期限までに、本調査に対して233社から調査票を提出いただいた。本調査の全体傾向について以下に報告する。
回答企業233社の属性概要
本調査に回答した企業の属性は以下のとおりである(図表1-1~3)。
【図表1-1】業種
【図表1-2】従業員規模
【図表1-3】上場タイプ
4分の3の企業で「人材戦略の可視化と発信に経営トップが関与」
まず、調査した項目の中で「特に取組みが進んでいる5項目」について見てみる。今回の調査結果の全体的な傾向として、前回調査時より取組みレベルが向上している項目が大半となっている。その中でも特に向上している、あるいは人的資本経営全体に影響があると思われる項目を、ピックアップしている。
その中の1つ目の項目が「人材戦略の可視化と発信への経営トップの関与」であり、グラフ内の黄色凡例部分が該当する。「人材戦略とその可視化方法の議論に経営トップが関与した上で、社内・社外の双方へ/いずれかへ自らの言葉で発信も行っている」とする企業の割合が74%と4分の3程度となっている(図表2-1)。なお、この割合は2022年に実施した前回調査時より23ポイントも上昇しており、人的資本経営に対する経営トップのコミットメントが重要という認識が、多くの企業に広がっていることがうかがえる。
「人材戦略とその可視化方法の議論に経営トップが関与した上で、社内・社外の双方へ/いずれかへ自らの言葉で発信も行っている」の割合を従業員規模別に見てみると、従業員規模が大きいほど高い割合となっていることが分かる。「300名以下」の中小企業では58%と6割以下であるのに対し、「5,001名以上」の大企業では84%と8割以上にも上っている(図表2-2)。
【図表2-1】人材戦略の可視化と発信への経営トップの関与
【図表2-2】従業員規模別 人材戦略の可視化と発信への経営トップの関与
企業価値向上のストーリー構築ができている企業は半数以上、前回調査より大幅増加
「特に取組みが進んでいる5項目」の2つ目は、「企業価値向上に向けたストーリーの構築」である。この項目では、人的資本経営の目的となっている「企業価値の持続的な向上」につながるように、どのような人材戦略を実践していくのかストーリーを構築し、それを社外に公開しているかについて聞いている。
全体の傾向を見ると、「構築しており、社外にも公開している」の割合は45%、「構築しているが、社外には公開していない」は9%となっており、これらを合計した「ストーリーを構築できている」とする企業の割合は54%で半数を超えている(図表3-1)。
まだ半数を超えた程度であり、決して大半の企業とまでは言えない状況ではあるものの、前回調査ではわずか24%にとどまっていたのに比べると、30ポイントも顕著に上昇していることが分かる(図表3-2)。前回調査の報告時は「取組みが進んでいない項目」として8割近くの企業がストーリーを構築できておらず、目的不在の人的資本経営となっている懸念があるとしていたが、前回調査時から1年経過することで、どのようなステップを踏んで企業価値向上に向けた人的資本経営に取り組んでいくのかを明確にして、経営トップ自身が社内外に発信している企業が大きく増加している傾向がうかがえる。
【図表3-1】企業価値向上に向けたストーリーの構築
【図表3-2】企業価値向上に向けたストーリーの構築(前回調査との比較)
7割の企業で「経営戦略に紐づけた人材戦略とKPIを設定」
「特に取組みが進んでいる5項目」の3つ目は、「経営課題に連動した人材戦略およびKPIの設定、施策の実施」である。
「経営戦略に紐づけた人材戦略とKPIを定めた上で、求める人材の獲得や育成の方針に基づき、具体的な施策を実施している」と回答した割合は58%、「経営戦略に紐づけた人材戦略とKPIを定めており、求める人材の獲得や育成の方針も策定しているが、施策実行には至っていない」は12%で、これらを合計すると、70%の企業で経営戦略に紐づけた人材戦略とKPIが設定されていることが分かる。この割合は、前回調査で39%と4割にとどまっていたのに対して31ポイントも上昇しており、取組みレベルが大きく向上していることがうかがえる。前述のとおり、多くの企業で企業価値向上に向けた人材戦略のストーリーが構築されてきていることで、何をKPIとして設定するべきかを判断しやすくなっているものと考えられる。ただし、人材獲得や育成に関する施策の実施までできているのは6割程度となっているため、今後は、設定したKPIを注視しながら施策の実施・改善へと取り組む企業が増加していくことが望まれる(図表4)。
【図表4】経営課題に連動した人材戦略およびKPIの設定、施策の実施
「多様で柔軟な働き方の実現」は企業にとって必須のミッションか
「特に取組みが進んでいる5項目」の4つ目は、「多様で柔軟な働き方の実現に向けた人事制度の整備・改善」である。
まず全体の傾向を見ると、「概ね必要な制度は整備を行い、制度の活用状況を分析した上で、必要な改善施策を行っている」の割合は52%で半数程度、「概ね必要な制度は整備を行ったが、制度の活用状況は十分に分析できていない」が29%と3割程度となっている。これらを合計すると「概ね必要な整備を行っている」(以下同じ)とする割合は81%と8割程度の企業で必要な人事制度の整備を行っており、半数程度の企業で必要な改善施策まで実行していることが分かる(図表5-1)。この「概ね必要な整備を行っている」とする割合は、前回調査時の52%より29ポイントも増加し、大幅に取組みレベルが向上している。コロナ禍を経験することで、多くの働く人々の価値観が変わったこともあり、「多様で柔軟な働き方の実現」は、働き方の選択肢を増やし自由度を高める上で、企業としてもはや必須のミッションとなっているのではないかと推測される。
従業員規模別に見ると、従業員数が「1,001名以上」(「1,001~5,000名」と「5,001名以上」の合計)の大企業では、「概ね必要な整備を行っている」の割合が89%と9割に上っているのに対して、「300名以下」の中小企業では68%で、21ポイントもの差異が見られる(図表5-2)。中小企業でも7割程度で取り組まれており、決して少ないわけではないものの、大企業に比べると取組みレベルが低くなっている。今後、優秀な人材を確保していくためには、このような多様で柔軟な働き方ができる環境整備を行うことも含めて、社員にとっての企業の求心力を高めていく必要があるだろう。
【図表5-1】多様で柔軟な働き方の実現に向けた人事制度の整備・改善
【図表5-2】従業員規模別 多様で柔軟な働き方の実現に向けた人事制度の整備・改善
8割の企業で「業務デジタル化」を推進
「特に取組みが進んでいる5項目」の5つ目は、「多様で柔軟な働き方の実現に向けた、業務デジタル化の推進」である。人事制度のみでなく、業務のデジタル化も「多様で柔軟な働き方の実現」に向けて非常に重要な要素となっている。
この結果を見ると、「推進しており、デジタル化が可能な業務の大部分はデジタル化できている」が39%、「推進しており、デジタル化が可能な業務の半数程度はデジタル化できている」も39%となっていて、これらを合計した「デジタル化が可能な業務の半数~大部分がデジタル化できている」の割合は78%と8割近くの企業で業務デジタル化を推進しており、4割程度の企業では、すでに大部分をデジタル化できていることが分かる(図表6)。ハンコを押すだけのために出社するという声もよく聞かれていたが、そのような細かな業務も含めて業務全般のデジタル化が推進されることで、「多様で柔軟な働き方の実現」を後押しできるため、多くの企業で一層取組みが進展していくことが望まれる。
【図表6】多様で柔軟な働き方の実現に向けた、業務デジタル化の推進
「人事システムの統合的管理」は前回からほぼ向上せず、データドリブン施策のボトルネックか
次に、「取組みレベルに課題がある5項目」を見ていく。「取組みレベルに課題がある5項目」の1つ目は、「人事システムの統合的管理」である。
「人事のシステム化は領域ごとに進めているが、システム間の連携を取る仕組みがあり、一定の工数をかければデータ連携が可能である」の割合が最多で51%と半数程度となっている。次いで「人事のシステム化は進んでいるが、領域ごとにシステムを構築・利用しておりシステム間の連携はできていない」が27%と3割近く、さらに「人事業務のシステム化はほとんど進んでいない」の7%となっている。これら3項目を合計した「人事システムのデータ連携ができていない」(以下同じ)の割合は85%と9割近くで、ほとんどの企業では工数をかけなければ十分なデータ連携ができないことが分かる(図表7-1)。
前述したとおり、全体的に取組みが進んでいる傾向が見られる一方、「人事システムの統合的管理」については、取組みレベルの向上があまり見られていない項目となっている。前回調査時の「人事システムのデータ連携が十分できていない」の割合は90%で、結果の解説においても「この項目の取組みが進んでいない」と説明したが、そこからほとんど変わらず、9割近くの企業で複数領域にまたがる人事関連のデータ連携に課題を抱える状況となっている(図表7-2)。したがって、「人事システムの統合的管理」に十分に取り組めていないことが、データドリブンな人事施策に対するボトルネックとなっていると懸念される。
【図表7-1】人事システムの統合的管理
【図表7-2】人事システムの統合的管理(前回調査との比較)
KPIの可視化の頻度は「2~6ヶ月以上に1回程度」が8割
「取組みレベルに課題がある5項目」の2つ目は、「人的資本経営や開示で必要なKPIの可視化の頻度」である。
この項目についても全体的に取り組みレベルが高くない状況がうかがえる。図表4で人材戦略のKPIの設定ができている企業が7割以上で、多くの企業で取り組まれていることが示された。一方、KPIのモニタリング頻度については、「必要なKPIデータは1年に1回程度集計し可視化している」が最多で46%、次いで「必要なKPIデータは2~6ヵ月に1回程度集計し可視化している」が33%となっている。これらを合計すると「2~6ヶ月以上に1回程度」の可視化にとどまっている企業が79%と8割にも上っており、中でも、「1年に1回程度の可視化」にとどまっているという企業は半数近くに上っている現状が分かる。もちろん必ずしも頻度高く可視化する必要のないKPIもあるものの、スピーディーに施策のPDCAを回し改善していくためには、KPIの現在地を頻度高く見られることが重要だといえるだろう(図表8)。
【図表8】人的資本経営や開示で必要なKPIの可視化の頻度
「人材ポートフォリオの実現に向けた具体的な計画を立てていない」企業は6割
「取組みレベルに課題がある5項目」の3つ目は、「人材ポートフォリオの充足に向けた目標設定や達成までの具体的計画」である。
全体の傾向を見ると、「人材の現状分析はしたが、必要な人材ポートフォリオを実現するための目標設定や具体的計画は立てられていない」と「人材の現状分析や必要とする人材ポートフォリオの明確化ができていない」がともに最多で30%となっている。これらを合計すると「人材ポートフォリオの実現に向けた具体的な計画を立てていない」とする企業は6割に上り、3割の企業では人材データの現状分析もできていないことが分かる。この人材ポートフォリオの実現に向けた取り組みレベルと、前述した「企業価値向上に向けたストーリーの構築」の取組みレベルには相関関係があり、ストーリーを構築できていない企業ほど、人材ポートフォリオ実現に向けた取組みレベルも低い状況にある関係性が見られている。したがって、どのようなストーリーで人的資本価値向上を目指すかを構築したうえで、それに向けて必要な人材ポートフォリオの明確化や具体的計画を立てていくと、経営戦略とも整合性のとれた人材戦略、さらには人材ポートフォリオの運用につながると推測される(図表9)。
【図表9】人材ポートフォリオの充足に向けた目標設定や達成までの具体的計画
財務指標との関連性の「データ分析ができていない」が8割以上、多くの企業で高いハードルあり
「取組みレベルに課題がある5項目」の4つ目は、「人的資本に係る取組みと財務指標との関連性の整理」である。
「企業価値の向上につながる人的資本経営」になっているかを確認するためには、「人的資本に係る取組みと財務指標との関連性」を分析する必要があるが、ほとんどの企業でこの取組みが進んでいないことが分かる。最も高い割合の項目は「人的資本の取組と財務指標の関連については検討できていない、あるいは検討を始めた段階である」で、65%と7割近くの企業で、人的資本の取組と財務指標の関連を検討できていない状況にある。次いで、「人的資本の取組と財務指標の関連について検討し、概ね整理ができているが、データを用いた分析は行っていない」が19%と2割で、これら2つを合計した「人的資本の取組と財務指標の関連性に関するデータ分析ができていない」とする企業の割合は84%と8割以上にも上っている(図表10)。
財務指標に関しては、人的資本以外の要素による影響も多いなど様々な要因によって変化するため、人的資本に係る取組みと財務指標との関連性の分析は、大部分の企業にとっては未だハードルがかなり高い取り組みであることがうかがえる。
【図表10】人的資本に係る取組みと財務指標との関連性の整理
8割近くで「優秀人材の定着」を目的とした従業員向け開示が十分でない
「取組みレベルに課題がある5項目」の最後の1つは、「社内の優秀人材が重視する指標や取組みの開示」である。
企業価値向上に向けて生産性の高い優秀人材に多数活躍してほしいという企業側の期待を効果的に実現するための施策の一つとして、優秀人材が企業に対してどのような状態を望むかを把握することは、企業にとって重要なことであるが、実態としては、ほとんどの企業で取組みが進んでいないようだ。最も高い割合の項目は「従業員向けに人的資本情報の開示をしていない、もしくは社内の優秀人材が重視する指標や取組みが明確になっていない」で63%と6割以上に上っており、次いで「社内の優秀人材が重視する指標や取組みを明確にした上で、当該情報について従業員に開示しているが、定性情報(文章)が中心となっている」が15%となっている。したがって、8割近くの企業では、優秀人材が重視する指標や取組みを従業員に定量的に開示していない状況となっていることが分かる(図表11)。優秀人材が重視する指標などを把握するためには、それに関するヒアリングやサーベイを実施するなど、少なからず負荷がかかるものの、優秀人材の特徴を把握することで効果的なリテンションにもつながることが期待される。
【図表11】社内の優秀人材が重視する指標や取組みの開示
「ダイバーシティ」の重視が最多、前回調査時より顕著に増加
次に、「人材戦略の中で重要視している指標」について見てみる。
全体の傾向を見ると、「ダイバーシティ」がトップで47%、次いで「エンゲージメント」が45%、「育成」が38%などとなっている。この上位3項目は前回調査と同じだが、前回調査時は「育成」が最多(48%)で「ダイバーシティ」が3位(31%)となっていた。前回調査からの1年で、「ダイバーシティ」をより重視する企業が増加しており、多様性に配慮しながらエンゲージメントの向上を目指している企業が多いことがうかがえる(図表12-1)。
業種別に「重要視している指標のトップ5」を見ると、まず、「ダイバーシティ」「エンゲージメント」「育成」がいずれの業種でもトップ3に入っており、全体の傾向と同様となっていることが分かる。ただし、TOP3以降の項目には違いが出ており、たとえば、「メーカー」では唯一「リーダーシップ」がランクインしている。この背景に、ダイバーシティを重視する一方、ものづくりをしていくために多様な社員を率いることのできるリーダーシップの重要性を感じていることが推測される。「情報・通信」では「採用」と「スキル/経験」がランクインしており、依然としてニーズの高いIT人材などの優秀なエンジニアを確保するために、採用とともに社員のスキルアップやリスキリングも重視していることがうかがえる。さらに「サービス」では、「採用」と「定着」が3割程度ずつ挙がっていることも特徴的である。メーカーなど物理的な商品がある業種と異なり、人が資産という意識が強い業種の特性もあるため、より人材確保への投資を重視する考え方になるのではないかと推測される(図表12-2)。
【図表12-1】人材戦略の中で重要視している指標
【図表12-2】業種別 人材戦略の中で重要視している指標 TOP5
外部に開示する指標も「多様性」が上位2項目を占める
「外部に開示している人的資本項目の指標」も見てみる。
最も高い割合の項目は「働き方の多様性」で86%にも上っており、次いで「多様性の進展度」が73%となっている。上位2項目には「多様性」が共通しており、前述した重視している項目で最多となっていた「ダイバーシティ」とも共通している。やはり、今の社会の動きを考慮するとともに、「個を活かした人的資本の価値向上」を目指す企業であることをアピールする狙いがあることが推測される(図表13)。
【図表13】外部に開示している人的資本項目の指標
【各指標の補足説明】
男女の賃金の差異「60~80%未満」が圧倒的、「情報・通信」が最高
有価証券報告書での開示が義務化されている項目について、特徴的な内容を見てみる。
まず、「正規雇用労働者 男女の賃金の差異」について全体の傾向を見ると、「60~80%未満」が圧倒的に多く7割近くに上っていることが分かる(図表14-1)。
業種別平均値の違いを見てみると、「金融」や「建設・不動産」では6割程度にとどまっているのに対して、 「情報・通信」が8割近くと差異が小さい状況である。「情報・通信」では、現業職とホワイトカラーの違いや、総合職と一般職などの区分の割合が少ない企業が多いと推測され、そうした背景が、他の業種より男女での賃金差異が小さい傾向にある要因の一つであると考えられる。一方、他業種より低い比率である「建設・不動産」と「金融」では、男性総合職が多くを占め、女性における一般職の比率が高い企業が多いことが推測される。この構図は前回調査と大きな変化がない状況で、業種による傾向の違いは、ビジネスの特性上、なかなか変わりづらい状況であることがうかがえる(図表14-2)。
【図表14-1】正規雇用労働者 男女の賃金の差異
【図表14-2】業種別平均値 正規雇用労働者 男女の賃金の差異
男性の育児休業取得率、「金融」がダントツで9割
次に「男性の育児休業取得率」について見てみる。
まず、業種別平均値で比較してみると、金融が最高で89%となっており、前回調査でもダントツでトップの取得率で7割近くだったところから、さらに向上し9割にまで上昇している。 上昇の要因の一つとして、「パパ育休」の新設等により、より男性が育児休暇を取得しやすい環境になってきているのではないかと推測される。一方、「サービス」は最も低く41%にとどまっている。「サービス」という業種の特性上、シフト制をとっている業態の企業も多く、主力メンバーとして活躍する男性社員も多いことを想定すると、休業期間を調整しづらい背景があるのではないかと思われる(図表15-1)。
次に、投資家との対話レベル別平均値で比較すると、投資家との対話レベルが高いほど、男性の育休取得率も高い傾向にあることが明確となっている。人的資本に関する情報を「開示していない」企業群では男性育休取得率が45%にとどまるのに対して、「開示し、定期的に対話を行っている」企業群では67%であり、この企業群間での差異は22ポイントにも上っている(図表15-2)。
したがって、人的資本開示をするだけではなく、その情報を元に自社の状況や今後の方針等について投資家と密にコミュニケーションをとる企業ほど、男性の育休取得の推進に力を入れていることがうかがえる。
【図表15-1】業種別平均値 男性の育児休業取得率
【図表15-2】投資家との対話レベル別平均値 男性の育児休業取得率
女性管理職比率の最高は「東証グロース市場」の企業群、国の目標値に迫る勢い
続いて、「女性管理職比率」について見てみる。
まず、業種別平均値で比較すると、「サービス」で最も高く20%に上っている。サービス業では、女性就業者率自体が他業種より比較的高く、本調査の結果では39%と4割に上っているため、管理職においても女性比率が高くなりやすいことが推測される。また、「多様性」の一つとしても、女性向け商品やサービスの開発において女性視点を重視する企業も少なくないことも背景にあるのだろうと考えられる(図表16-1)。
次に、上場タイプ別平均値で比較すると、新興企業が多い「東証グロース市場」が最多で27%で、政府が目標設定している30%に迫る勢いとなっている。一方、「東証プライム市場」が最低で10%にとどまっている状況である。老舗の大手企業が多く、男性社会の風土が未だ根強いことがその背景にあると推測される。また、女性活躍推進の対象は今の20~30代の女性社員が中心となっているため、直近で管理職対象となり得る年代での女性の正社員比率自体が低いことから、管理職比率に反映するには時間がかかることも要因の一つとして挙げられるだろう(図表16-2)。
【図表16-1】業種別平均値 女性管理職比率
【図表16-2】上場タイプ別平均値 女性管理職比率
「人的資本調査2023」全体傾向のまとめ
最後に、「人的資本調査2023」の全体傾向について、改めて以下にまとめる。
まず、全体傾向については、全体的に取組みレベルが顕著に向上している項目が大半となっている。 企業価値向上に向けた人材戦略のストーリーを構築したうえで、経営トップがコミットし、自ら発信している企業が顕著に増加していることが分かった。また、「多様で柔軟な働き方」の実現に向けた環境整備は、企業にとって基本的な取組みとなっている傾向があり、特に大企業においてその傾向が強く見られた。一方、「人事システムの統合的管理」の取組みレベルは前回調査時から向上しておらず、これがボトルネックとなってKPIの設定・可視化、人材ポートフォリオの運営、さらには財務指標との分析などのデータドリブンな人事施策を進めづらい状況となっていることが懸念される。
「重視指標・有報開示義務化項目の現状」については、「ダイバーシティ」の重視度が顕著に高まる傾向が見られ、開示項目でも「多様性」に関わる項目が上位2項目を占めている。社会全体として「多様性」を重視するという流れを意識するとともに、「個を活かした人的資本の価値向上」を目指している企業として社会にアピールする狙いがうかがえる。また、有報開示義務化項目の取組みレベルは、業種の特性による違いが根強い現状が垣間見えた。各種取り組みレベルの向上には、「投資家との対話レベル」が強く影響している傾向も見られた。投資家と密にコミュニケーションをとる企業ほど、人的資本経営の現状だけでなく、今後の方針から自社の企業価値向上に向けたストーリーについて、いかに説得力を持って語るかを強く意識して取り組んでいることがうかがえる結果となっている。
【調査概要】
アンケート名称:人的資本調査2023
調査主体:一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム
HR総研(ProFuture株式会社)
MS&ADインターリスク総研株式会社
調査期間:2023年9月11日~12月15日
回答方法:回答専用フォームにて期限内に回答し、事務局へ返送。
調査対象:上場企業、非上場企業を含むすべての企業・団体
有効回答:233件
※HR総研では、人事の皆様の業務改善や経営に貢献する調査を実施しております。本レポート内容は、会員の皆様の活動に役立てるために引用、参照いただけます。その場合、下記要項にてお願いいたします。
1)出典の明記:「ProFuture株式会社/HR総研」
2)当調査のURL記載、またはリンク設定
3)HR総研へのご連絡
・会社名、部署・役職、氏名、連絡先
・引用元名称(調査レポートURL) と引用項目(図表No)
・目的
Eメール:souken@hrpro.co.jp
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