株式会社日本能率協会総合研究所は2021年1月14日、「取締役会及び取締役会事務局の実態」に関する調査結果を発表した。調査は2020年9月に実施されたもので、東証1部と2部上場企業の300社から回答を得た。これにより、取締役会の運営方法や、取締役会事務局の実態等が明らかとなった。
新型コロナの影響を受け、取締役会の運営にも変化
企業の取締役会の実施における新型コロナウイルスの影響はあったのだろうか。はじめに、「2020年1月~7月の取締役会の運営方法に変化はあったか」を尋ねたところ、2020年2月までは「対面型」が最も多く、物理的に「全員集合」を主とした形で実施する企業が9割を超えていた。しかし、その後「対面型」は数字を下げている。3月は8割を下回り、緊急事態宣言下の4月と5月には4割以下という結果に。「非接触型」が「対面型」を上回り、半数以上が非対面での取締役会となったことがわかった。
また、「非接触型」で実施したという企業の「実施方法」は、「WEB会議」が4月は39.8%、5月は45.8%と最も多く、以下「電話会議」、「テレビ会議」が続いた。「WEB会議」は4月から大きく伸び、緊急事態宣言解除後の6月や7月にも、3割前後の企業で実施されたことが明らかとなった。
独立社外取締役の比率は増加傾向にあるも、スキルマトリクス整備はこれから
次に、「独立社外取締役の比率」を尋ねた。現在、東京証券取引所によるコーポレートガバナンス・コードでは「独立社外取締役比率」を1/3以上とすることが求められているが、結果は「50%以上」が14.2%、「33.3%以上50%未満」が48.3%と、6割以上の企業で規定を達成していることがわかった。2018年12月に実施された前回の調査と比較しても、全般的に割合が伸長していることがうかがえる。
また、「社外取締役の属性」からは、「金融機関」や「行政経験者」、「コンサルタント」の割合が増えていることがわかった。
社外取締役の増員にあたっては、その役割を示す「スキルマトリクス」の整理が重要となる。「社外取締役におけるスキルマトリクスの整備状況」を尋ねたところ、「整理してあり開示もしている」が8.1%、「整理してあるが開示はしていない」が13.2%、「現在整理している途中である」が6.1%と、整理済みまたは整理途中の企業は合計3割程度となった。一方、「これから整理したい」と考えている企業は48.3%と、約半数に及んだ。
「実効性評価」は有用。しかしマンネリ化に対する懸念も
次に、取締役会の「実効性評価において、課題となっていること」を聞いたところ、「課題がない」と回答した企業は14.5%にとどまり、多くの企業で問題を抱えていることがわかった。課題があると回答した企業では、「同じ課題が抽出され、『マンネリ化』している」が55.8%と最多で、この値は前回より10%以上も高くなった。以下、「企業業績や企業価値向上につながる実感が持てない」が23.7%、「客観性を確保できているか不安」が22.9%と続いた。
取締役会事務局は仕事量も難易度も上昇。スキル整理や育成の仕組みは追いつかずか
次に、取締役会事務局の『業務量』と『難易度』がどう変化したかを尋ねたところ、「業務量が増え、仕事の難易度も上がっている」と回答した企業は49.7%と、全体の約半数となった。
この結果を従業員規模別に見ると、「業務量が増えている」と回答したのは、「500人未満」の企業では38.2%なのに対して、「10,000以上」では77.3%という結果に。また、「仕事の難易度が上がっている」との回答は、「500人未満」の企業は50%なのに対し、「10,000以上」の企業では74.2%となっている。企業規模が大きくなるにつれ、「業務量の増加」と「仕事の難易度上昇」を感じる割合が高くなっていることがわかる。
最後に、「取締役会事務局スタッフの育成」について聞くと、「必要性を感じる」が61.5%と6割を超えた。また、「必要性を感じる」と回答した企業に「人材スキルは整理されているか」を尋ねると、「すでに整理されている」は18%、「現在、整理途中である」は23.5%にとどまり、「これから整理したいと考えている」が47%と、半数近くは人材スキルの整理ができていないことがわかった。
さらに、「取締役事務局スタッフを育成する仕組みの有無」を尋ねると、「すでにある」が14.2%、「模索中である」が21.9%なのに対し、「ない」は63.9%で、6割以上が育成の仕組みがないと回答した。
さらに、「取締役事務局スタッフを育成する仕組みの有無」を尋ねると、「すでにある」が14.2%、「模索中である」が21.9%なのに対し、「ない」は63.9%で、6割以上が育成の仕組みがないと回答した。
2018年に改訂された「コーポレートガバナンス・コード」により、上場企業には透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための多様な仕組みづくりが求められている。コロナ禍で先の見えないVUCAの状況が加速するなか、企業経営を進める取締役会の重要性は一層高まっている。今後もより有意義な機会となるよう、マンネリ化に対する打開策や、スタッフ育成の仕組みを考えてみてはいかがだろうか。