クオリティフォーラム2017 登壇者インタビュー 共生型ものづくり社会「Factory of the Future」を目指す~日立流IoTの実践~日立製作所 IoT推進本部 担当本部長の堀水修氏に聞く(後編)

戦後、荒廃した日本から産業界が復権し高度成長時代を経て、高いグローバル競争力を実現できたのは、「メイド・イン・ジャパン」と言われる、日本製品の高品質さにあることは周知の通りである。その高品質経営実現の一端を下支えしてきたのが、TQM(品質経営)の推進やデミング賞で知られる日本科学技術連盟だ。日本科学技術連盟では、長年に渡り、全国の企業の“クオリティ”に関するベストプラクティスをベンチマークする場を提供している。「クオリティフォーラム2017(品質経営総合大会)」がその一つで、本年は2017年11月14日~15日に開催する。同フォーラムでは、50件を超える講演が行われる予定であるが、経営プロでは、注目する講演のインタビュー記事を掲載する。(聞き手:ジャーナリスト 伊藤 公一氏)

――貴社が製造業の要点として掲げる9つの変化ドライバーとはどのようなものですか。

堀水:2030年ごろまでの社会や技術潮流を変えるであろう出来事のことです。すでに具体的な形が見えているものもあれば、5年、10年がかりで取り組むものもあります。羅列すれば①マーケット近くでのモノづくり(地産地消型モノづくり)が進む②O&Mから設計へのFBによるマーケティングプロセス高度化③サービスインテグレータの登場――などが15年から20年までを見据えたもの。

 ④3Dプリンタによるサプライチェーン構造の変化⑤日本のモノづくり縮小への対応⑥人工知能による間接業務の自働化が進む⑦セキュリティリスクの増大化⑧ネットワーク型のクラウドマニュファクチャリングの浸透⑨人工知能による設計レベルでの自動クリエーションが起こる――は20年から30年にかけて実現するのではないかとみています。

――それらに対して、どのような策を講じるのですか。

堀水:それこそがノウハウなので詳しくはいえませんが、さまざまな変化に対する当社のビジネス戦略や社会貢献、寄せられる期待などを踏まえた成果を出していきます。実際、議論の元になる情報は世の中に出回っているものですから、その読み解き方はどの会社も大差はありません。

 当社、あるいはグループとして「こうあらねばならない」というビジョンに対して日立流の個性なり戦略で挑む。同業他社が5年で達成するなら、それを3年で仕上げる。そのためのソリューションをいかに整えていくかが決め手になると思います。

■見学予約が殺到する大みか事業所

――電機システム事業を担う大みか事業所はIoT活用のモデル工場とされていますが、対外的にはどのような取り組みを?

堀水:前編で触れたように、当社がグループ内限定で開放したシステムは、買収した米国のIT関連会社、ペンタホのシステムを社内向けに開放して環境を整えたものです。自分たちが使わなければ普及しないと見極めた当時の幹部の英断によります。

 そこで、手を挙げたのが大みか事業所のオペレーターたちでした。彼らはあっという間に現場のツールをつなぎ合わせて業務改善やリードタイム短縮に生かしました。モデル工場と銘打っているだけに、毎日たくさんの見学者が訪れています。

――それほど外部からの関心が高いということですね。

堀水:手前勝手な言い方かもしれませんが、予約を取るのが大変なくらい盛況です。訪問者には事業部門の中身やこれまでの経過などを紹介した後、工場を案内します。

 ただし、訪問者数と成約数はイコールではありません。直ちに仕事につながったりソリューションの提供に漕ぎ着けたりはしませんが、関心を持たれているのは確かです。訪問者は業種も規模もさまざまなので見る側と見せる側とで着眼点は違うはず。その意味で、ニーズとシーズのマッチングが重要です。

■IoTの活用に明確なゴールはない

――社内の業務改善用途ではなく、ビジネスとしてのIoTをどう展開していきますか。

堀水:率直に申し上げて、すべての会社をサポートできるとは考えていません。むしろ、ある程度やり方を教えて、日本のものづくりそのものを底上げしたいという思いが強いですね。IoTの活用に明確なゴールはないからです。

 技術が日々進歩する一方で、業務課題も変わっていきます。ですから、良いと思ったらすぐに着手する心構えが大切です。何をやるのかを決めて、それが解決できるかどうかを考える。1人の手に余るなら関係部署と議論してみんなでソリューションを探る。要は初めの一歩。スタートは投資も規模もスモールでいいのです。IoTビジネスの真髄はむやみやたらにデータを集め、センサーのお化けにすることではありません。

―― スモールビジネスを成功に導く秘訣は。

堀水:IoTに関わることでこれまで付き合いのなかった業種同士や業務同士、部門同士で一緒にワークショップを作ると脳が活性化されます。共通の旗の下に同じ課題認識やソリューションをもつ人が一つのテーブルについて議論し検証する。

 それとスピード。理想的には3カ月サイクルです。いいと思ったことはやろうという改革が最も拡散しやすいし、つながりやすいと思います。大切なことなので繰り返せば、成功に導く早道は、スピードとやる気とためらわない心です。

■お客様と協創のソリューションを組む

――これまでの取り組みを振り返って、IoTを巡る欧米との距離感をどうみますか。

堀水:IoTのTはThingですが、当社の現場には設備やスタッフという形でリアルなTがたくさんあります。ところが欧米のIT会社は大企業でもTを持っていない。Tを持っていないと何が違うのか。簡単なことですが、実際の困り事や本質的な課題を訴求しにくいのです。だから、道具はあるが、それをどう使えばいいのかが分からない。

 その点、当社は自分たちでITを使い、プラットフォームを用意した上でさまざまな提案をしてお客様と協創のソリューションを組み上げることができます。これこそが、欧米系に対する勝負の掛けどころだと思います。

――貴社のIoTシステムをより有効に活用するためのキーワードは。

堀水:担当者だけのスコープだけで進めるなということです。何事も1人でできることには限界があるからです。重要なのは全体最適を目指して、今までつながらなかった業種や部門、企業などとつながりにいこうという姿勢です。そういう志をみんなが持つこと。持つためにはビジョンが必要です。

 目指すものやことが同じであれば、まとまった束になれる。そういうことがうまくいくかどうかが結果になる。これまでの一連の活動でいえば、課題は現場からボトムアップで出てくるが、一緒にやれという指示はトップダウン。いずれかに偏るのではなく、両方からやらないと決してうまくいきません。

■ものづくりの知見を他産業にも生かす

クオリティフォーラム2017 登壇者インタビュー 共生型ものづくり社会「Factory of the Future」を目指す~日立流IoTの実践~日立製作所 IoT推進本部 担当本部長の堀水修氏に聞く(後編)
――社内外を問わず、IoTに関わる今後の課題はなんだと思いますか。

堀水:日本にはものづくりを重視する良いトレンドがあります。しかし、そこにだけ捉われるとIoTの活用やビジネスを読み違える恐れがある。自社都合の市場や利益を考えるのではなく、お客様や社会に新たな価値を提供するという枠組みで臨まないと。

 考えてみると、原価や情報収集に一番真面目に取り組んでいるのはものづくりの分野です。そこで得られた知見は産業をまたいでさまざまなところで使えるのではないか。それは国策(Society5.0)でもあります。そしてメーカーの現場としてさらなる高みを目指す。それが今後の課題です。

――そうした課題を通じて貴社が目指す道筋は。

堀水:IoTの利点を駆使して作業者の行動や日々の業務、現場の情報をデータ化する。それを踏まえて工場や企業が生産情報を共有し、生産に関わるリソースを相互融通する共生型ものづくり社会「Factory of the Future」を1日も早く実現したいですね。