Panasonic Beautyは「忙しいひとを、美しいひとへ。」をコンセプトに「ながらビューティ(効率美容)」という斬新なカルチャーを作り出した、美容家電のカテゴリ・ブランドだ。緻密なブランディングは女性の共感を呼び、美容家電市場における持続的競争優位をもたらしている。Panasonicは社内に広告のクリエイティブ部門を抱えており、今回登壇した齊藤氏はコピーライター、CMプランナー、クリエイティブディレクターといった広告表現における幅広い役割を担う。また商品開発やユーザーコミュニケーションの軸となるコンセプトの構築も担当しているという。ブランド全体のディレクションを担う齊藤氏が、Panasonic Beautyのマーケティング戦略を通じて、ブランドの成り立ち、成長、ビジョンについて紹介した。
齊藤 美和子 氏
パナソニック(株)コンシューマーマーケティング本部 コミュニケーション部
クリエイティブ課主幹
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本講演は、日本科学技術連盟主催の、「クオリティフォーラム2017」
における講演内容をまとめたものです。
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パナソニック(株)コンシューマーマーケティング本部 コミュニケーション部
クリエイティブ課主幹
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本講演は、日本科学技術連盟主催の、「クオリティフォーラム2017」
における講演内容をまとめたものです。
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Panasonic Beautyは「忙しいひとを、美しいひとへ。」をコンセプトに「ながらビューティ(効率美容)」という斬新なカルチャーを作り出した、美容家電のカテゴリ・ブランドだ。緻密なブランディングは女性の共感を呼び、美容家電市場における持続的競争優位をもたらしている。Panasonicは社内に広告のクリエイティブ部門を抱えており、今回登壇した齊藤氏はコピーライター、CMプランナー、クリエイティブディレクターといった広告表現における幅広い役割を担う。また商品開発やユーザーコミュニケーションの軸となるコンセプトの構築も担当しているという。ブランド全体のディレクションを担う齊藤氏が、Panasonic Beautyのマーケティング戦略を通じて、ブランドの成り立ち、成長、ビジョンについて紹介した。
テクノロジー訴求で女性ターゲットに響くのか?
美容家電とは肌や髪のベースケアができる家電を指し、ユーザーの大半を女性が占める。特徴は必需品ではなく「必欲品」という点で、一般的なドライヤーは市場平均単価が3,000円程度であるのに対し、美容家電のドライヤーは2万円程度。つまり放っておいても買い換えは起こりにくく、常に需要創造が必要な分野だ。ビューティー市場における美容家電の市場規模はまだまだ小さいが、その分今後の伸び代が大いに期待されており、Panasonic社内でも高成長を目指す事業と位置付けられている。
カテゴリ・ブランドのPanasonic Beautyは2008年の社名変更に伴い誕生。当時、他社との差別化ポイントは技術力と定義され、「美しいをつくる、テクノロジー」というコンセプトが採用された。しかし齊藤氏は「テクノロジー訴求や、女性にとってはスケールが大きすぎる『世界初』といった表現で、果たしてターゲットに響くのか?」と強い疑問を持っていたという。
この2年後の2010年、同ブランドはコンセプトを刷新して「忙しいひとを、美しいひとへ。」を掲げた。忙しい生活の中でも効率的に美しくなる「効率美容」を提案するものだ。コンセプト設定の背景にあったのが、効率美容を象徴する画期的な商品「ナイトスチーマー」の誕生だったと齊藤氏は語った。
「忙しいひとを、美しいひとへ。」 圧倒的な共感を呼ぶコンセプトの成り立ち
Panasonic Beautyは元々スチーマーを販売していたが、販売台数は伸び悩んでいたという。そこで対策を検討するために女性の生活実態を調査したところ「美容のケアをしたくても時間が確保できない」という実情が浮かび上がってきた。ここから生まれたのがナイトスチーマーだ。最大の特徴は「眠っている間にエステが可能で、肌も髪もうるおう」という全く新しいライフスタイルを提案したこと。実はスチーマーには確実に需要があった一方で、「スチーマーを使う時間のゆとりがない」という声も多かったそうだ。
ナイトスチーマーの主なコミュニケーション戦略は以下の2点。
●口コミの拡散を加速させるため、技術や肌効果よりも「寝ながら使う」という使用シーンを強調して驚きを演出。
●女性の本音に迫るコピーとして「最近、キレイになるヒマがない」を採用。共感してくれる人が必ずいると確信するまでこだわった。
この結果、ナイトスチーマーは大ヒット。初年度に当初の計画の3倍にあたる15万台を突破するなど市場に新しいポジションを確立した。そしてこのヒットを受けて「忙しいひとを、美しいひとへ。」というコンセプトが誕生し、美容家電にしか実現できない美の提供を技術訴求からライフスタイル訴求に変更したのだ。
齊藤氏は同ブランドのマーケティング戦略について「機能だけではなく商品が提供する価値・ベネフィットを伝えること。確かなエビデンスで実感の声を広げること。そして女性の共感を獲得し、必欲品を必需品に変えていくこと」と解説した。
ターゲティングによる市場開拓へのチャレンジ
同コンセプトは現在まで継続して使用されているが、実は2度のリノベーションが行われている。1度目のリノベーションのきっかけは、ナイトスチーマーのヒットを受けて競合他社が相次いで参入し、競争力を高める必要性が出てきたことだった。市場優位性を高めるために幅広い世代を対象に大規模な定量調査を実施したところ、「若い世代ほど美容商品の利用意向が高いが、この世代にスチーマーは売れていない」という矛盾を発見した。
そこで、数字だけでは把握できない実態に迫るため定性調査を実施。一般女性ユーザーや、女性をターゲットにした商品を扱う企業の担当者を対象に、女性の美容意識・消費行動について徹底的に取材したという。
この取材で明らかになったのが「20代にとって美容家電が『自分ごと化』されていない」ということだった。
新たに20代後半の女性をターゲットに定めた同ブランドは、コンセプトのリノベーションに着手。等身大で身近なイメージを重視しながら「もう、今までのケアじゃだめなんだ」という意識を顕在化させ、影響力の強いマスメディア広告を通じて「20代後半=美容家電適齢期」と気付かせる表現を模索したそうだ。
●広告表現で潜在需要を喚起
様々な訴求パターンを20代女性に見せて調査した結果、日常に潜む美容に対する悩みや不安を言葉で提示する手法が効果的だと判明。気付きのプロセスを踏ませることで商品との出会いがより印象的になり、必要性が高まる。
当時のリノベーションの経験から、齊藤氏は「誰でも簡単に情報発信できる時代になり、企業からの一方的なメッセージや表面的な表現では見向きもされない。より踏み込んだ表現で、一歩近づいてコミュニケーションをとろうとする姿勢を示すことで、やっとターゲットと会話できる」と述べた。
これらの取り組みの結果、ドライヤーの販売で過去最高を達成するなど、同ブランドは大きく盛り返した。また、20代の認知率も前年から10ポイントアップし、スチーマーの購入者も20代がトップになるなど、ターゲットの需要喚起にも成功した。
コモディティ化を防ぐ2度目のリノベーション
若年層へのプロモーションの強化で成功を収めたPanasonic Beautyは、新たに「ブランドのコモディティ化(高付加価値を持っていた商品の市場価値低下)」という課題に直面した。美容家電専業メーカーが多数市場に参入してきたことで、美容先進層の需要を奪われないようにするための競争力をつける必要が出てきた。そこで2度目のコンセプトのリノベーションに着手。美容先進層のニーズに応えたRF美容器を発売し、本格感を醸成して市場での存在感をアピールした。(「RF」とはRadio Frequency(ラジオ フリークエンシー)の略。)また、これまでに獲得した若年層も大切にするために、イメージキャラクターは引き続き水原希子さんを起用した。
1度目のリノベーションとの違いは、美容先進層にとっての美容の課題はすでに顕在化しているため、プロモーションに気づきのステップが必要ない点。コピーには「課題はシビアでも美容家電とともに軽々と乗り越えていってほしい」という思いを込めたという。さらに2017年9月に銀座に体験型サロン「Panasonic Beauty SALON 銀座」をオープンし、同ブランドの商品群の幅の広さや先進感を体感できる場所を設けた。
市場を知ることは、人を知ること
最後に、齊藤氏はブランド力の高め方について次のように述べた。「ブランドとはお客様との信頼関係により形成される。そのために必要なのは、私たちがお客様をよく知った上で自らの意思を固め、それをまたお客様に伝えていく、このサイクルが円滑に回ること。つまりお客様ときちんとコミュニケーションをとっていくことで信頼関係が醸成され、その信頼の強さがブランドの品質を高める。
市場を知ることは、人を知ること。変化を繊細に察知すること。ユーザーをとことん知ること。簡単にわかった気にならず数値化できない本音まで踏み込んで、自信が持てるようになるまで知ろうと努力すること。これが私たちのマーケティングだ」
同ブランドが飛躍するきっかけとなったナイトスチーマーは、実は男性社員からの期待値は非常に低かったという。その理由は「女性は美容に時間をかけるのは当然」という誤った認識を持っており、効率美容の必要性が理解できていなかったからだ。同ブランドのマーケティングが成功した秘訣は、徹底して顧客に寄り添う姿勢にあったと言えよう。