「企業と出会う」のではなく「人と出会う」ことを切り口とした「VISITS OB」は、従来にない画期的なプラットフォームとして注目を集めている。新卒就職・採用のあり方をどう考えるか、「VISITS OB」が生まれた背景、このサービスを使って企業と学生ができることや今後の可能性などについて、株式会社VISITS WORKS代表の松本氏にお話を伺った。

プロフィールを読んで共感した先輩に 「Like」をつけることで「つながる」

学生も企業も、就職ナビに依存しているいまの新卒就職・採用を変えていく必要がある、変えていきたいという思いから、いろいろなところで提言や情報発信を行ってきていますが、とはいえ、就職ナビに変わるものが何かというと、これだというものがなかなかなかったんですね。そういう中で、松本さんが代表をなさっているVISIT WORKSから学生と企業が直接出会う「VISITS OB」というサービスがリリースされました。これは画期的な仕組みで、いまの新卒就職・採用を変えていく可能性があると感じています。今日は松本さんにいろいろお聞きしたいと思いますが、まずは、この新しい仕組みがどういうものか、お話しいただけますか。
松本:「VISITS OB」は同じ大学の先輩と後輩をつなぐWebサービスで、2015年12月にスタートしました。登録した学生には大学・学部名や希望職種などの基本情報のほかに、自分がどんな経験をしてきて、どんなことをやりたいのかといったプロフィールを書いてもらいます。一方、ユーザー企業の方では、OB・OGとして掲載したい社員を選んで、まず、その人たちに「学生時代のこと、経験してきた仕事、これからの夢や目標」といったプロフィールを自分の言葉で書いていただき、公開する。学生はこのプロフィールを読んで、「この先輩は素敵だな、会ってみたいな」と思ったら「Like」というボタンを押します。
先輩社員は「Like」をつけてくれた学生のプロフィールを読んで、「この学生は頑張っているな、応援したいな」と思ったら「Like」を返す。そのときに初めて先輩と後輩がつながる「相互Like」の状態になり、メッセージ機能を使ってコミュニケーションがとれるようになります。そして、「相互Like」がたまったら、先輩社員が座談会を設定してその学生たちと会うことが簡単にできる仕組みになっています。もちろん一対一で会っていただくこともできますが、多忙な社員が学生と一人ずつ会うのは大変ですし、学生にとっても、一対一ではない方がリラックスして話ができるんですね。
今後、企業は社員のプロフィールを出身大学の学生だけでなく、すべての学生に公開する設定も選べるようになりますが、学生が「Like」をつけ、つながることができるのは自分の大学出身の社員にだけです。
企業は大学1、2年の早い時期から 主体的に活動する学生の「ファン」をつくれる

松本:そうです。大学1、2年時から将来について考えていて、こういうサービスに登録する学生は「就活時期になったから」という動機付けとは異なり、主体的で非常に意識が高いです。そういう学生と先輩社員が早期からつながってファンを増やしていけば、就活の時期が来たとき、学生たちは自分がファンになった先輩が働いている企業に、少なくとも話は聞きに行こうと思いますよね。
寺澤:2016年卒から新卒採用スケジュールが繰り下げられて、いまは大学3年の3月1日に採用広報が解禁され、就職ナビもオープンして、まだ何も知らない状態の学生に自社のことを知ってもらおうと企業が一斉に走り出すわけですが、難しいようですね。中堅・中小企業の多くは就職ナビなどでは埋もれがちな上、面接選考開始から内定開始までの期間が短くなりましたから。さらに2017卒採用からは面接選考解禁が8月1日から6月1日へと変わり、広報開始から選考開始まで3カ月しかありません。
でも、「VISITS OB」の仕組みを使って大学1、2年の早い時期から学生のファンづくりができていれば、企業にとって非常に大きい。就職メディアではないので、経団連による採用活動解禁時期の縛りに関係なく動けるということがポイントですね。同じ大学の先輩と後輩をつなぐ仕組みという発想は、なぜ生まれたんですか?
松本:実は、ある大学のキャリアセンターの方からご相談をいただいたことがきっかけです。大学が用意しているOB・OG名簿を学生が見たときに、会社名や部署名、連絡先はあっても、何をやっている人なのかも、どんな想いで働いている人なのか、訪問に対してウェルカムなのかも全くわからないと。そういう状態でいきなり電話やメールで社会人に連絡を取るというのは学生にとって非常にハードルが高いんですね。実際に会っても、「どんな仕事をしているんですか」というところから話が始まるわけで、「自分は企画をやりたいのに営業の人だったから全然興味がなかった」といったミスマッチがすごく多くなってしまう。こういうことを防げないかというご相談でした。「VISITS OB」は、先輩社員と学生がお互いの生き方や想いを書いて、まずは共感したところから始まりますから、ミスマッチが起こりにくいことが最大のメリットです。
社員、リクルーターの学生の志望への影響は 急速に大きくなっているなか、社員を通じて何を伝えるか
寺澤:いま、学生が会った社員、リクルーターは非常に強く志望に影響するようになってきているんですね。これはHR総研の調査データでも明らかです。2015年卒文系では社員、リクルーターが志望に「非常に影響した」と回答した学生が20%、「影響した」が50%、「影響しない」が30%でしたが、2016年卒文系では「非常に影響した」が38%と倍近くに増えて、「影響した」が41%、「影響しない」は20%となりました。理系も傾向は同じです。2015年卒理系では「非常に影響した」と回答した学生が20%、「影響した」が53%、「影響しない」が26%でした。これが2016年卒理系では「非常に影響した」が34%に増え、「影響した」が43%、「影響しない」が23%です。理系だと自分のやりたい研究ができればよくて、会った人のことはあまり影響しないだろうと思われがちですが、文系でも理系でも全体的に非常に影響を受けている。企業は、学生に会わせる社員、リクルーターがいかに採用の成否を決めるかということを考える必要があると思います。私たちの調査で集まった学生のコメントを見ても、その会社に興味があって説明会の印象もよかったのに、社員に会って話をしてみるといきなり冷めちゃったということもあれば、逆に、社名も知らなかった会社だったのに、社員に会ったらすごくいい影響を受けて、関心を持ったということもあるんです。

「Why」こそ最上位概念で、これこそが人の心を動かします。ミスマッチを防ぐためには、不変である「Why」を共有すること、「Why」で人がつながっているということが非常に重要で、学生の意識を「What」から「Why」に変えることは、そこで働いている人にしかできません。「私は学生時代にこういう経験をしてこういう想いを持ったから、この業界でこんなことを成し遂げて社会をこう変えたいんだ」と、そういうリアリティのある社員の原体験に学生は共感するんです。インターネットの時代でも、最後はアナログ。「個人」対「個人」の共感が最後のところでは大事です。そこで、「Why」という最上位概念で人をつないでいくサービスとして「VISITS OB」をつくったわけです。
企業ブランドではなく人ブランドで勝負 採用の戦い方が変わる

松本:学生の登録者数はサービス開始から2ヶ月弱ですでに5,000名ほどで、毎月だいたい1,500名ほどの新規登録があるという状況です。2016年1月下旬時点で、卒業年度別では、2017年卒が55%、2018年卒が24%、2019年卒が12%、そして2016年卒が9%となっていますので、大学1、2年生を合わせて大体3分の1強です。また、大学別登録比率は、「旧帝大・東工大・一橋大+早慶クラス」が58%、「GMARCH+関関同立クラス」が34%、「その他」が8%となっています。これから本格的にユーザー企業各社が社員さんのプロフィールを公開する予定ですから、そうすると、登録学生数はさらに増えていくと思います。
寺澤:現状では意識の高い上位校学生が集まっているということですね。ただ、学生は有名で人気のある企業で働いているOB・OGばかり見てしまい、知名度の高くない企業の社員が埋もれてしまうということはないんでしょうか。
松本:それが、フタを開けてみると、「Like」数が一番多くついているのは、実はそんなに学生の認知度が高くないベンチャー企業の社員の方なんです。大手企業の社員でも「会いたい」と「Like」をつける学生が数人しかいない場合もあります。情報の見せ方も、まず人ありきで、その人に興味を持ってプロフィールを読んでいくと、最後の方でようやく企業名が出てくるようにしています。企業名より、そこで人がいかに活き活きしているかといったことに共感し、自分もそこで働くことをイメージできるようになるかどうかが大事で、そういうかたちで企業を発見できる仕組みです。また、学生からも、企業の社員からも、ありとあらゆるキーワードで「こういう業種の先輩は?」「こういうスキルがある学生は?」などと検索できるようになっています。
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