大和証券グループの女性活躍支援とワーク・ライフ・バランスの取組について

女性の活躍支援やワーク・ライフ・バランスに取り組む企業は年々、増加傾向にあります。しかし、制度を導入したとしても、遅々として進まなかったり、制度自体が有名無実化してしまうことも少なくありません。こうした制度を誰もが胸を張って利用できるようにするためには、経営者の本気度が問われてくると株式会社大和証券グループ本社取締役会長 鈴木茂晴氏は断言します。少子高齢化が進み、労働力が低下していく日本において、女性の活躍が企業の生命線になると言っても過言ではない状況の中、大和証券グループが取り組んだ女性活躍支援とワーク・ライフ・バランスについて鈴木会長が講演し、後半にはProFuture代表の寺澤康介とトークセッションを行いました。

株式会社大和証券グループ本社 取締役会長
鈴木 茂晴 氏
1947年京都府生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、71年大和証券入社。本店営業、秘書室、引受部長などを経て97年取締役、2001年専務取締役就任。04年6月大和証券グループ本社取締役兼代表執行役社長CEO、大和証券代表取締役社長就任。11年大和証券グループ本社取締役会長兼執行役、大和証券代表取締役会長就任(現任)。

企業の持続的成長の源泉は社員の高い「志」

 現在、企業を取り巻く環境を考えますと、少子高齢化の波が押し寄せていることもあり、競争力を維持していくためにも、優秀な人材の確保が課題となっています。政府も成長戦略の中核に女性活躍支援を掲げ、国を挙げての取り組みが始まっているところです。弊社も女性活躍支援、社員のワーク・ライフ・バランスを実現していくことが持続的な成長に繋がると確信して、これを経営戦略と位置付けて、様々な取り組みを行ってきました。

 弊社の企業理念は「信頼の構築」「人材の重視」「社会への貢献」「健全な利益の確保」の4つですが、中でも「人材の重視」という点では、「大和証券グループの競争力の源泉は人材である。社員一人ひとりの創造性を重視し、チャレンジ精神溢れる自由闊達な社風を育み、社員の能力・貢献を正しく評価する」と謳っています。金融業界は目に見える商品を開発して販売する企業ではありません。どの企業も類似した金融商品を提供するので、お客様に選ばれる企業になるためには、社員一人ひとりがお客様と信頼関係を構築していく必要があります。

 企業には果たすべき役割がありますが、その中で最も重要なのは適正な利益を上げて税金を納め、安定した雇用を創出することです。そのためにも、企業は持続的に成長することが不可欠となります。企業の持続的成長の源泉は社員の高い「志」です。弊社では高いロイヤルティとモチベーションを持った社員の集団にすべく、様々な施策を実施しています。そして、そのような社員が活き活きと活躍できる会社を目指すことが、最終的にはお客様や株主の満足度を高めることに繋がるとの考えのもと、経営戦略を策定し、社員の「心」に直接訴えかける施策を実施しています。

使いにくい制度は無いに等しい

 女性活躍支援やワーク・ライフ・バランスについても、様々な施策を実施してきました。私は平成16年に社長に就任し、すぐに全国の支店を回りました。各支店に優秀な女性社員がいるのですが、話を聞いてみると女性はライフプランが描きにくく、昇格や給料で男性と差が大きい。さらに、自分が会社から期待されていると感じる機会が少ないとのことでした。また、結婚、出産、配偶者の転勤などで、会社を辞めざるを得ないケースも非常に多くあることが分かったのです。どの企業でも、新入社員がすぐに戦力なるわけではありません。数年かけて教育して、知識・スキルを蓄積して一人前になります。その頃に結婚、出産を迎えた女性が会社を辞めてしまうことになっては、会社にとって大きな損失になります。一方で、働いている女性もこれまでのキャリアを捨ててしまうことになります。

 そもそも社会人として能力に個人差はあっても、男女差はありません。そこで、女性が力を発揮できるように活躍支援を行わないのは、人材という経営資源の大いなる損失です。女性にも男性と同じように仕事を任せ、活躍を期待することは、企業が大きく成長することに繋がると考えています。女性登用の話をすると、男性は最初は大賛成するのですが、実際に行ってみるといろいろな理由をつけて反対するケースが多い。例えば、少数の女性にチャンスを与えても、すぐに成果が出ないと「女性はダメだ」といった見方をされがちです。そこで、私は全国の支店にある法人課の3分の1に女性を配置しました。大勢いれば横の繋がりができますし、当然ながら競争も生まれます。ここで大事なのは、象徴的に女性を抜擢するのではなく、多数を登用することだと思います。

 弊社は平成17年頃から本格的に女性活躍支援に取り組みました。様々な制度を導入して、出産時には育児休暇を取り、その後に復職して働き続けることができるようにし、育児と仕事を両立できるようにしています。また、結婚や配偶者が転勤しても継続して働き続けることができるように、勤務地変更制度を導入し、200人以上が利用しています。こういった制度に最も重要なのは、導入するだけではなく、気兼ねなく使える制度にすることです。言い出しにくい、使いにくい制度は無いのと変わりません。そのため、使いにくい制度になっていないかどうかを常にチェックするようにしています。また、今年導入した制度に「キッズセレモニー休暇」というものがありますが、こちらは入園・卒園式、入学・卒業式など目的を限定とした休暇制度です。こうして目的を限定すると、休暇が取りやすいようで、今年すでに500人近くが利用しています。

仕事もプライベートも全力で取り組む

 弊社では男女ともに働きやすい企業を目指して、平成20年頃からワーク・ライフ・バランスの推進に力を入れてきました。夜遅くまで、あるいは土日も働けば、短期的には利益が上がるかもしれませんが、そのような働き方では息切れしてしまいます。企業が持続的に発展していくためには、社員の働き方も持続可能でなければなりません。また、ワーク・ライフ・バランスは仕事とプライベートのバランスを取ることですが、我々は仕事にもプライベートにも全力で取り組む「ワークハード・ライフハード」を推進しています。そのためには、限られた時間内で成果を出すことが最も重要です。

 終業時間が決まっていれば、逆算して日中の業務効率を考えます。その結果、社員は密度の濃い仕事をしてくれると思います。そこで、弊社では平成19年から19時前退社をスタートさせました。どんなに遅くなっても19時までには退社するようにしたのです。当初は19時にはなかなか終業しませんでした。そこで、19時前退社が守られていない支店の店長に対し、「できないなら次の転勤候補ですよ」と伝えさせたところ、すぐに効果が見られました。大切なのは、時間は自分でコントロールできるということです。時間の管理というのは、女性活躍支援でも重要なことだと思います。体力勝負では女性は勝てません。そのような働き方では、女性は仕事を続けることができませんし、成果を出すこともできません。女性が仕事と育児、プライベートを両立させるためにも、やはり時間は自分でコントロールすることが必要です。

 また、社員のモチベーションとロイヤリティを高めるために、職場環境の改善にも取り組みました。各支店を回ってみますと、店頭は綺麗になっているのですが、社員が働くオフィスは汚い状態だったのです。そこで、200億円をかけて全国の支店をリニューアルしました。中でも力を入れたのが、女性用トイレです。化粧ができる場所や化粧ポーチをしまう棚を設置したりと女性社員が気持ちよく働けるようにしました。

力のある女性社員を多数・同時に登用することが大事

 このような取り組みの結果、活躍する女性が増えまして、現在は女性の役員がグループで8名おります。そのうちの7名は生え抜きの社員です。弊社では平成21年に初めて、女性の役員を登用しましたが、この際も同時に4名を登用しました。やはり、これも1人だけ象徴的に抜擢するよりも、力のある社員を多数、同時に登用することが大事だと考えたからです。また、全国の支店には22名の女性支店長が存在し、支店長の割合で18%となっています。女性管理職については、女性活躍支援に本格的に取り組み始めた平成17年に比べ、3倍に増加しました。2020年には500名ぐらいにすることを目標に設定しています。

 平成25年からは、育児休職中の女性社員も昇格させることにしました。休職直前まで非常に高い成績を上げていたにもかかわらず、たまたま昇格時期に休職していたために昇格できないのは、あまりにも女性にとって不利になるので、正しく評価して昇格させています。今後、育児休暇を取得しても、それまでに優秀な成績を収めていれば安心して休暇を取得できるようになるはずです。

女性活躍支援は優遇ではなく人材の価値を公平に見るということ

 女性活躍支援の取り組みは、決して女性優遇ではありません。必要な時期に、適切な配置をしてしっかり働いてもらうことは、人材の価値を公平に見るということです。労働力が不足していく日本にとっては、今いる社員に辞めずに働き続けてもらうことが、最も合理的だと考えます。結婚している女性は、仕事をしているために本来やるべきことを犠牲にしているのではないかという罪悪感や、この先どうなるのかといった不安感を持つケースが多いようですが、私たちは女性がそのような不安を持たないようにする施策も進めていかなければなりません。仕事は女性の人生そのものに大きなプラスになり、自分を成長させます。そして、社会に対して、大きな貢献をしているのです。さらに、仕事をしている女性は魅力的で光り輝いているという至極当然のことを発するようにしています。

 女性にはある種のハンデはあるかもしれません。しかし、そのような甘い考えは捨てた方がいいでしょう。女性も社会の一員として、ハンデを越えて相応の負担と努力をしなければなりません。今は女性一人ひとりがオーダーメイドの人生を作り上げて、自分らしい生き方で光り輝いていく時代です。光り輝く自立した人生を送るために、絶対に必要なのは経済的な自立でしょう。ですから、今持っている経済力は捨ててはいけません。そして、女性には何があってもへこたれず、上昇意欲を持って自分の能力を磨いて欲しいと思います。弊社では男性でも女性でもしかるべき優秀な人材を役職に登用して、能力を発揮してもらいたいと考えています。能力のある女性がますます力を発揮できるような土俵を作らなければなりません。

社員は企業の姿勢をよく見ている

 このような女性活躍支援やワーク・ライフ・バランスへの取り組みによって、弊社はロイヤルティの高い優れた社員が多いと自負しています。証券業界はリーマンショック後、非常に厳しい環境にさらされました。そのような時でも、弊社は女性活躍支援やワーク・ライフ・バランスを推進してきたからこそ、社員の頑張りがあって業績は改善し、他社を圧倒する株価の上昇に繋がったと考えています。

 ですから、今後もこうした地道な努力を続けていきたいですし、男性も女性も、ベテラン社員も若手社員も、全ての社員がモチベーション高く、ロイヤルティ高く働くことができる環境を整えるために、待遇の改善、雇用の延長など何でも取り組むつもりです。

 様々な施策がありますが、いいと思ったことはとにかく取り組みます。いろいろな反対はあるかもしれませんが、強い信念を持って取り組むことが大切だと思います。確かに、全てが成功するわけではありません。しかし、企業は社員にとって今よりも少しでもいい企業になるために試行錯誤を繰り返して、昨日よりも今日、今日よりも明日というように、充実したものにする努力が重要です。社員は企業の姿勢を良く見ています。今は努力している企業としてない企業に大差はないかもしれませんが、将来、それぞれが行く先は全く違うものになるでしょう。

トークセッション

大和証券グループの女性活躍支援とワーク・ライフ・バランスの取組について
寺澤鈴木会長がトップになられてから、これだけ素晴らしい取り組みをされてきています。アンケートを取ったりしますと、こうした女性活躍支援の取り組みは人事部だけではどうしようもなく、トップのコミットメントを引き出すのが難しいと言われます。御社のようにトップがここまで突き進むことは珍しいと思います。何が鈴木会長をそこまで突き動かしたのでしょうか?

鈴木弊社には以前から営業に携わっている女性社員もいたのですが、昔は「女性の部下が成果を上げたら得をした」というような感覚で、男女を公平にみていたわけではありませんでした。これではダメです。女性が本気になって働いてくれれば、もっと大きな仕事をしてくれるのではないかと思いました。弊社ではいろいろな制度を導入して、女性役員や支店長も誕生していますが、それを勝ち取ってきたのは女性自身の力です。今では女性がいなければ成り立たない会社になっています。

寺澤鈴木会長が女性活躍支援に乗り出したり、19時前退社を導入された時、周りの反応は上手くいかないのではないか、特に証券会社では無理なのではないかといった反応でしたが、それを徹底してやられたことと、業績を上げたことが重要ですね。ビジネスの結果がついてこなければ、長続きはしないはずですから。

鈴木その通りですね。例えば、19時前退社にしても、今の若い人たちは真面目ですから、効率は上がると思っていました。それと、上司の目からすれば、常に残業をしている人と、定時に帰る人では、残業をしている人の方が仕事をしているように見えてしまうのは仕方がないことです。だからこそ、会社が強制的にでも時間を決めてあげなければいけません。私は、残業をしている人は試験の終了ベルが鳴った後にも回答を書いていることと一緒だと言いました。今でも多くの企業でそのような制度を導入してもできるはずがないと考えているかもしれません。でも実際にやってみたらできることです。就業時間は1日8時間と決まっていて、残業できる時間は月に45時間となっています。現在は100時間を超えると労働基準監督署の検査が入り、今後は80時間になる予定です。時代は大きく変わっています。

寺澤最後に、女性活躍推進やワーク・ライフ・バランスの導入などは、人事部だけでは難しいと思っている方も多いはずです。そのような人事部の方々にメッセージをお願いします。

鈴木このような時代の中、何十年何百年も続いてきた働き方の改革を担っている人事部の方は大変だと思います。様々な人事制度を社員に浸透させていくことは、人事部の方々の力だけでは難しいことです。経営者が人事部に通達しても進まないとしたら、それは、本気ではないからでしょう。問題はトップの本気度です。人事部がすべきことは、経営者を本気にさせることだと思います。人事部が経営者にコンセンサスを植えることが重要です。また、様々な制度を作っても、人事部が違うことをすれば誰も信用をしなくなります。だからこそ、人事部は言ったことを守らなければなりません。人事部にとっては大変な時代ではありますが、頑張ってください。

寺澤人事部の方には是非、経営への働きかけをしていただきたいと思います。鈴木会長、本日は誠にありがとうございました。