少子化・社員減少時代の若手がついていきたくなるチーム作り

わたしは「一番できない新入社員」でした。就職活動は大卒の求人倍率が最低の0.99という超氷河期時代。なんとか就職できた会社は当時ベンチャーのシステム会社でした。ところが、期待に満ちてもなぜか研修でのプログラミングには興味が持てずどうしても頭にはいらない。ついにもらった称号は「一番できない社員」でした。

一番できない新入社員が変わったワケ

 わたしは「一番できない新入社員」でした。
 就職活動は大卒の求人倍率が最低の0.99という超氷河期時代。なんとか就職できた会社は当時ベンチャーのシステム会社でした。
 ところが、期待に満ちてもなぜか研修でのプログラミングには興味が持てずどうしても頭にはいらない。ついにもらった称号は「一番できない社員」でした。

 転機は配属後、ある小さなプログラムを任されたときでした。技術的には簡単、でも、わたしには一大事。必死に取り組み、納品後に先輩から言われた言葉がいまも支えになっています。
「君の作ったものがこのお客さん、そして日本を支えているんだよな。」
 わたしははじめて自分の仕事が社会全体に貢献することをありありと実感しました。わたしが欲していたのはコレだったのです。その後コンサルティング営業へと職種は変わりましたが、これが入社後はじめて「やりがい」を感じた瞬間です。わたしの「若手青春物語」はここから始まりました。

若者はいない。前提が崩れる時代の「おとな」の役割とは

 日本は少子化時代……、いえ、「人口減少時代」です。内閣府の「平成27年版 少子化社会対策白書(概要)」(※1)によると、2060年の日本の人口は8674万人。現在約1億2800万人ですので、50年後には約3分の1である4126万人が消えています。これは九州沖縄から大阪までの西日本の人間が無くなることと同じ。または東京関東甲信越が丸々無人の地になっていることと同じです。
 すでに減少は明らかです。出生数は1974年には約200万人でしたが、これから大卒で新入社員になる1994年生まれの出生数は約124万人。いまの40歳前後の人数の半分近くしか、若者はもう存在しません。
 中堅・中小企業では「ひとがいない」はもう共通言語。「優秀な若者がいない」ではない、そもそも物理的に「ひとがいない」のです。ひとに関してはすでに「いる前提」が崩れる時代に入っています。

 あまり見たくない深層心理では、実のところ「おとな」は若者をおそれています。「おとな」の秩序に収まる形も定まらず、能力は未知で、時間も体力もあり、いつでも「おとな」の地位を脅かす不気味な存在が若者です。だからそれこそ5000年前のエジプトやメソポタミアからおとなは言ってきました。「今どきの若者はなっていない、できない」と。

 でもここで立ち止まって考えてみてください。
 業種業界問わず、イキイキした会社はお客さまから見ても心地よく応援したくなりますよね。若手がついていきたくなる会社は最大限の力を発揮すると同時に、若手の「イキイキした姿」を見てその次の若手が入ってきたくなります。清冽さを感じる会社はいつまでたっても色あせず、つねに存在感を発揮します。ですからやはり正面から若手の存在に目を据える必要があるのです。
 人口減少時代という事実はある。それをどうチャンスに変え「ひと」で作られる自社も社会もより良くしていくのかはわたしたち次第です。
 幕末もそう。戦後もそう。「前提」が大きく変わる時代は、チャンスに満ちています。日本は歴史上一貫して人口増加してきました。人口減少時代は有史以来はじめて。現代はとりわけ「ひと」に関し、意義ある大きなチャレンジの時代ともいえます。
 若者たちを導き、会社や社会に貢献する人材に育ててきたのは「おとな」です。「おとな」秩序をいつでも崩しうる未知のエネルギーをもつのが若者。このエネルギーを引き受け、個人の成長と社会発展の基盤へと導くのが「おとなのリーダー」の役割です。

 ではどうすれば、そんな会社ができるのでしょうか?
 そのキーワードは「変わるもの」と「変わらないもの」。
 見ていきましょう。

若者の「見てきた」環境をありのまま見てみると……

 衝撃的なニュースがありました。
 鮨を握り始めて一年未満の職人ばかりの寿司屋が、なんとミシュランに掲載されたというのです。(※2)
 10年修行してやっと卵が焼けるという伝統的な職人などから「素人がごまかした寿司」や「寿司は浅くない」など否定もあれば、「いまの寿司修業は無駄」や「効率的な教育で修行時間は大幅に短縮できる」という肯定もありまさに賛否両論。
 あなたはどう思われますか?
 良し悪しは本コラムのテーマではないので省きますがここで、大切なのは「いままで変わらないと思っていたことも、変えられた」という事実です。

 さらにもうひとつ。
 現在の若手社員は生まれながらのインターネット世代です。LINEやfacebookやInstagramといったソーシャルネットワークは彼らの日常であり、圧倒的な情報量の中から欲しいものだけを選び取るすべを身につけています。
 昔は新聞や雑誌などの紙媒体かテレビがメインでしたが、今はインターネットで自由に情報を取捨選択できるため、テレビを一週間に一時間もみない若者が増加の一途を辿っています。「おとな」の都合に合わせた情報も、裏事情がすぐに明るみに出てしまいます。
 たとえば就職サイトは就活生の必須ツールです。しかし、実際に応募するかどうかは、就職サイトにある会社情報だけでなく、就活生専用の「掲示板」を見て決める学生も多いのです。その「掲示板」では、会社感想やブラック情報、実際に働く人の雰囲気などが赤裸々にやりとりされています。「おとな」の見えないところで、全国規模で、あなたの会社が若者によって毎日評価されています。彼らの信頼の根拠は公式情報ではなく、ネットワークに支えられた実地レポートなのです。

 寿司屋や就職情報で見てとれるように、私たちが「変わらない」と思ってきたものが、若手社員にとっては「変わるもの」である場合が少なくありません。こうした価値観の違いを、わたしたちは心に留めておく必要があります。
 そして、時代とともに「変わるもの」と、一貫して「変わらないもの」を見極めていくことが大切です。

「変わるもの」と「変わらないもの」

 メンタリングでは、明確に「変わるもの」と「変わらないもの」を区別します。
 この区別がとても大切です。
 「変わるもの」とは手法、やり方、方法です。
 手法は無限にあり、状況に応じて無限に変わるとメンタリングでは観ます。だからこそひとはその時代、そのひとに合った無限の手法を見つけ続けてきました。それはいつでも会社や社会をより良くする可能性へとつながります。
 とはいえ「変わるもの」に振り回されてしまうことがあるのも事実。だから「変わらないもの」が必須になります。

 「変わらないもの」とはあり方、姿勢。
 手法は変わっても、「手法はいつでも変えていく勇気を持つ」というあり方は変わることはありません。社会状況や環境や世代は変わっても「どんな状況でも乗り越えていく」という姿勢は変わることはありません。いつでも変わる勇気をもつために、メンタリングではまず自分にとっての「変わらないもの」を決めます。
 一言でいえば「自立創造型相互支援人材」に自らなるということです。
 「おとな」自身が「自立創造型相互支援人材」であることが、若手を導く第一歩となるのです。

「本当は?」と問える会社に若手はひきつけられる

 自立創造型相互支援人材とは、
「どんな困難な状況や環境に左右されずそれを乗り越え、自分自身の最大限の力を発揮して、ビジョンに向かい、社会や会社に貢献する人材」でした。
 第一回のコラムで「ひとはひとを見て育ちます。」と、お伝えしました。大人の泰然とした姿勢(=「変わらないもの」)に若手は憧れ、自分もそうありたいと思う気持ちが「やる気」=「一生続く成長への欲求」へとつながるのです。

「本当は、あなたはどうありたいのですか? どうしたいのですか?」

 わたしは経営者に問うことがあります。
 若手というものは、未知で不気味な存在です。それは可能性にあふれ、触れるものによって、石にもダイヤにもなります。だからこそ「本当は?」に目を向けるとき、経営者だけでなく、社員全体、とりわけ「未知の不気味な」若手が「自立創造型相互支援人材」に成長する道が開けてきます。
 経営者や役職者こそが夢や理想やビジョンを語りましょう。
 会社で、チームで、夢や理想やビジョンを全員で創りましょう。
 夢や理想やビジョンは、「おとな」から見れば青臭く理想主義的で、未熟です。それでも語り創ることには大きな意味があります。状況が変わり困難の続く中でも、それを乗り越え挑むチームやひとの姿は「一生続く成長への欲求=やる気」に直接アクセスするからです。実際に今叶っているかどうかは問題ではありません。向かい続ける「変わらない」姿勢に若手は心を奪われます。

 人口減少時代は、文字通りひとりの重みが格段に上がります。いかにひとの無限の可能性を切り開けるか、そんな人材育成ができるかが求められています。いままさに主力世代であるわたしたちは、大きな役割を担っています。
 若手時代に感じた夢やよろこび励ましが、いつまでもそのひとの仕事人生を支えていきます。現代の若手だって同じ。いつの時代のひとも抱いていた普遍の物語の主人公でありたいのはかつて若手だったあなたと同じです。
 会社、組織、チームとして「変わるもの」それも前提から変わるものはなんでしょう?
 決して「変わらないもの」は何でしょう?
 「つねに変わりうる=未知の可能性」をもつ若手と向き合うとき、いつでも始まりはこの問いからです。


※1 平成27年版 少子化社会対策白書:
http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2015/27webgaiyoh/html/gb1_s1-1.html
※2 「伝説は現場で起きた…。素人だらけの寿司屋がミシュランに載れた理由」
http://www.mag2.com/p/news/121352