経済産業省(以下、経産省)は2022年12月23日、金融庁・財務省との連携のもと策定した、「経営者保証改革プログラム」を公表した。本取り組みにより、保証付き融資の新制度創設や、中小企業のガバナンスの強化などを実施し、経営者保証に依存しない融資慣行の確立を加速させたい考えだ。あわせて、2023年1月10日より、新型コロナウイルス流行下での資金繰りを支援する借り換え保証制度の運用を始めることも発表した。
「経営者保証改革プログラム」により、経営者保証の解除を選択できる制度などを創設
経済産業省では、これまでも経営者保証を提供することなく資金調達を受ける場合の要件等を定めたガイドライン(経営者保証ガイドライン)の活用促進等の取り組みを進めてきた。経営者保証とは、中小企業や小規模事業者が金融機関から融資を受ける際、経営者個人が企業の連帯保証となることを指す。経営者保証は、経営への規律付けや資金調達の円滑化に寄与する面がある一方で、スタートアップの創業や経営者による思い切った事業展開など、円滑な事業承継・再生を妨げる要因ともなっているという。こうした課題に対し経産省は、創業時の融資において経営者保証に依存しない融資慣行の確立を加速させるべく、金融庁および財務省との連携の下、「経営保証改革プログラム」を策定した。本プログラムの策定により同省は、起業家が経営者保証を提供せずとも資金調達が可能となるよう、民間金融機関による融資や信用保証付き融資に対し、新たな制度を構築していくという。重点的に取り組む4分野の具体的な内容は下記の通り。
【経営者保証改革プログラムの概要】
1.スタートアップ・創業
創業時の融資において、経営者保証を求める慣行が創業意欲を阻害する要因となっている可能性を踏まえ、起業家が経営者保証を提供せず資金調達が可能となるよう、経営者保証を徴求しないスタートアップ・創業への融資を促進する。主な施策として、「スタートアップの創業から5年以内の事業者に対する経営者保証を徴求しない」、「新たな信用保証制度の創設」等があげられる。
2.民間金融機関による融資
監督指針の改正を行い、起業家に対し金融機関側から保証を徴求する際の手続きを厳格化することで、安易な個人保証に依存した融資を抑制する。具体的には、保証契約の必要性等に関し、事業者保証人に対し個別具体的に説明をすることを求めるほか、その結果等の記録を求めていくこと等があげられる。これにより、事業者・保証人の納得感を向上させる。
また、金融担当大臣から金融機関に向けた「経営者保証に関するガイドラインを浸透・定着させるための取組方針」の作成・公表の要請等を通じ、経営者保証に依存しない新たな融資慣行の確立に向けた意識改革を進める。
3.信用保証付き融資
経営者保証ガイドラインの要件(法人・個人の資産分離、財務基盤の強化、経営の透明性確保)を満たせば、経営者保証を解除する現在の取り組みを徹底する。その上で、保証料の上乗せ負担など経営者保証の機能を代替する手法を用いれば、経営者保証の解除を選択できる制度を創設する。中小企業金融全体において、経営者保証に依存しない融資慣行の確立に道筋を付けるため先進的な取り組みを実施する。
4.中小企業のガバナンス
経営者保証の前提となるガバナンスに関し、中小企業経営者と支援機関の目線合わせを図るためのチェックシートを作成する。また、支援機関向けの実務指針の策定のほか、中小企業活性化協議会の機能強化を図り、官民による支援体制を構築する。
新たな資金需要に対応する借り換え保証制度を創設。2023年1月から順次運用を開始
また同省は、上記の経営者保証改革プログラムに取り組むとともに、新型コロナウイルス対策として実施した実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)からの借り換えに加え、前向き投資に必要な新たな資金需要に対応するべく、以下の「コロナ資金繰り支援」を実施する。【コロナ資金繰り支援】
●コロナ借換保証
2023年1月10日から、民間ゼロゼロ融資からの借り換えに加え、事業再構築等の前向き投資に必要な、新たな資金需要に対応する借り換え保証制度の運用を開始。100%保証の融資は、100%保証で借り換えられる。
●日本政策金融公庫によるスーパー低利融資
借り換えの円滑化を図るため、債務負担が重い事業者(債務償還年数が13年以上)であれば、売上減少要件を満たさなくても融資対象となるよう、要件を緩和する。本制度は2023年2月1日から運用を開始する。
本プログラムの策定を通じ、資金の調達等がしやすくなることで、起業家の創業意欲促進が期待できる。政府からの支援を適切に活用しながら、新規事業の立ち上げや新たな事業展開を検討してみてはいかがだろうか。