株式会社矢野経済研究所は2023年06月23日、「2030年の国内小売市場」に関する調査結果を発表した。調査期間は2023年2月~4月で、百貨店や量販店、各種専門店やインターネット通販(EC)といった国内小売事業者および関連団体などから回答を得ている。本調査により、2030年の国内市場規模やインバウンド市場規模の予測などが明らかとなった。
2022年の国内市場規模は約134兆円。拡大要因は消費回復やインバウンド需要か
昨今の人口減少や社会情勢の変化が、日本市場に与える影響は大きい。これは小売市場に関しても例外ではないが、今後の小売市場規模はどのような推移をたどるのだろうか。矢野経済研究所はまず、経済産業省の「商業動態統計」、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」の資料を基に、国内小売市場規模(見込値含む)を予測した。すると、調査時点(2022年度末)で、2022年の国内小売市場規模は133兆8,000億円の見込みであることがわかった。同社は、「2022年はアパレルなど一部需要が回復していない業種があるものの、コロナ禍からの消費回復や2022年後半のインバウンド需要の復調などを要因として、引き続き小売市場規模は拡大するだろう」と予測している。
2030年のインバウンド市場規模(訪日外国人旅行消費額)は約9兆円に拡大予測
続いて同社は、観光立国推進閣僚会議が作成した「観光ビジョン実現プログラム2020」と、観光庁公表の「訪日外国人の消費動向(2019年年次報告書)」の資料を基に、2030年のインバウンド市場(訪日外国人旅行消費額)を予測した。内閣総理大臣が主宰し、全閣僚がメンバーである「観光立国推進閣僚会議」が2020(令和2)年に作成した「観光ビジョン実現プログラム2020」では、2030年の訪日外国人旅行者数目標を6,000万人としている。その人数が達成されると仮定し、「訪日外国人の消費動向」に記載の訪日外国人旅行消費額をベースに2030年のインバウンド市場規模を試算した場合、約9兆円に拡大するとの予測を示した。
2030年の国内市場規模は2022年比で約14%減。通販需要は高まるも、ドライバー人材不足が懸念
次に同社は、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」(国内小売市場に影響を及ぼす人口の増減についての調査資料)と経産省の「商業動態統計」を基に、国内小売市場の将来展望について予測した。すると、国内小売市場規模は、2030年に約114兆9,770億円となり、2022年比で14%程度減る見通しとなった。また、販売チャネル別にみると、2022年比の伸長率が最も大きいのはインターネット通販(EC)だったという。同社はこれを受け、小売業では実店舗とインターネット通販を連動させ、顧客サービスの向上を目的とするOMO(Online Merges with Offline)戦略や、オムニチャネル戦略(実店舗やオンラインストアなど販売経路を統合し、顧客にアプローチする方法)を進めており、インターネット通販の利便性はますます高まるだろうと予測している。
一方で同社は、2030年に向けて物理的に配送可能な荷物の数量が減少し、需要があっても配送できない状況に陥ると懸念している。これは、2024年問題(2024年4月以降、自動車運転業務の時間外労働時間の上限が960時間に制限されることにより生じる問題)に起因し、トラックドライバーの給与の減少とそれに伴う離職などにより人材が確保できず、顧客のニーズに答えた輸送が行えなくなることが要因であるとしている。これを受け同社は、「物流を担うドライバーの人材不足が、インターネット通販の拡大阻害要因になる」との見解を示している。
本調査結果から、2030年の国内小売市場規模は2022年比で14%程度減り、約115兆円との見通しであることがわかった。また、2022年比の伸長率が最も大きいのはインターネット通販(EC)であるものの、物流を担うドライバー不足により「需要があっても配送できない」ことが、インターネット通販の拡大阻害要因になることも予測される。今後小売業界を活性化するためには、業界全体で労働力不足やデジタル技術の活用といった課題に対し、対策を講じていくことが必要だろう。