つぶれない会社の共通点は全社員が経営者目線――『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』著者前田 康二郎氏インタビュー

HRプロで好評のうちに最終回を迎えた連載「その働き方改革は利益が出るのか」。このコラムを執筆していた経営コンサルタントで作家の前田 康二郎の新刊『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』が、6月26日に発売された。経営プロ編集部では、前田氏にインタビューを実施し、この書籍の読みどころについて話を聞いた。

新型コロナウイルスの感染拡大は、日本経済に大きな打撃を与えた。連日、新聞やテレビでも、売上減に悩む企業やリストラ、倒産情報など経済の悪化を示す話題が報道されている。数多くの企業で経理として活躍した後、経理視点のコンサルタントとして独立し、リーマンショックで経営難に陥っていた多くの企業を支援した前田氏のもとには、新型コロナウイルスの影響を受けた経営者からの相談が多数寄せられているという。相談を受けているなか再認識したのが、経理の視点から経営戦略を立てることの重要性だそうだ。

これからの経営戦略は、経理の視点が求められる

――ご出版おめでとうございます。『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』という書籍名にある「経営経理戦略」という言葉が新しいですね。どういった意味が込められているのでしょうか。

前田 ありがとうございます。「経営経理戦略」は、「経営戦略」に「経理」という言葉を入れた造語で、数字を意識した経営戦略が、今後はより必要になってくるというメッセージを込めています。

――なぜ数字を意識した戦略が必要になるのでしょうか。

前田 新型コロナウイルスの感染拡大によって、日本の経済は急激に落ち込みました。多くの企業が、このような不測事態を想定しておらず、急激に業績を落としています。しかし、超一流の経理部隊がある企業は今回のような有事でも業績を維持しており、中には向上させている企業もあります。超一流の経理は平時でも、常に最悪の想定をしているからです。

新型コロナウイルスが出てくる前からVUCAの時代=不確実性のある時代と言われていました。それが、新型コロナウイルスによって顕著になりました。このような中では、会社全体の利益を意識できる、いわば経理の視点が経営戦略で求められます。緊急事態宣言以降、多くの企業の話が私の耳に届いていますが、総じて経営危機に陥っているのは、経理を軽視している傾向のある企業ばかりです。
つぶれない会社の共通点は全社員が経営者目線――『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』著者前田 康二郎氏インタビュー

つぶれない会社は全社員が経営者目線

――「超一流の経理」は、具体的にどのような特徴を持っているのでしょうか。

前田 経理に限らず、経営者の視座がある社員を「超一流」だと考えています。例えば、営業であれば、管理職に限らず自分の部署だけでなく、会社全体の数字を見て、企業の業績を動かすような仕事をする人材です。自部署の予算の範囲で目標達成まで導くことも素晴らしいですが、私の中では、それは一流止まりの仕事です。会社全体を見るか、自分の関係する部分だけを見るか、そこが明確な違いです。

――経営経理戦略を実行するうえで、欠かせないスキルが「経営者の視座」なのですね。

前田 そうですね。非常事態下でもつぶれない会社には、“全社員”が経営者の視座を持っているという点が共通しています。平時から危機に対応できるアイディアが揃っているので、備えができているんです。今回のコロナ禍に限らず、例えば、何か災害やサイバーテロなどが今後起こっても、超一流の社員が集まる会社は有事でも平時のように振る舞えるのではないでしょうか。

危機の際は、包み隠さず全社員に発信すべき

つぶれない会社の共通点は全社員が経営者目線――『つぶれない会社のリアルな経営経理戦略』著者前田 康二郎氏インタビュー
――今回の書籍は、危機的な状況下において、会社をつぶさない、組織を強くしていく戦略のヒントがいくつも紹介されています。ずばり、どのような方に本書を読んでいただきたいでしょうか。

前田 もちろん経営者の方や、経営に携わるポジションの方です。ただ、経理や人事などの管理部門の方、営業職のメンバークラスでこれまで数字をあまり意識してこなかった方など、コロナ禍での企業経営に危機感を持った方には、必ず参考になると自負しています。

――経営プロでは、主に経営層の方々に向けて情報を発信しています。本書の中で、特に読んでほしいところがありましたら教えてください。

前田 経営層の方には、第2章『経営危機に陥ったら、すぐやらなければいけないこと』を読んでいただきたいと思っています。この章は、経営危機に陥った際に、すぐ実行しなければならない取り組みをテーマにしています。危機的状況に陥ると、経営者は一人で抱え込み、自分でなんとかしようとしがちです。そうではなく、まず自社が危機にあることを包み隠さず社員に発信してほしい。よく知り合いの経営者から、「危機を煽ると、社員が不安になって辞めるかもしれない」という声を聞きます。それも一理ありますが、まずは社員に現状を把握してもらわなければ、そもそも何が課題なのかを社員が理解できず、危機を乗り越えられません。

――まず社員に危機感を持たせることが大事だと。

前田 そうです。危機を感じて辞める社員も当然いるので、その覚悟は必要です。一方で、危機を伝えることで「残る選択」をする社員もいます。そして、ただ伝えるだけでなく、全社員を巻き込み、できるだけ多くの社員に相談することが大事なのです。優秀な社員こそ、経営層から頼られたいと思っています。

また、全社員を巻き込むことで、若手社員からも思わぬヒントが出てくるかもしれません。それをきっかけに、新規事業が成功する可能性は十分あるでしょう。会社をつぶさないためには、既存事業の売上を伸ばすか、新規事業を立ち上げるしか手段はありません。短期間に行動に移すには、積極的にアイディアを社員に募る姿勢が重要になります。

数字がわかる社員が増えれば、自社のビジネスチャンスが拡大し社員のやる気も向上

――新規事業を考えるうえで、経理の視点が大事になりそうですね。

前田 新規ビジネスを考える際、数字を理解できなければ、すぐに事業は赤字となります。そうならないためにも、本書では数字の見方や新規事業の考え方などを社員にどう身につけてもらうかも紹介しています。社員それぞれが利益を何%残すといった経営上の数字を理解できれば、自社のビジネスチャンスは広がり、全員で危機を乗り越えようとします。相乗効果も生まれ、組織内の各社員のモチベーションはぐんと上がるんです。

――有事のモチベーションコントロールは、これからの経営でも重要になりそうですね。

前田 有事の経営のヒントでは、もう一つ、組織に無駄がないかを見直すことがポイントです。第10章『潰れない会社は、組織を経理的視座から見ている』でも触れていますが、日本はカタカナ表記の雰囲気役職、雰囲気職種を設置する企業が多すぎると感じています。役割が分かりにくいというだけでなく、日本語表記で同じような部署や役職があり、必要以上に組織が膨らんでいることもあります。

これでは、危機的状況に陥った際、組織のムダを解消するためにリストラを実行する必要が出てきてしまいます。不必要な役職や職種のために採用の募集をかけていないか、いま一度見直してほしいですね。必要最低限のスリムな組織体制であれば、痛みを伴うリストラは回避できます。

――確かに、名称だけではイメージしにくい役職は増えているように思います。最後に経営プロの読者にメッセージをお願いします。

前田 コロナ禍の危機的状況において、経営層の方には絶望だけはしないでいただきたいです。有事の際は、混乱が起きやすいので経営の軸もぶれやすくなるのは当然です。そこで、本書を読んでいただき、ご自身の軸を再確認して経営に改めて向き合ってほしいと思っています。今回の新型コロナウイルス感染拡大の動向がどうなるかは誰にも予測できませんが、今後何が起きても戦略次第で売上ゼロという危機は回避できます。つぶれない会社は、リスクヘッジのできる新規事業を開発しています。新規事業のノウハウについては、本書の第7章『経理的視点による会社を潰さない新規事業や多角化の立て付け方』で詳しく紹介しているので、経営計画のヒントにしていただけると幸いです。

インタビューを終えて

インタビューを通して前田氏が、企業が経理を軽視する風潮を憂いていたことが印象的だった。危機察知能力が高い超一流の経理は、新型コロナウイルス感染拡大は予見できなくとも、不測の事態に陥った際にどのような選択肢があるのかを想定できている。しかし、経理の役割を帳簿作成だけと見ている経営者が少なくなく、そういう企業ほど苦境に陥っているというのだ。本書では超一流の経理視点でどう経営戦略を立てるのか、新規事業を作るのか、といった方法が分かりやすく紹介されている。コロナ禍で悩む経営者の方は、今からでも遅くないので、本書を手に取りこの危機を乗り越え、チャンスに変えていただきたい。(経営プロ編集部)