トランストラクチャは、人事領域の客観的な定量分析における第一人者的存在であり、現状の「見える化」から始まる人事改革を多くの企業で実現させてきた人事コンサルティングファームである。経営環境が大きく変化する中、人事が経営戦略に連動して成長を支えていくための課題と処方箋はどのようなものか、また、同社の特色と目指すものについて、代表取締役CEO・林明文氏にお話を伺った。
経営管理の諸分野の中で、人事管理はなぜ遅れているのか。
--今の日本の企業が置かれている状況下で、人事領域の問題点は何だと捉えておられますか。日本の企業はかつて非常に強かった時代があった。経営資源にはヒト・モノ・カネ・情報があるが、振り返ると、モノについては日本の製造技術は以前から世界に冠たるものがあったし、カネについてはしっかりした会計基準のもとにきちんと管理が行われてきた。情報についてもシステムがかなり発展しており、企業経営に寄与している。しかし、残念ながら、ヒトについては日本の企業が強かった時代にも管理手法が確立されなかったし、管理技術も十分に研究され尽くしてこなかった。現在に至るまで、ヒトの管理が合理的、科学的に行われていないということが大きな課題だ。
今の状況下で日本の企業が進むべき道は、グローバルに戦っていくか、国内市場で生き残っていくかの二者択一になるが、いずれにせよ、成長に向けて、人材のパフォーマンスをどのように上げるのかが強く問われている。また同時に、コスト、人件費をいかに適正に管理するかということも経営に問われている。日本の企業の主要なコストの中で、人件費は極めて大きな割合を占める要素だからだ。それにもかかわらず、人件費の管理が合理的に行われておらず、いまだに年功で決められたりして人件費の高騰化を招いている。これでは、日本はグローバル市場で戦えないだろう。
--そうした課題に対して、貴社ではどのような対応が必要だとお考えですか。
第一歩として、現状を正しく、合理的、科学的に分析し、認識することが重要だ。これがない限り人事施策を正しく打ちようがない。今、自分の企業の現状がどうなっているのか。例えば、人件費が高いのか、人員数が多いのか、人員構成がどういびつなのか、平均年齢的に見ると何が問題なのか、成果主義は機能しているのかいないのか。これらが把握されていない中で、あやふやな現状認識に基づいて雇用に関する重要な施策を行おうとする企業が少なくないようだが、非常に残念だ。
第一歩として、現状を正しく、合理的、科学的に分析し、認識することが重要だ。これがない限り人事施策を正しく打ちようがない。今、自分の企業の現状がどうなっているのか。例えば、人件費が高いのか、人員数が多いのか、人員構成がどういびつなのか、平均年齢的に見ると何が問題なのか、成果主義は機能しているのかいないのか。これらが把握されていない中で、あやふやな現状認識に基づいて雇用に関する重要な施策を行おうとする企業が少なくないようだが、非常に残念だ。
とはいえ、人事領域の現状を正しく、合理的、科学的に把握するということがそう簡単ではないことも事実だ。経営管理の他の分野に比べて、人事管理は非常に遅れている。その大きな理由の一つとして、人事について議論する共通のプラットフォームがないということがある。そもそも人事用語が統一されていない。同じことを等級制度と言ったり、グレード制度と言ったり、そこに昇給の機能が入っているのかいないのかもバラバラで、経理用語のように世の中で明確に定義されていない。また、経理の分野での資本回転率や営業利益率といったものに相当する、客観的な指標も確立されていない。
こうした背景があり、合理的、科学的な人事管理が企業に根付いていない中で、経営者の人事に対する物の見方が非常に主観的だったり、偏っていたり、正しくなかったりする場合が往々にしてある。例えば、自分の会社の給料が高いかどうか、人員の数は何人が適正か、人員の構成はそれでよいかと問われて、感覚値ではなく、裏付けのある答えを即座に出せる経営者の方は少ないのではないか。
本来、経営計画を達成するために必要な人材を提供し、必要なパフォーマンスを上げていくことが人事管理の重要なミッションであると仮定すれば、経営計画が変わることによって、人員数、人員構成はもちろん、人事制度も変わるのが当たり前だ。しかし、これだけ経営環境が変化しているのに、人員構成も人事制度もそれほど大きく変わっていない会社がまだ多い。これは、人事が経営と連動していないことを示している象徴的な現象だ。
必要な人事制度や人員数は、本来、経営計画から合理的に導かれるはずだ。
--そうした中で、貴社がどのようなサービスを提供されているのか、特徴と考え方を教えてください。私どもは、まずクライアント企業の現状について、定量的な情報に基づく客観的な分析を行っている。この段階でインタビューは一切しない。医者は問診するが、患者の言うことが正しい症状とは限らない。血液検査やレントゲン検査など客観的に調べて得られた内容を重視し、どんな病気かを診断するものだ。同様に、私どもも企業の人事領域の現状がどうなっているか、客観的に診断できる項目を用意している。完全に定量的な分析・診断であることがサービスの大きな特徴だ。
そして、診断した結果を受け、施策をご提示する段階では、人事諸制度の設計をはじめ、理論的に正しいと思われる手法をできるだけツール化、プロダクト化して、社内のどのコンサルタントが担当しても、機能や品質の面で同じレベルのサービスを提供できる体制を作っている。
たとえば、給与に高業績者と低業績者でメリハリをつける方針を打ち出す場合、優秀な人の給与をどれだけ上げ、そうでない人はどれだけ下げるのかについては、理論的ではなく感覚に依存して決定されている場合が意外と多い。しかし、客観的なデータに基づき、業界の労働市場的な合理性という観点から年収設計をすると、一定の算式で最適なメリハリの解が導き出せる。
--人事コンサルティング会社として、こういう存在でありたいという思いや、志などをお聞かせください。
合理的、科学的な人事管理というものを、世の中にもっと広めたいという思いが強くある。人事領域の現状を定量分析することは企業にとって当たり前で、それをやらなければ始まらない。そういう感覚が普通になり、スタンダードになっていくようにしていきたい。私どもが得た知見は書籍やレポートの形で積極的に公開・発信しており、それが日本の人事管理のレベルを押し上げる基盤になっていけばと考えている。
合理的、科学的な人事管理というものを、世の中にもっと広めたいという思いが強くある。人事領域の現状を定量分析することは企業にとって当たり前で、それをやらなければ始まらない。そういう感覚が普通になり、スタンダードになっていくようにしていきたい。私どもが得た知見は書籍やレポートの形で積極的に公開・発信しており、それが日本の人事管理のレベルを押し上げる基盤になっていけばと考えている。
私どもは、クライアント企業に対して年間約250件の組織・人事コンサルティングサービスをご提供しており、こういう症状ならこういうソリューションの組み合わせが有効だといった治療方法についても、カルテが相当蓄積されている。これをぜひ多くの企業にご活用いただきたい。人事管理の分野は遅れていると申し上げたが、逆に言えば、だからこそチャンスになり得る。合理的、科学的な人事管理は、企業にとって極めて大きな武器である。企業の方々にそのような認識が広まり、成長への契機としていただけることを願っている。
株式会社トランストラクチャ 代表取締役 シニアパートナー 林 明文
青山学院大学経済学部卒業。 トーマツコンサルティング株式会社に入社。人事コンサルティング部門シニアマネージャーとして数多くの組織、人事、リストラクチャリングのコンサルティングに従事。大手再就職支援会社の設立に参画し代表取締役社長を経て現職。講演、執筆多数。直近の著書「人事の定量分析」(中央経済社)等- 1