ジェイフィールは、「良い感情の連鎖を起こすことで人と組織の変革を支援する」というユニークなアプローチを展開するコンサルティング会社です。「感情」に働きかけ、「つながり」をつくって行動を変えていく同社の組織変革の考え方や背景にある思いについて、『不機嫌な職場』『職場は感情で変わる』(講談社現代新書)など多数の著作を持ち、東京理科大学大学院の教授でもある代表取締役・高橋克徳氏にお聞きしました。

一一ジェイフィール設立の経緯を教えてください。

第3回 「感情」と「つながり」こそ、 成功する組織変革のキーワード。
  学生のころから社会を良くするための仕事をしたいという思いが強く、シンクタンクに入社したのですが、そこで、いろいろな企業や組織で働く人たちの難しい状況を見るうちに、結局、社会を良くすることとは、イキイキとした人たちを増やすことであり、そうした人たちの良い感情の連鎖が社会全体をより良い方向に導くことになると考えるようになりました。上からの一方的な組織変革や仕組だけの改革では人の気持ちが変わらない、良い行動が生まれない。人の心からの変革を応援する仕事がしたいという思いが強くなっていきました。

  そんなときに、自分たちの思いを実現する新たな会社を作ろうという話が持ち上がりました。この20年で、本当に企業で働く人たちがどんどん追い込まれてしまった。自分の仕事にだけ閉じこもり、協力し合ったり、知恵を出し合ったり、喜びを分かち合うことができない職場ばかりになってしまった。感情的に働くのはダメだけど、辛いという気持ちも、楽しいという気持ちも伝え合うことができない、そんな働き方でいのだろうか。日本企業の、日本人の傷んだ感情を再生したい。こんな議論を繰り返しながら、最終的にたどり着いたのが、「仕事が面白い、職場が楽しい、会社が好きだ」ということを子供たち前で堂々と語れる大人を増やそうというキーコンセプトでした。

  ここで支援いただくことになったのが、サザンオールスターズや福山雅治らを抱える総合エンターテインメント企業「アミューズ」です。エンターテインメントには人の心を動かす力がある。その力を活用して働く人たちの感情に働きかけ、あなたたちの目指す働く一人ひとりが主役感を持てる組織づくり、社会づくりをぜひ実現してください。そんな強力な支援を受けて、ジェイフィールはスタートすることになったのです。

一一いまの日本企業の組織の状況と課題はどのようなものだとお考えですか。

  この20年ほどで、日本企業の経営は、組織の一体感を何よりも重視した「集団主義の経営」から、個々人の自立と成果を重視する「個人主義の経営」に変わりました。ビジネスの専門性やスピードが高まる中で、個人が自分で判断して行動を起こす力を高めることは確かに必要でした。ところが、2000年代の前半ごろから経営課題の難易度がどんどん高まっていきます。グローバル化、買収・提携や業界再編が当たり前になり、インターネットもソーシャルメディアに進化しました。多くの情報を瞬時に入手できるだけでなく、個人が情報を発信し、多くの人たちを結びつける手段に変わったことで、ビジネスモデルも大きく変化していきます。同時に、情報流出のリスクや負の評判情報が流通するリスクも高まってしまいました。
この状況では、個人が自律して一人で成果を出しなさいといっても、知恵も出ないし、リスクへの対処も困難です。ところが、企業のなかではお互いの関係性がすでに崩れていて、一人でやりなさいという行動原理を変えられない。これが「不機嫌な職場」を生む最大の原因になってしまいました。

  企業がいま閉塞感を打ち破るためには、信頼関係を取り戻し、何かあればすぐに気づいてフォローし合い、必要なときには知恵を出し合える「関係主義の経営」への転換が必要になっているのです。ところがそれができず、多くの人は一人ひとりで頑張るやり方を続けている。これが日本企業の実態改革が進まない最大の要因なのです。

一一課題解決に向けて必要なのはどのようなアプローチでしょうか。

第3回 「感情」と「つながり」こそ、 成功する組織変革のキーワード。
  一番大きな問題は、上から一方的にビジョンや改革案を示しても、組織マネジメントや人事制度の仕組を変えても、もう人の行動は変えられないということです。なぜなら、多くの人がそうしたものを前向きに受け止める感情を失っているからです。
 重要なのは、戦略や仕組を変えて、それを組織に落とし込むことではなく、社員の感情に働きかけ、彼らの心の中にあるものを素直に出せる状態をつくり、彼らを孤立させるのではなく、つながりをつくって、組織全体で変っていこうという組織モードをつくりだすことです。
 そのためにジェイフィールでは、次の3つのステップで組織変革を支援しています。

  第1のステップは、「心の扉を開く、感情を変える」ということです。たとえば、当社では、組織全体に波及した感情や気分といった「組織感情」を診断するツールを開発しました。組織に広がる感情をメンバーがどう感じているか、それを見えるようにしようというものです。映像事例などをもとに本当はどういう職場で働きたいと思っているかを話し合ったうえで、自分たちの職場の診断結果を見てもらうと、良くない感情が広がっていたとしても、なんだ、みんなも自分と同じように思っていたんだと相手の気持ちが見えると、じゃあこういう職場に変えていこうよという話ができるようになります。あるいは、会社で起きている問題をショートドラマにしてみんなで見てもらうと、上司の気持ちも部下の気持ちもわかり、一方的に相手を責めているだけでは何も解決しないということに気づきます。相手の感情が見えるようなれば、相手の立場を理解し、自分を客観視できるようになる。心の扉を開くことが変革の第一歩です。

  第2のステップは、「人とつながり、ともに行動を変える」というものです。一人では変えられないから仲間と一緒に変わっていこう、そのためのつながりの場を作ろうという取り組みです。当社が提供している代表的な場のひとつが「リフレクション・ラウンドテーブル」です。マネジャーたちがほぼ毎週75分集まり、お互いの経験を持ち寄って学び合い、知恵を出し合い、互いを認め合いながら、何かあったときに相談や応援し合える大切な仲間をつくっていきます。
また、上司と部下のつながりをつくる場が、「戦略的OJT」というプログラムです。いま、職場で人育てができなくなっているといわれますが、ただ人育てのスキルを教えれば良いというわけではありません。大切なのは、上司が真剣に自分と向き合ってくれる、この人は信用できると部下が思えるようになること、上司も部下と真剣に向き合う中で部下の成長に寄り添う喜びを取り戻すことが重要です。そこで、半年間、上司と部下がペアになり、部下が設定した難しい目標を達成するために上司が一生懸命サポートしながら、二人三脚で変わっていくという活動を展開していきます。
大切なのは、「自分で変われ」ではなく、「ともに変わろう」というモードをつくり出すことです。それが連鎖すると、組織全体を変える力に変わっていきます。
 
  心の扉を開き、人とのつながりができて、一人ひとりが目の前の行動を変えていくことができるようになったら、第3のステップです。ここで、組織マネジメント、人材マネジメントの仕組を大きく変えていきます。あらためて全社として変えるべきこと、変えてはいけないことを明確にし、未来につなぐDNAやWAYを映像化し、全員で自分たちが大切にすべきことを共有し、それを日常の仕事に落とし込んでいく。未来をイメージし、そこで自分たちがイキイキと働く姿を共有し、対話しながら、新たな取り組みを生み出し、認め合う企業文化をつくっていく。こういった未来に向けた新たな行動原理をつくる、それを支える仕組をつくる。これが最後のステップです。

一一これまでに支援された企業はどのように変わりましたか。

第3回 「感情」と「つながり」こそ、 成功する組織変革のキーワード。
  本当に多くの企業の実態改革のお手伝いができるようになりました。
  たとえば、ある企業では、もう2年半以上にわたって現場力・チーム力を発揮できる組織マネジメントへの転換を全社で取り組んでいます。課長を軸にしながら、部長、役員も、将来を見据えた新たなマネジメントのあり方を共有し、現場のリーダーと課長がペアになって組織感情を変えていく動きをとっています。本当に多くの動きが連動して、新たなフェーズに向かう行動が引き出されています。
協力し合える職場づくり研修でも、お互いの気持ちが見えたことで、苛立った表情が安堵の表情に変わり、最後は優しい笑顔に変わっていく姿を何度も見ています。この感情を持続させるコミュニケーションの仕組みを用意することで、一人ひとりの意識が変わり、行動を起こす人が増えていくケースをたくさん見ています。
さらに、リフレクション・ラウンドテーブルに参加したマネジャーが、自分たちで経営提言を行うようになった企業もあります。
変革プロジェクトでも、研修でも、ラウンドテーブルでも、そこに参加している人たちが、自分の気持ちを素直に語りだし、互いに共感し合い、学び合いながら、周囲のために何かをしたいという思いが出てくると、それが組織を変える原動力になっていきます。そんな人たちを目の前にすると、本当に人の素晴らしさを実感します。お手伝いできて、本当によかったと心から思える瞬間があります。

一一今後の活動についてお聞かせください。

  わたしたちジェイフィールは、良い組織や社会をつくりたいという思いを持った人たちが互いに支え合い、応援し合い、ともに成長する場をこれからもつくっていきたいと思っています。わたしたちと出会った人たちが、本当に元気を取り戻し、前向きにチャレンジし、笑顔になるお手伝いがしたい。そうした人たちとつながって、組織の壁を壊し、社会の壁を超えて、一緒に未来を創っていきたい。ジェイフィールは、こんな組織変革、社会変革のためのプラットフォーム企業になりたいと思っています。

  同時に日本企業が真にイノベーティブな力を回復させ、世界で輝きを取り戻すためには、他分野の人たち、世界中の人たちとコラボレーションして楽しく新しいものを生み出していける人たちを多く生み出していく必要があると思っています。この人と人とを結びつける新たなリーダーたちの育成にも力を入れたいと思います。日本人なり日本企業なりがもっと自信を持って世界の人たちとつながり、一緒にいい仕事をしていけるように、会社としても個人としてもさまざまな応援を行い、メッセージを発信していきたいと思います。ぜひ、一緒に「仕事が面白い、職場が楽しい、会社が好きだ」ということを笑顔で語れる人たちを増やしていきましょう。

プロフィール

ジェイフィール 代表取締役/東京理科大学大学院 イノベーション研究科 教授 高橋 克徳
野村総合研究所、ワトソンワイアットを経て、ジェイフィール設立に参画。2010年より現職。榊原清則、野中郁次郎に師事し、組織論、組織心理学、人材マネジメント論、人材育成論を専門とする。 特に、人と人との相互作用が組織に与える影響、ダイナミズムを研究し、組織感情、リレーションシップなどの新たな切り口を提示し、組織変革コンサルティング、 人材育成プログラムの開発などに力を入れている。
2008年に出版した「不機嫌な職場(共著、講談社現代新書)が28万部のベストセラーとなり、その後も数多くの書籍や講演活動を通じて働く日本人の心の再生への動きをリードしている。

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