経済産業省は2024年1月25日、構造的・持続的な賃上げを実現するため、「賃上げ促進税制」を強化すると公表した。これにより、企業が得た収益を従業員に還元するための賃上げを促進させ、「成長と分配の好循環」を実現したい考えだ。
「賃上げ促進税制の強化」を経産省が公表。最大税額控除率を、大企業・中堅企業で35%、中小企業で45%にアップ

税制改正により最大税額控除率を引き上げ。ほか繰越控除/女性活躍支援措置も拡大

日本経済は、30年余り続いたコストカット型の経済から、所得増と成長の好循環による新たな経済へ移行する大きなチャンスを迎えている。経済産業省は、「このチャンスをつかみ取るためには物価上昇を上回る賃上げの実現が重要である」とし、賃上げに取り組む経営者を応援するための「賃上げ促進税制」の強化を呼びかけた。

賃上げ促進税制とは、企業が賃上げを実施した場合に、賃上げ額の一部を法人税などから税額控除できる制度である。2023年の春闘では3.58%(※)と30年ぶりの高水準の賃上げを実現した。この動きを一過性のものとせず、構造的・持続的な賃上げを実現するため、「2024年度(令和6年度)税制改正の大綱」において、賃上げ促進税制が強化されることとなった。
(※)日本労働組合総連合会(連合)集計結果

今回改正された税制は、2024年4月1日から2027年3月31日までの間に開始する各事業年度が適用対象となる。改正により、最大税額控除率が、大企業・中堅企業は35%、中小企業は45%にアップした(改正前は大企業・中堅企業は30%、中小企業は40%)。主な改正点は、以下の5つだ。

<改正ポイント>
(1)大企業向けは、より高い賃上げへのインセンティブ強化に向け、更に高い賃上げ率の要件(5%、7%)を創設

(2)中小企業向けは、赤字企業などの賃上げ後押しに向け、前例のない長期間となる5年間の繰越控除措置(賃上げを実施した年度に控除しきれなかった金額の5年間の繰越しが可能となる措置)を創設

(3)地域において賃上げと経済の好循環の担い手として期待される、中堅企業向けの新たな枠を創設

(4)雇用の「質」も上げる形での賃上げの促進に向けて以下を実施

教育訓練費を増やす企業への上乗せ措置の要件緩和

子育てとの両立支援、女性活躍支援に積極的な企業への上乗せ措置の創設

(5)現行の賃上げ促進税制よりも長い3年間の措置期間を設ける


なお、適用要件の対象となる給与総額には、主として事務負担の観点から時間外労働や休日労働による割増賃金は除外していない。同省は、税制の活用にあたって基本給や賞与の引上げを通じた賃上げを積極的に行ってもらいたいとしている。各税制において適用対象となる企業規模などを含めた改正後の制度の概要については、以下の資料で確認できる。



上記資料より詳細な制度内容については、2024年5月頃をめどに、以下で公表されるとのことだ。

【参考】
▼大企業向け/中堅企業向け
●経済産業省:賃上げ税制について

▼中小企業向け
●中小企業庁:中小企業向け「賃上げ促進税制」


政府は、本税制をより多くの企業に活用してもらうために周知・広報に努めるとともに、各種施策を通じた環境整備により、民間企業の賃上げを応援していきたい考えだ。
日本政府が賃上げ促進税制を強化するなか、大企業の一部は既に賃上げ方針を打ち出しており、中小企業においても賃上げを進めていくと考えられる。賃上げは従業員のエンゲージメント向上や人材確保にもつがなるため、企業ではこうした税制を活用しながら、従業員の賃金引き上げを検討していきたい。

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