今回は、「コミュニケーション・ハンドブック」を制作した場合はより成果につながりやすくなり、ない場合でも意識的に取り組むことで、メンバーの意識や行動の変化を促す上で効果的な、リーダーの「伝え方」についてお伝えします。
理念・方針を浸透させるためには、抽象的な理念・方針を日常場面で意識できるようにする必要があります。そのためには、理念や方針につながる考え方や行動を、メンバー一人ひとりの体験から引き出すことが有効であること。そして、引き出すための1つの策として「コミュニケーション・ハンドブック」制作という方法があることを、前回のコラムでお伝えしました。
今回は、「コミュニケーション・ハンドブック」を制作した場合はより成果につながりやすくなり、ない場合でも意識的に取り組むことで、メンバーの意識や行動の変化を促す上で効果的な、リーダーの「伝え方」についてお伝えします。
今回は、「コミュニケーション・ハンドブック」を制作した場合はより成果につながりやすくなり、ない場合でも意識的に取り組むことで、メンバーの意識や行動の変化を促す上で効果的な、リーダーの「伝え方」についてお伝えします。
青山学院大学の原監督とスティーブ・ジョブズの共通点
2017年の箱根駅伝では3連覇がかかる青山学院大学陸上部。何年もシードが取れなかったチームが、原監督就任後、年を経るごとに強くなり、今では他大学の追随を許さないレベルへと成長しています。そのため、原監督のマネジメント手法に大きな注目が集まっています。原監督がいったいどのようにして選手をやる気にさせているのか。そこに関心を持った私は、原監督の話を直接伺える講演会に参加しました。講演会で原監督は、「いつも、どういう話をしたら、どういう風に伝えたら、選手に響くか。とても気を配っています」とお話されていました。
この話を聞いた時、プレゼンテーションの達人と言われるある経営者が思い浮かびました。その人は、アップル創業者スティーブ・ジョブズです。スティーブ・ジョブズは、プレゼンテーションの際、徹底的に聴衆のことを考えていたことは大変有名です。そのため「シンプル」であることにこだわりがありました。
しかも、そのシンプルな表現で、瞬時にイメージが伝わることにこだわっていました。例えば、初代iPodのフレーズは次のようなものでした。
「iPod。1000曲をポケットに。」
iPodのサイズ、メリット、それを持った時の情景が浮かびワクワクする気持ち、など、たった一言で、全てをイメージさせることができる究極のメッセージです。
実は、原監督も効果的なメッセージの伝え手として高い評価を得ています。例えば、箱根駅伝では毎年作戦名が公表され、2015年は「ワクワク大作戦」、2016年は「ハッピー大作戦」というネーミングが使われていました。これは、選手に対し、どのような気持ちで試合に臨んで欲しいかを一言で言い表したものですが、選手のみならず、メディアや応援する人たちの気持ちもつかみ、多くの人の記憶に残るメッセージとなっています。
「伝える」ための力の入れどころ
「いつも、どういう話をしたら、どういう風に伝えたら、選手に響くか」という原監督の言葉を、ビジネスに置き換えて図解しました。以下の図をご覧ください。
スティーブ・ジョブズ、原監督に共通しているのは、メッセージの受け手の感情や行動を常に意識していることです。何を感じ、どう動くか。そこに意識をおいて、自分が何を伝えるべきかを徹底的に絞り込んで発信しています。
このことから言えるのは、メッセージを伝える際、図では②「表現し」となっている点を工夫することがポイントとなります。
このことから言えるのは、メッセージを伝える際、図では②「表現し」となっている点を工夫することがポイントとなります。
真似できるところから着手する
それでは、スティーブ・ジョブズや原監督のような効果的なメッセージを発信するためには、どうしたらいいでしょうか? 残念ながら、彼らがこれだけのメッセージを発信できるようになるまでに、10年以上の時間がかかっています。彼らの卓越した部分を見てそれをすぐに取り入れようと思っても、かえって薄っぺらな表現になってしまうことでしょう。だからといって、真似できる点がないかというと、そんなことは全くありません。もっと基本的な部分を真似することで、徐々にメッセージの発信力は高まっていきます。
全体像→部分→全体像で話を構成する
それでは、どのような部分を真似すればよいでしょうか。私がお勧めするのは、スティーブ・ジョブズが活用していたとされる話のフレームです。一般的にはロジカル・シンキングのスキルとして紹介されており、「全体像→部分→全体像」で構成する伝え方です。以下に、そのポイントをまとめます。ポイント1:伝えることの全体像(何の話をするのか)を明確にする
ポイント2:伝える目的や背景を明らかにする
ポイント3:伝える内容のアウトライン(3つ程度)を明確にする
ポイント4:全体像、アウトラインともに、キーメッセージは「一言」に絞る
ポイント5:アウトラインの中では、具体的な情報(データ、数値、事例など)を入れる
ポイント6:最後に、もう一度「全体像(キーメッセージ)」に戻る
以上のポイントを元に、例えばコンプライアンス教育の一環として、「個人情報の管理」について伝える場面を想定し、構成を考えてみましょう。
「今から、コンプライアンスに関する話、特に「個人情報の管理」について伝えます。
特に伝えたい点は、大きく分けて3つです。
1つ目は、パソコンやスマートフォンなど電子媒体の管理についてです。
2つ目は、名刺、名簿、資料など紙に書かれた情報の管理についてです。
3つ目は、情報を持ち運ぶ際に注意して欲しいことです。
それでは、それぞれについて、そのポイントをお伝えします。
最初は、パソコンやスマートフォンの管理ですが、最近、次のようなことが起こりましたが、皆さん、ご存知でしょうか……」
といった、展開です。
フレームを使うメリットは、情報の取捨選択がしやすくなる点です。というのは、私たちは何かを伝えようとすると、ついついあれもこれもと、色んな情報をくっつけて盛り込みたくなります。例えばご紹介した例でいえば、パソコンやスマートフォンに関連し「メールの誤送信」や、ついでに「FAXの誤送信」、さらに「SNS」や「写真などの画像の扱い」など、次から次へと伝える必要がありそうなことが想起され、盛り込みたくなります。
しかし、フレームを使うと、「それを入れると話が散漫になるな……」や、「むしろ「管理」よりも、「電子媒体利用時の個人情報の扱い」にしたほうがいいか……」といった、自分が何をメッセージとして発信すべきか、優先順位を考えることができます。
加えて「個人情報の管理」という言葉で、印象に残るかどうか、など表現の工夫の余地についても検討することができます。
理解や行動を促すメッセージを発信する必要があるときは、一度、フレームを元に書き出した上で伝えると、その伝わり方は大きく変化します。
かくいう私も、フレームを活用するメリットが理解できていないときは、「表現を考える時間がない」や「面倒くさい」という気持ちのほうが強く、なかなか着手できないでいました。しかし、あるとき試してみたところ、メンバーがしっかり動いてくれるようになり、何度も伝える必要性がなくなったばかりか、自分が想像していた以上に、メンバーから自発的にアイデアが出るようになって、サポートが得られ、その効果に驚きました。
自分の体験を通じても「表現を工夫する」ことに、大きなメリットを感じております。スティーブ・ジョブズや原監督のような目を惹く表現をすぐに身につけることはできなくても、伝える構成をしっかり考えることは、どなたでも今日から始められます。その効果をぜひご自身で体感ください。