日本人の国民性からくる交渉下手の理由(2)

前回、日本人の国民性からくる交渉下手の理由として、「日本人が性善説であること」、「日本人が農耕民族だったこと」、「交渉スキルが我流であること」を挙げました。今回は、それ以外の理由を検証したいと思います。外国人から見た日本人の国民性は「礼儀正しさ」「真面目」「勤勉」「親切」など概ね好意的なものが多いです。私も日本人で良かったと思います。ただし、グローバルな交渉の観点からは「日本人はお人好しで交渉下手」との評価になり、その国民性が仇(あだ)になり損をすることが多いのです。

竹を割ったような性格

 多くの日本人が交渉ごとには淡泊と言われています。それは、日本人は古くから「竹を割ったような、潔(いさぎよ)さ」を尊ぶ国民であることが原因の一つだと思います。
 だから、粘り強く、したたかな交渉をする相手(特に外人)には、ほとんど負かされてしまい、悔しい思いをしているのです。 
 つまり、日本人の「モノに拘泥しない、あっさりとした気質」は、交渉相手にとっては「Easy(容易)」な相手となってしまいます。
 今の成熟したビジネス環境においては、均等に成果配分できるような余裕はお互いの会社にありません。つまり「Tough(粘り強く)」に交渉しないと、なかなか成果をあげられなくなっています。まさしく、最後まで、粘り強く交渉することが望まれています。
 そのためには、交渉目的を明確に持ち、事前準備をしっかりして、意図的に粘り強く交渉することが重要になります。
 ただし、粘り強く交渉するためには、相手が嫌がらないように「Warm(温かい)」な表情や雰囲気、そして、相手を緊張させないような話し方が不可欠です。

控えめ

 「控えめ」も日本人の国民性であり美徳です。特に女性の場合は「奥ゆかしい」や「慎み深い」などの表現で、深みや品があるという最高の褒め言葉の一つになっています。
 日本のことわざには「出る杭は打たれる」「長いものには巻かれろ」などがあるように、控えめで、目立たない態度やしぐさが、保身の上で正しいと教え込まれてきました。
 そこで、周りの目を気にしながら、言いたいことも言わず「まあ良いか」とあきらめ、我慢することを覚えてきました。
 それらが、グローバルな交渉の観点からは、日本人の大きな弱点になっています。
 外国の笑い話に次のようなものがあります。国際会議における優秀な議長とは「インド人を黙らせ、日本人に喋らせることができる人である」と。
 また、米国大学の某教授のコメントに次のようなものがありました。「何か質問は?と投げかけると、日本人の学生は目を伏せるが、日本以外の国の学生は、指名をする前に我先にと勝手に質問をしてくる」と。

コンテクスト社会

 ここで、興味深い文化論がありますので紹介します。
 米国の文化人類学者のエドワード・ホール(1914年-2009年)が、著書「Beyond Culture(文化を超えて)」の中で、世界の文化を「高コンテクスト社会」と「低コンテクスト社会」に分類しています。
 「コンテクスト」というのは、言語、共通の知識・体験、価値観・ロジック、嗜好性などを指します。
 その中で、何と、日本人社会は世界一の「高コンテクスト社会」と分類されています。
 日本の場合、地政学的(島国)なこともあり、異民族との混合が少なく、言語や価値観も同一民族ゆえに「高コンテクスト社会」なのでしょう。
 ちなみに「高コンテクスト社会」なのは、(高い順番に)日本、(当時、40年前の)中国、アラブ諸国、ギリシャ、イギリス、スペインなど。
 逆に「低コンテクスト社会」なのは、(低い順番に)ドイツ系スイス、ドイツ、スカンジナビア諸国、アメリカ、フランスなどです。

コミュニケーション・ギャップ

 ほとんど説明もしないで「あうんの呼吸」とか「いちいち言わなくても、そのぐらい察しろよ」などと言うことが通用するのは、日本社会だけなのかも知れませんね。
 確かに、会話の背景や前提が同じで、事細かに説明しなくても分かり合える関係というのは、楽だし、お互いに心地よいものです。
 それゆえに「コミュニケーション・ギャップ」が生じやすいのです。
 日本人同士でも、世代の違いにより「コミュニケーション・ギャップ」が生じます。共通の体験が少なく、会話の背景や前提が異なるからです。
 しかし、自分の説明が不十分にもかかわらず、かみ合わない場合には、「頭が悪い」とか「空気を読めよ」などと一方的に相手を批判します。
 特に、外国の方や世代の異なる相手に対しては、事細かに説明しないと伝わらないことが多々あることに留意する必要があります。