要素が多元化している中、経営トップがすべてを一から決めていくことは困難だからです。経営的な視座を持つミドルマネジャーが主体的、主導的にゴールを設定し、トップがそれを承認していく関係作りがダイナミックな変革を可能にします。

 次回は、一歩進めて、戦略について考えてみましょう。戦略においてもミドルマネジャーが果たす役割は重要です。