変化に負けない経営と多様な人材を活かし尽くすマネジメント ― “人財を活かす”経営変革フォーラム パネルセッション

日本の人事が世界と比べて大きな遅れを取っていると言われる中、変化の激しい時代に打ち勝ち、多様な人材を活かした経営を実現するためには、何が求められるのでしょうか。本日お話いただいた4名の方々に再びご登壇いただき、「変化に負けない経営と多様な人材を活かし尽くすマネジメント」をテーマに、パネルセッションを実施いたしました。

【パネリスト】
学習院大学 経済学部経営学科 教授 守島 基博 氏
コーナーストーンオンデマンドジャパン株式会社
カントリーゼネラルマネージャー 飯島 淳一 氏
サムトータル・システムズ株式会社 代表取締役社長 平野 正信 氏
ワークデイ株式会社 リージョナル・セールス・ディレクター 濱田 真 氏
【ファシリテーター】
ProFuture株式会社 代表取締役社長 寺澤康介

いかにトップがコミットするか

寺澤 まずは3社の皆さんにお伺いしたいのですが、さまざまな日本企業のクライアントと接する中で、人事の仕組みやシステムを変える際、経営者はどれくらいコミットメントしているものなのでしょうか。最近の傾向についてお聞かせください。

飯島 弊社の事例ですと、日立製作所さんは現在の中西会長が北米のトップに就任されたときに、GEさんなど名うてのグローバル製造業と競い合うため、3ヵ年をかけた一大経営改革を実施し、その中でも特に、人材改革に注力されました。他にも気づきのある経営者は、相当増えてきているように感じます。

平野 まず人事という言葉が変化してきていると感じます。もともとは給与や勤怠管理といった仕事が人事の主な役割でしたが、最近はITの進化などもあり、そういう枠を超えて、より経営的な観点の取り組み、つまり経営人事という言葉を用いている成功企業が増えてきました。最近の例で言うと、ファブレス化して製品を作るアップルのような会社では、人事に関わるすべての手続きを経営者が考えないといけなくなっています。

濱田 我々がお客様からお問い合わせをいただいて最初に見るのが、人事の組織がどこにあるかです。まだ日本では、CHRO(最高人事責任者)がいらっしゃる企業は少ないように感じますが、昨今では管理本部の中に人事部が置かれている企業がCHROという言葉を使っているケースも増えていますし、経営企画や戦略系の部署に人事部を入れている企業も増えてきています。そういった意味では、確実に変わってきていると思います。

寺澤 今の3社の皆さんのお話を聞かれて、守島先生はどうお感じになられたでしょうか?

守島 皆さんが例に挙げられたような経営者は確かに増えてきていると思いますし、日本の社会自体が昔から「人は財産です」という言葉をすんなりと受け入れて、実際に多くの経営者の方々もやってこられました。しかし、戦略的な観点で言えば、もっと変わるべきでしょう。経営者の「人事をこういう風に進めていきたい」という思いのレベルを、戦略のレベルに落とし込まないといけません。そういう人事戦略をしっかりと持った経営者は、まだまだ少ないように感じます。

いかにシステムを導入するか

寺澤 新たなシステムを導入する際、ポイントとなるのはどのようなことでしょうか?

飯島 人事戦略を進めるうえで、多くの経営者の方々は、Whyはわかっているけれども、HowとWhatがわかっていないという側面があるように感じます。確かにHowは、ノウハウが必要なので簡単ではありません。例えば、日産のゴーンさんは思いつきだけで改革をしているわけではなく、欧米の市場環境などをよく理解したうえで改革を進めています。その「How」となるのがITシステムの部分になります。ただ、IT部門の人に任せるのではなく、人事の方や部下を預かっているビジネスラインが、経営の意図をしっかり汲み取って、さらにITについて多少なり理解を深めることで、「How」を形にしていくのが良いと思います 。

平野 端的に言うと、典型的な日本企業とグローバル企業の大きな違いは、ジョブ・ディスクリプションです。グローバル企業はほぼ100%、あらゆる部門にジョブ・ディスクリプションがあります。成果を出すためには、あなたはこういう仕事をしなくてはいけないということが明確に決まっていないといけません。そしてその部分はITを活用することで、明確にすることができます。

濱田 2つあると思います。1つは、人事部門の方が経営的な目的に対して愚直に向き合うということ。もう1つは、仕組みを変えて、組織を変えないと、人は本質的には変わらないということです。これだけグローバル化が進んでいる中、グローバル人材の育成を経営課題として掲げている企業も多いと思いますが、そのうちの8割は日本人をグローバル化するという前提ではないでしょうか。しかし本質的に変えようとしている企業は、グローバル人材の育成ではなく、人事のグローバル化を進めています。グローバル人材は皆さんの会社の中にもきっといらっしゃるはずです。その方たちを表に出すための仕組みづくりこそが重要だと私たちは考えています。

「全員戦力化」の時代

寺澤 さきほどの守島先生の講演の中で、昨今の若い人たちは価値観が多様化しており、人材一人ひとりに対して個別に対応していくことが重要であるというお話がありましたが、そこのところをもう少し詳しくご説明いただけないでしょうか。

守島 少数精鋭の時代になってくると、一人ひとりの人材をどうやって輝かせるかということが経営上とても大事になってきます。一時期は早期選抜や、成果主義で格差をつけることなどが重要視されて、あなたは優秀な人、あなたは優秀ではない人と、分けることが一種のブームになっていました。しかし、その時代はもう終わり、一人ひとりに対して、あなたの強みは○○だから、こういう形で会社に貢献してください、というメッセージを企業として伝えていく。もしくは、その人の持っているさまざまなニーズに対応することも含めて、一人ひとりの人材を個別に扱っていくことが重要です。私はよく「全員戦力化」という言葉を使っているのですが、優秀な人だけが戦力になればいいという考えは捨て、すべての人材を戦力化していくという考えに切り替えていかなければならないと思います。

個を活かすタレントマネジメント

寺澤 個を活かすタレントマネジメントという意味で、実際に欧米にはどのような事例があるのでしょうか? また日本でも先進事例があればお聞かせください。

飯島 個々の社員が何を考えているのか、人事がすべてを把握することはなかなかできません。そうした中、近年では皆さん当たり前のようにスマホを使っています。そこでこのモバイルツールを活用し、社員同士が自由闊達に話をし、どの社員がどんな考えを持っているのかを見える化をする、という仕組みが出てきています。例えば私が在職していた時代のIBMでは、全社員がチャットを使って、10年後、30年後にIBMがどうなっているのかを予測するという取り組みを行っていました。当時42万人の社員がいろいろな意見をぶつけ合い、さらにそれを経営陣も目を通して、仕分けをし、その中の優れた意見を新規事業に繋げ、その意見を言った人を事業のリーダーに抜擢すると。それを見て、他の社員は、30年後の会社の未来を真剣に僕たちに託してくれていると強く感じたものです。このように、モバイルツールとチャットで社員の心を引き出し、それをコンピューターで分析するという事例が欧米では少なくありません。

平野 タレントマネジメントというと、一人ひとりのタレント云々……という話になりがちですが、最近注目されているタレントマネジメントの大きな機能は、いわゆる360度評価というものです。これは実は、今風な関係に即した考え方とも言えるのですが、要するに、その人が所属している部門できちんと仕事をしているかどうかを、360度の場合は、上司や部下、他部門の人など、いろいろな人たちが評価します。したがって360度評価の高い人は、イコール優秀な人です。従来のITシステムというと管理のためのものというイメージでしたが、今のITシステムは参加型になってきており、自分自身も参加してコミュニケーションを取りながら、仕事をすることが当たり前になってきました。こうした機能が最近のタレントマネジメントの非常に注目すべき側面だと思います。

濱田 平野さんのお話と近しいのですが、これまでのタレントマネジメントというのは、会社が社員を管理するためのツールとして捉えられてきました。しかし、人は辞めないという前提が崩れ去った今の日本では、タレントマネジメントは従来のような目的だけでは、成立しないでしょう。そのときに何が必要になるかというと、タレントマネジメントに、双方向性を持たせるということです。弊社のお客様はまず、4月の新入社員研修の際に「私はこの会社でこんなことをしたい」というのをシステムに新入社員自身に入力させたうえで、なぜそういうことをさせるのか、その目的を人事部長から社員たちにメッセージとして伝えていきます。キャリアは会社が与えるものでなく、自分たちで作るものである、というマインドを浸透させるために、一番感度の高い入社したての社員を対象に実施されている事例です。

寺澤 ここまでのお話を聞かれて、守島先生はどうお感じになられたでしょうか?

守島 会社から見られている、大切にされているという感覚が非常に重要で、一人ひとりを見ているということを、会社としてもっと考えていかなければなりません。今の3人の方々のお話にもあったように、今はそのためのツールもどんどん発達してきていますが、そういった中で単に上からモノを言うだけでなく、下からもモノを言える環境を整え、しかもそれに返事をしてあげる、そんな双方向性を構築することで、本当に会社から大切にされていると気持ちが生まれてくるのだと思います。

いかにHRテクノロジーを活用するか

変化に負けない経営と多様な人材を活かし尽くすマネジメント ― “人財を活かす”経営変革フォーラム パネルセッション
寺澤 IoTやビッグデータなどのテクノロジーが急速に発展している中、経営や人事のあり方自体も大きく変わりつつあります。現在、国をあげて生産性向上を推進していますが、その決め手となるのは、やはりHRテクノロジーの活用ではないでしょうか。しかし日本企業の経営層の中には、いまだにシステムに対するアレルギーをお持ちの方も少なくなく、「人間のことは機械にはわからない」といった声もまだまだ聞かれます。そうした中で、皆さんがクライアントとお話する際、どのようなアドバイスをされるのでしょうか?

濱田 HRの世界におけるAIは、決して難しいものではありません。実は弊社自身が機械学習を活用して、USの中でどんな人がトップパフォーマーなのかを分析したことがあるのですが、出てきた答えはスタンフォード大学出身者でした。しかし、そのようなことは機械学習など使わなくてもわかることです。要するに機械学習にしてもアナリティクスにしても、入れた情報以上のものは出てきません。少なくともそれが現状のHRテクノロジーの実態なのです。しかし、テクノロジーでしかできないことも当然あります。例えば人事プロセスを可能な限り自動化・標準化して、皆さんの仕事の性質を変える。あるいは、必要としている人間に対して、正しい情報を正しいタイミングで出す。こういったことは、やろうと思えば今のHRテクノロジーでも十分可能です。そしてもちろん将来的には、人間では気づかないような知見がもっと多く出せるようになると期待しています。

平野 弊社のサービスは広い人事領域の中でも、特に教育と能力管理の部分にフォーカスしています。ITに対する抵抗感という意味で言いますと、経営者の方も財務諸表や売上げのグラフなどは当然目を通します。きちんと入力をして、報告書として出せば、IT云々は関係ありません。むしろその入力をどうするかというところが問題で、従来のシステムは入力自体が嫌な仕事、面倒くさい仕事なので、モチベーションが上がりませんでした。しかし最近はモチベーションを持って入力できるよう、さまざまな工夫がなされています。いろいろなデータがまんべんなく入っていれば、経営層が求めるデータを、欲しいときにすぐに出すことが可能です。弊社のシステムも、いろいろな機能を持っていますが、なかでもレポーティング機能が非常に充実しています。

飯島 弊社はクラウドという仕組みを使っていますので、繋げばすぐに使える状態です。そういう意味では、新たにスケールを作らなくても世界横断的に使えますし、スピード性も大きなメリットだと思います。また、世界横断的にみんなをきちんと可視化したところで、不平等感があってはならないので、平等性を保つためにスタンダードなものをみんなで使う。このスケール、スピード、スタンダードの3つがポイントです。また使っていくとデータはどんどん溜まっていきます。それらのデータは、過去の履歴を見ることだけではなくて、そこから現在を超えて、3年先、5年先を予測することも可能です。さらにもう一つ重要なのは、それだけの人たちが日々同じように使うためには、使いやすくなければなりません。弊社もお客様にとって使いやすい画面設計を強く意識し、また使われ続ける仕組みづくりに注力しております。

寺澤 守島先生は、日本企業のITシステムの活用状況についてどのようなお考えをお持ちですか? 

守島 日本企業はもっともっとITを人事だけではなく経営の中でも活用していかないと、グローバル競争には勝てなくなるでしょう。最近のHRテクノロジーは非常に使いやすく、給与計算など人事の方々が簡単にできますので、ぜひ使うべきだと思います。ただし、2点ほど留意してほしいことがあります。特に外国製のITシステムは、ジョブ・ディスクリプションがある体制を前提としているので、それがない日本ではどのようにしてカバーしていけばいいのか。もう一つは、鉄腕アトムが隣に座っていれば話は別ですが、現在のITのレベルではすくえない部分が必ずあるので、そういうところは人事が足で情報を稼ぐことも大事でしょう。ITほどの効率性はないでしょうが、絶対にそこを同時にやっていかないと、鉄腕アトムが登場するまでは、人事の機能をフルにカバーすることはできないと思います。

Just do it ~やるしかない~

変化に負けない経営と多様な人材を活かし尽くすマネジメント ― “人財を活かす”経営変革フォーラム パネルセッション
寺澤 では最後にまとめとして、多様な人材を活かし尽くして、また変化の激しい時代に迅速に対応できるような経営を実現させるために、何が必要なのか、3社の方々からひと言ずついただければと思います。

飯島 日本が世界と比べてタレントマネジメントの面で大きく遅れを取っているとするなら、そこの部分を速やかに追い上げていくという意味でも、多様化している従業員の動機付けから、しっかりと固めていく必要があると思います。経営陣はすでに「Why」を持っているので、「How」のところをシステムも活用しながら、みんなで考えていき、その中で我々のような会社を活用していただければ、きっと日本のタレントマネジメントは今からでも世界を凌駕するくらいに伸ばせるはずです。弊社は、今年を日本のタレントマネジメントの元年と捉え、皆さまをしっかり応援していきたいと考えています。

平野 ITはだいぶ進んではきましたが、一方でどこのベンダーに話を聞いても「こういうことができますよ」と似たような答えしか返ってきません。ならば細かい部分で違うのかというと、細部も非常に近しいです。そうした中、弊社の場合、まずお客様が何をしたいのかをよく聞いて、「それなら、こういうものを、こういう風にお使いになられたらいかがでしょうか」という説明の仕方をしています。ですからパッケージソフトではあるのですが、シナリオが多岐に渡っているので、各社各様のソリューションが実現できます。ぜひご相談がてら、お話を聞いていただければ幸いです。

濱田 人事のプロの方々に申し上げたいのは、人事の取り組みは一朝一夕では成り立ちません。人が関わる仕事なので、何年もかけて積み上げていくべき取り組みだと思います。そういった意味で、我々ベンダーは、お客様とじっくり時間をかけてお付き合いさせていただきながら、日本の人事のあり方を変えるご支援をしたいと本気で考えています。本日はありがとうございました。

守島 経営者はITにそれほど詳しくなくても構わないと思います。経営者の役割は、自分の会社はこういう方針で、こういう戦略で、人材マネジメントを進めていく……ときちんとメッセージを発信すること。そして人事の方はそれに基づいて、こちらの3社さんのようなベンダーを活用し、とにかく効率的にスピーディーに進めていく。さきほど「Just do it」という言葉がありましたが、まさにそれしかありません。日本はこれまで、人材で勝ってきた国だったにも関わらず、今後は人材で負ける国になってしまう恐れがあります。そういった意味でも、日本人が総動員で頑張っていかなければいけないでしょう。私がお伝えしたいのは以上です。本日はありがとうございました。