肉体を使う「肉体労働」、頭脳を使う「頭脳労働」に加え、感情を使う「感情労働」の比重が増している。今回は、感情労働を相手に与える「負い目感情」の視点から、考えてみる。
「『負い目感情』の共有」と「『負い目感情』の拒否」
スポーツチームの試合等では、「負い目感情」が選手のモチベーションとなり良い結果を生むことがある。例えば、野球のヒーローインタビューで、
「自分のエラーで皆に迷惑をかけた。だから、何としてもバッティングで結果を出して、取り返したかった」、「前の試合では、投手が良いピッチングをしているのに、得点できずに負けて申し訳なかった。今日は得点を挙げて、投手を楽にさせてあげたかった」
・・・などという言葉をよく聞く。
似たような事は私たちの職場でもよく有ることでは無いだろうか。例えば、「自分のミスを誰かにカバーしてもらった。だから、何とかしてミスを取り返そうと思った」「同僚がチームのために頑張っているのを見て、彼(彼女)だけに負担をかけてはならない、と自分も必死に頑張った」といったことは、意識的(又は無意識的)に日常的な仕事の成果に良い影響を及ぼしている事は多いかもしれない。
「自分が迷惑をかけた」「自分は誰かに助けてもらっている」という感情を仮に「負い目感情」と呼ぼう。そうであれば、職場内での「『負い目感情』の共有」が職場の倫理を形成し、職場を円滑にし、チームとしての成果を上げる要因となり得る、とも言える。
では逆に「『負い目感情』の拒否」が頻繁に起きている職場ではどうであろう。「自分のミスを誰かにカバーしてもらった。それはチームなのだから、当然のことだ」「同僚がチームのために必死に頑張っている。彼(彼女)に任せておけば、自分は楽をしていても大丈夫だ」。・・・あまり良い職場とは言えないかもしれない。
しかし「『負い目感情』の拒否」が仕事のレベルアップにつながる事もある。
例えば、店舗での店員が客に対して良いサービスを提供する。客は最初は良いサービスに満足し、店員に感謝の意を表することもあるかもしれない。しかし、それが常態化すれば、そのサービスを当たり前だと思われるようになる。たとえば、「これくらいのサービスを受けるのは当然だ」といったように。すると、より良いサービスを提供するために、店員は更なるレベルアップをしようと思うだろう。客が思う「『負い目感情』の拒否」が、店員のレベルアップにつながるわけだ。
上記を整理すると、
「『負い目感情』の共有」=倫理の形成、メンバーシップの安定
「『負い目感情』の拒否」=優位競争によるレベルアップ
ということになる。
人は仕事に魂(=自分の人格)を込める。その成果は相手にどのように受け取られているか?
必死に仕事をする、ということは、少し精神論的な表現になるが、仕事に魂(=自分の人格)を込めることでもある。物作りの職人ならば「物」に、農業従事者ならば「作物」に、魂(=自分の人格)を込めるであろう。(しばしば彼らは、「物」や「作物」を「自分の分身」であるかのように語る。)これはあらゆる職業に当てはめることができる。営業職であっても、接客業であっても、事務職であっても・・・、自分自身が必死に仕事に取り組むということは、その成果に対して、魂(=自分の人格)を込めることでもある。そして、人に対して『負い目感情』を与えるのは、成果に魂(=自分の人格)を込めた仕事である。
「感情労働」の問題は、正にそこにあるのかもしれない。前回、対人間の仕事に「深層演技」が求められる傾向にあることを書いた。「深層演技」とは、「自身が経験する感情そのものを状況に適したものに変化させる事により、自然とそれに伴う表出が生まれることを志向するもの」とした。そして、例示として「客室乗務員」が、内面の感情でさえ表面の演技と同じ感情を持つよう求められ、不快な乗客に対しても心から笑顔を表出し、適切なサービスを行うよう訓練されることを指摘した。
つまり成果に魂(=自分の人格)を込める、という行為が求められている、ということではないだろうか。
ポイントは、その成果にたいして相手方にどう受け取って貰えるかである。
表層演技による感情労働に対して
①相手が「『負い目感情』を感じ共有」=承認された。仕事の悦び。
②相手が「『負い目感情』を拒否」
=(A)共有して貰えるよう頑張ってレベルアップしないと。
=(B)あるいは、疲弊。
必ずしも常に①であることが良いわけでは無い。②の場合であっても、(A)であればよい。ただし、(B)となったときに感情労働の問題点が表面化するのである。
あなたの職場においては、どのような『負い目感情』が、どのように作用しているだろうか?
前回に指摘した会社組織の倫理・行動規範も、職場の『負い目感情』の動きを考慮したものにすることも、必要かもしれない。
オフィス・ライフワークコンサルティング
社会保険労務士・CDA 飯塚篤司