服部 泰宏 氏
著者:

神戸大学大学院 経営学研究科 教授 服部 泰宏 氏

神戸大学大学院経営学研究科 教授。神奈川県生まれ。 国立大学法人滋賀大学専任講師、同准教授、国立大学法人横浜国立大学准教授、国立大学法人神戸大学准教授を経て、 2023年4月より現職。 日本企業における組織と個人の関わりあいや、ビジネスパーソンの学びと知識の普及に関する研究、人材の採用や評価、育成に関する研究に従事。 2010年および2022年に組織学会高宮賞、 2014年に人材育成学会論文賞、2020年に日本労務学会学術賞などを受賞。
神戸大学大学院 経営学研究科

TKGで塾講師をする学生たちが、平均より高いスコアを示す

調査結果のサマリーを説明します。全体として、TKGの塾講師は高いスコアを示す結果となりました。つまり、学生はアルバイトを通じて社会人としての優秀さを育成することができ、TKGには成長を促す環境が整っていたと言えるでしょう。成長を促す環境を取り上げると、例えば、フィードバック環境はTKG3.547、他のアルバイトは3.268となっており、TKGのほうが高いスコアを示しています。他に、上司・部下の関係の良好さや心理的安全性などで同様の結果が得られました。学生たちの行動面を見ると、これもTKGの塾講師のほうがプロアクティブ行動や経験学習などをより行っていることが見えてきます。

TKG内部での比較、つまり、一般の塾講師とリーダーシッププログラムを受けた塾講師を比較すると、プログラムを受けた塾講師のほうが働きかける力や協調する力をはじめ、グリッドやレジリエンスなどで平均より高いスコアとなりました。プログラムが成長に寄与したことが読み取れます。

このほか、興味深い結果として、TKGの塾講師は必ずしも収入のためだけにアルバイトをしていないことが明らかになりました。他のアルバイトは働く理由について、収入が3.750 と圧倒的に高かったのに対し、TKGの塾講師では収入目的が相対的に下位となっています。むしろ、やりがいや達成感、仲間、使命感を重視していることがうかがえます。人の働く源泉は多様ですが、そのことが学生アルバイトについても当てはまると言えそうです。

【アルバイト業務環境とやる気の源泉に関するTKG学生と一般学生の比較(平均値)】

活躍する社会人に共通する、学生時代の経験と環境とは

フィードバック環境や心理的安全性が成長を促進すると定量調査でも判明

調査結果をさらに深掘り、回帰分析を実施しています。個人または社会人としての成長が塾講師としての経験に起因しているか、因果関係を検証したのです。結論を先に言うと、アルムナイへのインタビューを通じて立てた仮説が、定量の面からも概ね支持されました。例えば、フィードバック環境や心理的安全性があると、学生は自分からフィードバックを求めに言ったり、プロアクティブに動き出したりします。学生の成長につながる行動が誘発されていることが明確になったのです。

【TKGにおける成長を規定する要因とその帰結についての因果関係 仮説モデル】

活躍する社会人に共通する、学生時代の経験と環境とは
ここで、TKGの特徴的な環境を2つ紹介します。TKGならではであるものの、何らかの形で他の職場でも実装を推奨する環境です。1つめは、内部・外部の人たちとの交流です。通常、アルバイトは一つの場所で業務を行い、コミュニケーションを取る人たちも限られることがほとんどです。一方、TKGでは同世代の同僚や先輩をはじめ、他の教室などの優秀な人たちと会う機会があります。言ってみれば他流試合を行っており、それが成長を促進していることがわかりました。

2つめは、ネガティブフィードバックです。ネガティブと言っても、悪口とは異なりますし、一方通行のクレームでもありません。「こうしてほしい」「こうしたほうがより良くなる」と主にサービスを提供されている側から出されるフィードバックです。TKGでは指導を受け持つ生徒や親御さんからネガティブフィードバックが出てくることがありますが、信頼関係があり、互いに良くなっていこうという共通の思いを持っています。だからこそ、講師はフィードバックを真摯に受け止め、成長の糧とすることができると考えられます。他の職場で実装することは難しいかもしれませんが、上司や先輩からネガティブフィードバックを行うことは可能ではないでしょうか。

自己を振り返ることが、成長を促す上で重要なポイント

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