あえて、常識をうまく手放した議論をしよう。未来の就職情報会社について、徒然なるままに考えてみる。
2020年の、東京オリンピックにわく日本から、未来の自分が夢の中に現れて、こう語った。
「おい、お前。今頃、就職情報会社の営業がしつこくやってきているだろ?今はな、彼らは営業に来なくなったんだ。全部、ネットで完結して、世界中から採りたいと思ったピッタリ合った人を採れるようになったんだ。ほとんど手間をかけずにね。ニーズや課題を入力していったら求人広告も半自動でできるんだ。適性診断の精度も劇的に上がった。採用担当の仕事は劇的に減っているんだ。何か寂しい気もするけどね」
2020年の、東京オリンピックにわく日本から、未来の自分が夢の中に現れて、こう語った。
「おい、お前。今頃、就職情報会社の営業がしつこくやってきているだろ?今はな、彼らは営業に来なくなったんだ。全部、ネットで完結して、世界中から採りたいと思ったピッタリ合った人を採れるようになったんだ。ほとんど手間をかけずにね。ニーズや課題を入力していったら求人広告も半自動でできるんだ。適性診断の精度も劇的に上がった。採用担当の仕事は劇的に減っているんだ。何か寂しい気もするけどね」
就職情報会社に営業マンは必要か?
もちろんフィクションだ。ただ、この話というのは、採用担当者、人材ビジネス関係者にとって、色々言いたくなる点がたくさんあることだろう。これが、現実になるかどうかは別としても、様々な論点が含まれていると思う。なぜ、就職情報会社をはじめとする人材ビジネス会社の営業は顧客企業に訪問するのだろう。今日も、就職情報会社の営業は貴社にお邪魔しているかと思う。
ただ、そもそも、その営業訪問に意味はあるだろうか。たとえば、GoogleやFacebookの広告を買うように、ウェブ上ですべてのやりとりを済ますことも可能ではないだろうか。営業担当者は訪問するだけの価値のある訪問をしているのだろうか。商品・サービスが優れていたら、別に営業がいなくても売れるのではないだろうか。逆に言うと、商品・サービスの価値が下がっている、他社との違いがないから、営業が一生懸命提案しなければならないのだろうか。
既にこの段階で、色々、言いたいことのある読者がいるに違いない。たしかに、いま訪問している営業担当者の提案力はどうなのかと思う方も入れば、いやいや何を言っているんだ、営業は必要だろうという人もいるだろう。そもそも、現状の就職情報会社の商品はどうなのかとか、おいおいまた就職ナビ批判かと言う人もいるだろう。
ちょっと待って欲しい。だから、常識を手放した、少し先の未来の話をしようと、私は言っている。これは人事担当者によくあるクセであり、職業病とも言えるのだが、ついつい現状を前提とした議論をしてしまう。ちょっと常識を手放した議論をすることによって問題の本質が見えると思うのだ。2020年の就職情報会社を考えてみることで、現状の問題点がより見えてくる。
営業担当者はいつまで必要なのか、ITはどこまで就職情報会社を変えるのか、そもそも就職情報会社は存在しているのか。論点は色々だが、そもそも、就職情報会社が介在する価値とは何か?ほぼ存在価値とイコールだが、突き詰めると、その問題に行き着くだろう。
就職情報会社の機会と脅威を確認しよう
ここで、就職情報会社を取り巻く、今後の環境分析をしてみよう。冒頭でも触れたが、大きな論点となるのは、次の部分である。(1) ICTの発達
(2) 雇用・労働のスタイルの変化
(3) 若年層の労働人口の減少
(4) 大手企業、有力ベンチャーを中心とした採用力の向上
(5) グローバル採用ニーズの行方
(6) 規制緩和(強化)
(7) 大学の分化、淘汰
(8) 雇用対策の公共事業の盛り上がり
(9) 新たな、業界をこえたプレイヤーの参入
(10)募集手段の見直し
他にもあると思うのだが、私は主にこの7点に集約されると考えている。しかも、これらは就職情報会社にとってプラスにもマイナスにもはたらく。
個人的には、(1)のICTの発達が気になっている。既に就職情報会社ではビッグデータの活用などが行われている。また、関連して言うならば、仕組み、プラットフォームを作る方向に動いている。昨年賛否を呼んだリクナビの「Open ES」も、これはプラットフォームを作るという発想である。これは、リクナビだけで見て考えては問題の本質は掴めない。リクルートグループ全体が、プラットフォームビジネスの強化、ITを経営に活かすことを強化していることを理解しなければ、読み解けない。もっとも、欧米のIT企業流のやり方でスピーディーに行ってしまったがゆえ、反発が大きくなってしまったとも言えるのだが。
そもそも学生が減っていくという流れも直視しなくてはならない。これによりビジネスが縮小する流れもあるが、いま既に起こっているようにプレミアム感のある人材を採用できることを売りにして高い金額の商品・サービスを提供するという流れもなくはない。
いくつかの項目に関係するが、このビジネスは経団連の指針のような取り決めなどに影響を受けるものである。この行方により、ビジネスのあり方は変化する。
また、(9)のように、新たなプレイヤーの参入により、業界のルールは変わる可能性がある。GoogleやFacebook、LINEが本格的に求人広告を始めたらどうするだろう。
もっとも、これらの議論はこの20年くらいずっと言われてきたことだし、毎年のように「このままでは生き残れない」という議論が起こりつつ、どの企業もそれなりに残っている。とはいえ、構造の変化を捉え続けなければならない。
このように環境が変化していくことが予想される中、改めて問いたい。介在する価値は何だろうか。
(つづく)
HR総研 客員研究員 常見陽平
(評論家/杏林大学、千葉商科大学、武蔵野美術大学非常勤講師)