障がい者の離職率では、精神障がいの比率が最も高くなっています。なぜ、他の障がいよりも精神障がい者の離職率が高いのでしょうか。また、精神障がい者の離職防止のために職場ができることはなんでしょうか。原因と対策について解説していきます。
精神障がい者を職場に定着させるには? 主な離職原因と対策を解説

精神障がい者の離職率はどれくらい?

障がい者雇用の中で離職率が高い精神障がい者の採用は、できれば避けたいと考えている人事担当者は多いです。実際に一般的な障がい種別の比較で見ると精神障がいの割合が高いデータが多く見られます。以下は、高齢・障害・求職者雇用支援機構の調査による結果です。

就職後3か月時点の定着率
・身体障がい:77.8%
・知的障がい:85.3%
・精神障がい:69.9%
・発達障がい:84.7%


就職後1年時点の定着率
・身体障がい:60.8%
・知的障がい:68.0%
・精神障がい:49.3%
・発達障がい:71.5%

障がい別にみた職場定着率の推移と構成割合

障がい別にみた職場定着率の推移と構成割合

出典:障害者の就業状況等に関する調査研究サマリー(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)

「どのような求人から採用しているのか」が精神障がい者の定着率に影響

なぜ、精神障がい者や身体障がい者の定着率が低いのか、その理由は「求人内容」が大きく関係しています。知的障がい者と発達障がい者の約8割は「障がい者求人」で採用されていますが、精神障がい者や身体障がいは「障がい者求人」での採用は約5割で、それ以外は「一般求人」での採用となっているのです。特に精神障がいは、「一般求人で障がい非開示」をしている割合が3.5割以上と高くなっています。

高齢・障害・求職者雇用支援機構のデータでは、「障がい者求人」での職場定着率の割合は1年経過後も70.4%と最も高く、「一般求人の障がい非開示」は定着率が最も低く、30.8%と2倍以上の差がでています。

求人種類別にみた職場定着率の推移と構成割合

求人種類別にみた職場定着率の推移と構成割合

出典:障害者の就業状況等に関する調査研究サマリー(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)

「一般求人の障がい非開示」では、当然ですが一緒に働く上司や同僚は働いている人が障がい者とは認識していません。合理的配慮を示すこともなく、他の社員と同様のことを求めます。つまり、精神障がいや身体障がいの定着率が低いのは障がい特性の影響も考えられますが、それよりも「どのような求人から採用しているのか」の影響のほうが大きいと言えるのです。

精神障がいの定着率で見ると、「障がい者求人」の定着率は3か月後では82.7%、1年後では64.2%となっています。

求人種類別にみた精神障害者の職場定着率の推移と構成割合

求人種類別にみた精神障害者の職場定着率の推移と構成割合

出典:障害者の就業状況等に関する調査研究(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構)

「障がい者求人」の他の障がいの定着率を見ると、発達障がい者は3か月後では92.0%、1年後では79.5%、知的障がい者は3か月後では91.2%、1年後では75.1%、身体障がい者は3か月後では86.8%、1年後では70.4%となっています。精神障がいは最も低いとはいえ、全体の求人で見たときよりも差が少なく、比較的安定していることがわかります。

また、ハローワークにおける障がい者雇用の新規職業紹介状況では、精神障害手帳(発達障がい含む)の割合が半数以上となっています。そのため障がい者雇用を進める企業にとっては、精神障がい者の採用を考えることは避けられない状況となっています。
ハローワークにおける職業紹介状況

出典:最近の障害者雇用対策について(厚生労働省)

精神障がい者の定着率を高める方法

精神障がい者の雇用は難しいと考えるよりも、定着させるためにどうしたらよいのかを考えていくことが大切です。「平成25年度障害者雇用実態調査」(厚生労働省)によると、精神障がいの離職の原因は「職場の雰囲気、人間関係」や「賃金・労働条件に不満」、「仕事内容が合わない」がともに上位に挙がっています(身体障がいも同様。ただし知的障がいの調査は未実施)。

まずは離職につながる原因を避けましょう。離職要因の上位に挙げられている「職場の雰囲気、人間関係」、「仕事内容が合わない」については、事前に職場実習をおこなうことで当事者側と企業側の双方の認識を合わせやすくなります。

職場の人と同じ時間・仕事を共にしてもらうことで、職場環境や職務のイメージの擦り合わせが採用前にできます。また、実際の実務をおこなってもらうことで、求める職務レベルやそれに応じる能力やスキルがあるのかを判断しやすくなります。面接などでいくら説明してもらっても、実際にやってみてもらわなければわからないことは多くあります。

「賃金・労働条件に不満」は求人票などに示されているので、短期間でこのような理由で退職したのであれば本人の確認不足ということになるでしょう。また、中長期にわたっても同様なのであれば、業務内容のステップアップや、それに見合う待遇の検討が必要となってきます。

職場で求められている配慮については、「障害のある求職者の実態等に関する調査研究」の中で、次のような結果がでています。

【精神障がいが職場で必要とする配慮項目】
・調子の悪いときに休みをとりやすくする
・通院時間の確保、服薬管理など雇用管理上の配慮
・短時間勤務など労働時間の配慮


【発達障がいが職場で必要とする配慮項目】
・能力が発揮できる仕事への配置
・職場でのコミュニケーションを容易にする手段や支援者の配置
・業務遂行の支援や本人、周囲に助言する者等の配置
・業務内容の簡略化などの配慮
・上司や専門職員などによる定期的な相談




精神障がいの場合、体調の波が出やすいことがあります。どの程度の勤務時間が可能なのかは個別によって異なりますが、通常よりも短い勤務時間を設定することで、本人が調子の悪いときや通院時間、服薬などの管理をしやすくなるかもしれません。

精神障がいの雇用率は、以前は週所定労働時間が20時間以上でないと障害者雇用率としてカウントすることができませんでした。しかし、令和6年4月からは、障がい特性により長時間の勤務が困難な障がい者の雇用機会を拡大するために、特に短い時間(週所定労働時間が10時間以上20時間未満)においても、1人の雇用につき0.5人と算定できるようになっています。20時間未満の場合も当分の間1カウントとできますので、勤務時間を短めに設定し、様子を見ながら勤務時間を調整することができるでしょう。
精神障がい者を職場に定着させるには? 主な離職原因と対策を解説

障害者雇用率の算定をもとに筆者作成

発達障がいの場合、得意な分野と苦手な分野に差があるものの仕事の能力が高い人もいます。どのようなことが得意で、どのような点を配慮すると仕事がしやすいのかを知ることで、適材適所に配置しやすくなります。また、特に情報の取得の方法などは、仕事のしやすさに直結することがあります。

一般的に私たちが情報を入手するときには、耳(聴覚)で音声を聞いたり、目(視覚)で文字などを読んだりすることがほとんどです。多くの人は、聴覚か視覚かのどちらかを意識することはあまりありません。しかし、発達障がいの場合、このどちらかの情報の入手がとても難しいことがあります。

情報をどのように取り入れるのかを配慮するだけで、仕事がやりやすくなる場合があるのです。伝わっていないと感じることがあれば、別の方法、例えばいつも口頭で指示をしている(聴覚を使っている)のであれば、口頭で伝えた内容を合わせてメモにして渡す(視覚を使う)などの工夫をしてみると良いでしょう。

職場定着につなげる雇用をするためには、障がい受容や自分の障がいについて把握できている人を採用することがとても重要です。そのためには、面接等で合理的配慮について理解しているか、自分からそれを伝えられるのかを確認しましょう。また、実際に職場で働いてみないとわからないことがあります。採用前には実習をおこなうようにしてください。事前の準備が、安定した雇用につながります。

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