一般社団法人日本能率協会(以下、JMA)は2022年12月12日、企業経営者を対象に1979年から実施する「当面直面する企業経営課題に関する調査」の、2022年度第5弾の結果を発表した。調査期間は2022年7月22日~8月19日で、全国主要企業の経営者689名から回答を得た。調査から、各企業が考える自社の現在や3年後、5年後の経営課題と、直近3年間の経営課題の変化が明らかとなった。
喫緊の経営課題は「収益性向上」がトップに
「物価高騰」や「人材不足」など企業経営を取り巻く課題が多岐に渡る中、各社が直近および中長期的な課題として重視しているのはどのようなことだろうか。JMAがまず「現在の課題」を尋ねると、1位は「収益性の向上」で43.4%となった。2位は「人材の強化(採用・育成・多様化への対応)」で41.1%、3位は「売上・シェア拡大」で35.1%と続いた。また、「3年後に課題と予想しているもの」については、「現在の課題」とは回答の順位が変わり、「人材の強化」が41.7%でトップとなった。2位は「収益性の向上」(29%)、3位は「新製品・新サービス・新事業の開発」と「売り上げ・シェア拡大」(ともに25.8%)が続いた。
さらに「5年後」については、1位が「事業基盤の強化・再編、事業ポートフォリオの再構築」(14.2%)、2位が「人材の強化」(10.7%)、3位が「売り上げ・シェア拡大」(10.2%)となった。
トップ3の項目は3年連続で変化なし。「人材強化」や「働きがい」の重視度は上昇傾向
同社が「現在の課題(上位項目)」について、過去3年間の推移をまとめ、分析してまとめたところ、トップ3の順位は3年前から変化がなかった。今回の調査結果を前回結果と比較すると、第1位の「収益性の向上」は+2.6ポイントとなり、第2位の「人材の強化」は+3.4ポイントとなった。また、その他の項目では、「株主価値向上」が2年連続で上昇していることがわかった。この結果を受け同社は、「新型コロナウイルス感染症拡大後は売上の回復が意識されていたが、今後は事業の安定やさらなる成長に向け、収益性向上や人材強化に対する意識が高まったのではないか」との見解を示している。
3年後を見据えた課題は「人材の強化」が3年連続トップ
次に、同社は「3年後の課題」について、同じく上位項目の3年間の推移を調べた。すると、前年より数値が上昇していたのは、「人材の強化」(+2.8ポイント)、「働きがい・従業員満足度・エンゲージメントの向上」(+4.8ポイント)、「株主価値向上」(+4.9ポイント)となっていた。一方で、過去3年間の推移で数値が減少傾向の項目は、「収益性向上」、「新製品・新サービス・新事業の開発」、「売り上げ・シェア拡大」、「デジタル技術の活用・戦略的投資」などだった。特に「デジタル技術の活用・戦略的と投資」は、前年比-6.1ポイントと減少幅が大きかった。これらの結果について、同社は「コロナ禍による需要の高まりが落ち着いたほか、取り組みがある程度進行していることが背景にあるのではないか」との見解を示した。
5年後に向けて「株主価値向上」に焦点を当てる動き
さらに、同社は「5年後の課題」についても、上位項目の過去3年間の推移を比較している。前年から変化が見られた項目のうち、減少しているのは「CSR、CSV、事業を通じた社会課題の解決」で-3.7ポイントだった。他方で、増加したものとしては「売上・シェア拡大」が+3.6ポイント、「株主価値向上」が+4.6ポイントだった。これらの増加幅が大きい2項目について、同社は「5年後にアクションの結果をはかりたい指標として、重視する企業が増えているのではないか」とコメントしている。
本調査から、喫緊に取り組むべき経営課題に「収益性向上」と「人材強化」を挙げる企業が多いことが明らかとなった。また、中長期的な指針として「株主価値向上」に焦点を当てている動きも見られた。コロナ禍による混乱に落ち着きがみられる中、将来の成長戦略の礎として「人材育成」が重要なカギを握っているといえそうだ。