若手人材は採用市場において売り手市場である上、キャリア自律の意識が高まる中、現代社会において、若手社員のリテンションが課題となる企業が多くなっている。若手社員の早期離職を防止し、イキイキと活躍してもらうためのオンボーディングをスムーズにするために、人事はどのような取り組みを実施しているのだろうか。
HR総研では、若手人材の早期離職に関する状況や、離職率低下やオンボーディングに向けた人事の取組みなどの実態を把握するアンケートを実施した。若手社員の離職の要因や人材定着に効果的なオンボーディング施策など、様々な項目に関する調査結果を以下に報告する。

離職率が高い割合は中堅企業で4割近く、「次世代リーダー育成の停滞」への懸念

まず、離職率の高さの現状から見ていく。
企業規模別に離職率の高さを見ると、いずれの企業規模でも「普通」の割合が最も高く、3~4割近くとなっている。「高い」「やや高い」を合計した「高い派」の割合は、従業員数1,001名以上の大企業では32%で3割程度、301~1,000名の中堅企業では35%と4割近く、300名以下の中小企業では28%と3割近くとなっており、中堅企業が大企業や中小企業よりやや高い割合となっている(図表1-1)。

【図表1-1】企業規模別 離職率の高さ

HR総研:「若手社員の離職防止とオンボーディング」に関するアンケート 結果報告

このような離職率の高さに対して、どの程度の課題感を持っているかを確認したところ、最も高い課題感を持っているのはやはり中堅企業であることがうかがえる。「課題感がある」と「やや課題感がある」を合計した「課題感がある派」の割合は、大企業では57%と6割近く、中堅企業では71%と7割、中小企業では46%と半数近くとなっており、中堅企業での課題感が顕著に高いことが分かる(図表1-2)。

【図表1-2】企業規模別 離職率の高さに対する課題感

HR総研:「若手社員の離職防止とオンボーディング」に関するアンケート 結果報告

課題感の内容としては、大企業と中小企業で最も多く挙げられているのが「採用・教育コストの損失」と「次世代リーダー育成の停滞」で、それぞれ65%、61%と6割を超えている。一方、中堅企業で最も多く挙げられているのが「次世代リーダー育成の停滞」で81%と顕著に高い割合となっている。中堅企業では大企業と比較されやすいため、処遇や職場環境などでより条件の良い大企業が転職先として候補に挙がりやすい。また、ある程度活躍している次世代リーダー候補となる社員ほど、自身の人材市場価値を見極めて大企業への転職を検討する傾向が強くなることが、「次世代リーダー育成の停滞」という課題が中堅企業で最も多くなる背景にあるのではないだろうか。中堅企業では「既存社員の負担の増加」の割合も高く63%となっている。これが次の離職者層を生み出すリスクを孕んでおり、次世代リーダー候補となる社員が離職することによる影響が大きいことを推測できる(図表1-3)。

【図表1-3】企業規模別 離職率の高さに対する課題感の内容

HR総研:「若手社員の離職防止とオンボーディング」に関するアンケート 結果報告

若手人材の離職の要因、大企業では「業務内容のミスマッチ」が最多、中堅企業では?

直近1年間の若手人材の離職率を企業規模別に見ると、大企業では離職率「10%以上」(「10~20%未満」~「40%以上」の合計)が28%と3割以下で、中堅企業では44%と4割を超え、中小企業では30%となっている。この結果から、直近1年間の若手人材の離職率と離職率に対する課題感の高さは比例していることが推測される(図表2-1)。

【図表2-1】企業規模別 直近1年間の若手人材の離職率

HR総研:「若手社員の離職防止とオンボーディング」に関するアンケート 結果報告

それでは、企業が課題感を持つ若手人材の離職の要因にはどのようなものが挙がっているのだろうか。
大企業では「業務内容のミスマッチ」が最多で38%、次いで「待遇」が33%、「上司との人間関係」が32%などとなっている。中堅企業では「待遇」が最多で49%とほぼ半数にも上っており、これに次いで「上司との人間関係」が36%、「業務内容のミスマッチ」が31%などとなっている。中小企業では「上司との人間関係」が最多で34%、次いで「待遇」が30%、「業務内容のミスマッチ」が28%などとなっている。いずれの企業規模においても上位3項目は同じであるものの、特に中堅企業における「待遇」の割合が顕著に高いことが分かる(図表2-2)。また、割合自体は高くないものの、大企業等より中堅企業で顕著に高い割合となっているのが「業務量の多さ」(29%)、「転職市場の情報の多さ」(22%)である。これらの離職の要因を見てもやはり、より待遇や就業環境が良く見える大企業等の情報も得やすく比較しやすい現代社会では、中堅企業という中間的な存在であるからこそこのような要因が転職に繋がりやすいのだろう。

【図表2-2】企業規模別 若手人材の離職の要因

HR総研:「若手社員の離職防止とオンボーディング」に関するアンケート 結果報告

オンボーディング施策の取り組み状況によって異なる離職率、採用段階から注意すべき点とは?

次に、7つの人事施策の推進状況別に離職率の高さを見てみる。
各人事施策を「推進している」~「推進していない」の5段階に分け、それぞれの企業群における離職率の高さの平均値を表している。また、「離職率の高さの差」として「推進している」企業群と「推進していない」企業群の離職率の高さの差を算出し、差が大きい方から順に左側から並べている。
その結果、いずれの人事施策においても「推進している」企業群の方が「推進していない」企業群より離職率が低い傾向が概ね見られている。中でも離職率の高さの差が最も大きいのは「ウェルビーイング経営」で1.24ポイントもの差異が生じている。これに次いで「健康経営」(1.23ポイント差)、「DE&I」、「キャリア自律」(ともに1.08ポイント差)などとなっており、これらの人事施策が若手社員の離職防止に少なからず影響していることが推測される(図表3-1)。

【図表3-1】人事施策の推進状況別 離職率の高さ

HR総研:「若手社員の離職防止とオンボーディング」に関するアンケート 結果報告

また、12項目のオンボーディング施策の取組み状況についても5段階に分け、取組み状況別の離職率の高さ平均値を表している。その結果、離職率の高さの差が最も大きく出ているのは「入社後ミスマッチ防止」で1.57ポイント差、次いで「メンター・バディ制度の導入」が1.56ポイント差、「段階的な業務タスクの割り当て」が1.50ポイント差などと大きな差異が生じており、これら以外の項目でもほとんどの項目で1.00ポイント以上の顕著な差が生じていることが分かる。一方、「経営理念、パーパスの共有」や「明確な期待値と目標の設定」では差異が1.00未満となっており、これらに取り組むだけでは若手人材の離職防止への大きな効果は期待できないことが推測される。採用段階でミスマッチが生じると、その後のオンボーディングでは解決できない状況に陥りやすいため、まずは、採用段階で自社に合った人材を採用できるよう「ミスマッチ防止」が重要であることがうかがえる。その後、新入社員の様々な不安感に寄り添えるメンターやバディの存在とともに、彼らの成長に応じてやりがいの感じられる業務を割り当てていくことで、若手社員が自身とやりがいを持って職務に臨むことができ、自社に定着しオンボーディングが成功するという一面が表れているのだろう。

【図表3-2】オンボーディング施策の取組み状況別 離職率の高さ

HR総研:「若手社員の離職防止とオンボーディング」に関するアンケート 結果報告

それでは、ミスマッチ防止に向けた取組みとしては、どのような取組みで効果が得られているのだろうか。ミスマッチ防止効果の状態別に比較してみると、「ミスマッチ防止できている」企業群で最も多いのは「採用ターゲットの明確化」で51%と半数に上り、次いで「適性検査」が49%と半数程度となっている。ただし、これらの取組みは「ミスマッチ防止できていない」企業群でも4割程度が実施しており、効果有無にかかわらず多くの企業で取り組まれていることがうかがえる。「ミスマッチ防止できている」企業群が「ミスマッチ防止できていない」企業群より顕著に高い割合となっているのが「現実的な仕事情報の事前開示」で、「ミスマッチ防止できている」企業群では41%に上り、「ミスマッチ防止できていない」企業群との差異は15ポイントも生じている。前述したとおり、若手人材の離職の要因として上位に挙がっているのが「業務内容のミスマッチ」であることを踏まえると、採用段階から採用応募者がより具体的にイメージしやすい形で実際の仕事内容について丁寧に伝え、入社後に新入社員のリアリティショックを抑える努力をしておく必要があるのだろう。また、「内定者への定期的なアフターフォロー」も14ポイントもの差異が生じている。内定から入社までの期間で内定者は様々な不安を抱く傾向があるため、それらの不安を解消し安心して入社できるよう、丁寧な内定者フォローも入社後のミスマッチ防止に強く影響を与えていることが推測される(図表3-3)。

【図表3-3】ミスマッチ防止効果別 ミスマッチ防止策への取組み状況

HR総研:「若手社員の離職防止とオンボーディング」に関するアンケート 結果報告

離職防止の効果測定にエンゲージメントスコアを活用する傾向

若手人材の離職防止を意識した取組みを企業規模別に見ると、大企業では「1on1の実施」が最多で38%、次いで「社内コミュニケーションの活性化」が37%、「待遇改善」が33%などとなっている。「1on1の実施」は企業規模が大きいほど割合が高い傾向が顕著で、特に大企業においては、若手社員のマネジメントをする上司の役割を重視する企業が多いことがうかがえる。また、「社内公募制度」も大企業では32%であるのに対して、中堅・中小企業では10%未満となり、大きな差が生じていることも特徴的となっている。この背景には、大企業だからこそ、「社内公募制度」を導入することで若手社員が転職する前にキャリア自律したいニーズに応え、リテンションを図ることができるのだろう。中堅企業では、「待遇改善」が最多で49%、次いで「教育・研修制度の強化」が40%、「職場環境の向上」が38%などとなっている。中堅企業の離職の要因として「待遇」がトップであったことからも、「待遇改善」が最多となることはうなずける結果となっている。その他にも多くの項目で中堅企業の取り組む割合が高くなっており、課題意識の強い中堅企業の多くが様々な取組みを行っていることがうかがえる(図表4-1)。

【図表4-1】企業規模別 若手人材の離職防止を意識した取組み

HR総研:「若手社員の離職防止とオンボーディング」に関するアンケート 結果報告

このような若手社員の離職防止策に取り組む中、取組み効果はどのように可視化しているのだろうか。
大企業では「エンゲージメントサーベイ結果」が圧倒的に多く58%と6割近くに上り、次いで「離職率」が40%、「社員ヒアリング」が23%などとなっている。従業員数が多いことから定量的に把握することが望ましく、離職率より先行して傾向が表れやすい「エンゲージメント」のスコアの活用が広まってきていることが分かる。中堅企業においても定量把握する企業が多い傾向で、「離職率」が最多で51%、次いで「エンゲージメントサーベイ結果」が38%などとなっている。一方、中小企業では「社員ヒアリング」が最多で28%と3割近くとなり、効果測定を定性的に行っている企業が多いことが分かる。また、「効果測定はしていない」が47%と半数近くで圧倒的に多くなっている(図表4-2)。

【図表4-2】企業規模別 若手社員の離職防止策の効果指標

HR総研:「若手社員の離職防止とオンボーディング」に関するアンケート 結果報告

アルムナイネットワークの導入は少数派、導入の目的とは?

ここで、離職する若手人材を対象にしたアルムナイネットワーク(元従業員で形成されるコミュニティ)の導入状況を見てみる。
アルムナイネットワークを導入している割合は4%で、現状ではほとんどの企業がまだ導入していないことが分かる。「導入を検討中」(15%)を合わせると19%と2割程度だが、未だ少数派となっている(図表5-1)。

【図表5-1】離職する若手人材を対象にしたアルムナイネットワークの導入

HR総研:「若手社員の離職防止とオンボーディング」に関するアンケート 結果報告

少数派である「離職する若手人材を対象にしたアルムナイネットワークを導入している企業」における導入の目的を見ると、「優秀な人材の再雇用に備えるため」が最多で67%、次いで「元従業員からの人材紹介を期待して」が44%、「ビジネス機会の創出のため」が33%となっている。必ずしも離職した若手社員自身の再雇用のみを目的としているわけではないことがうかがえる(図表5-2)。

【図表5-2】離職する若手人材を対象にしたアルムナイネットワーク導入の目的

HR総研:「若手社員の離職防止とオンボーディング」に関するアンケート 結果報告

若手社員の「価値観の変化」を感じる企業が過半数、「個人主義」が強まる傾向か

最後に、若手社員の「価値観の変化」について見てみる。
まず、若手社員の「価値観の変化」を感じている割合を見ると、「感じている」が21%、「やや感じている」が33%で、これらを合計した「感じている派」は54%と過半数に上っている。一方、「あまり感じていない」は21%、「感じていない」は僅か5%と1割に満たず、価値観の変化を感じている企業の方が顕著に多いことがうかがえる(図表6-1)。

【図表6-1】若手社員の「価値観の変化」に対する所感

HR総研:「若手社員の離職防止とオンボーディング」に関するアンケート 結果報告

若手社員の「価値観の変化」として主に想定される13項目について、変化が感じられる度合いを5段階評価された結果を見ると、最も変化が感じられるのは「個々人によって働くことへの価値観が多様である」で平均値は3.91で、ほぼスコア4に近い状態となっている。価値観の変化として、そもそも若手社員において価値観が多様化しているという認識が持たれているようだ。これに次いで、「仕事よりもプライベートの充実を重視している」と「自分のキャリアアップのために転職することは自然である」がともに3.89で、個人主義の傾向も強まっていることがうかがえる。その後に続く項目においても、組織より個人の意思や生き方を尊重したい価値観に変化していることが強く読み取れる(図表6-2)。

【図表6-2】若手社員の「価値観の変化」の状況(5段階平均値)

HR総研:「若手社員の離職防止とオンボーディング」に関するアンケート 結果報告

若手社員における価値観の変化が感じられた具体的なエピソードとして、フリーコメントによる主な意見を抜粋し、以下に紹介する(図表6-3)。これらのエピソードから、若手社員における価値観の変化に対する企業の人事担当者や上司の戸惑いが感じられる。

【図表6-3】若手社員における価値観の変化が感じられたエピソード(一部抜粋)

若手社員における価値観の変化が感じられたエピソード従業員規模業種
一律の研修への不満(製造実習など)。自身の職種との関連の薄い研修への意欲低下1,001名以上メーカー
苦手または関心のない上司や先輩へ自分からコミュニケーションをとろうとしない。業務上わからないことがあってもそのままにしていたことがあり、上司が困って人事へ相談にきた。 名札着用を「個人情報なので人に知られたくない」と拒絶する1,001名以上サービス
仕事で分からないことがあると、直接聞きに来るのでは無くてメールやチャットで済まそうとする1,001名以上メーカー
新入社員教育で、ある教育での効果確認の得点が同期の中で最高点だったものを、同期全員の前で紹介・讃えたところ、嬉しいどころか、やや迷惑そうな表情・態度が垣間見えたこと(怒られることは勿論、褒められることでさえも、目立ちたくない傾向が強く、はっきりと見えた瞬間でした。)1,001名以上メーカー
承認欲求が強い301~1,000名メーカー
特に男性育児休業では、3か月~6か月を取得するのが当たり前になってきました301~1,000名メーカー
新規ビジネスについて、本人は声がかかることを待っていたという。成長に対して積極的に見えなかったが、面談してそうではないことに気が付いたことがあった301~1,000名商社・流通
世間で言う程、飲み会等の業務時間外コミュニケーション拒絶感は感じられない。こちらから上手く場を設ければ、意外に積極的301~1,000名情報・通信
自身の価値観に合うと思われる仕事内容へのこだわり、転職に対する心理的ハードルの低さなど301~1,000名商社・流通
仕事よりもプライベートを重視300名以下サービス
社外ネットワークの構築に熱心300名以下マスコミ・コンサル
飲み会などアンオフィシャルな会合への出席はあまりしない一方で、メンバーとのつながりを求めているように感じる300名以下サービス
自分のキャリアアップのためにこの会社で得るものがなくなったと思えば転職活動をするという話をしていた300名以下メーカー
同じような仕事は現在でもできるが、その仕事だけ行うエキスパート的なポストを優先して転職する300名以下情報・通信
何の連絡も無く、退職代行を使い突然来なくなった300名以下メーカー

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HRプロとは

【調査概要】

アンケート名称:【HR総研】「若手社員の離職防止とオンボーディング」に関するアンケート
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2024年10月28~11月5日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:企業の人事責任者・担当者
有効回答:201件

※HR総研では、人事の皆様の業務改善や経営に貢献する調査を実施しております。本レポート内容は、会員の皆様の活動に役立てるために引用、参照いただけます。その場合、下記要項にてお願いいたします。
1)出典の明記:「ProFuture株式会社/HR総研」
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