海外からの出向者編 Vol.2

前回「海外からの出向者編Vol.1」では、短期商用ビザについて、使えるケースと使えないケースをご紹介しました。海外からの出向者の受け入れに際して、短期商用ビザではなく、就労ビザを活用するケースについて、今回と次回の2回にわたってお伝えします。

 前回「海外からの出向者編Vol.1」では、短期商用ビザについて、使えるケースと使えないケースをご紹介しました。
 海外からの出向者の受け入れに際して、短期商用ビザではなく、就労ビザを活用するケースについて、今回と次回の2回にわたってお伝えします。

 さて、前回の最後でも書きましたが、海外の親会社・子会社・関連会社からの出向者を受け入れる際に取得するべき「就労ビザ」は、主に次の4つです。

<役員・部門長クラス以下での転勤の場合>
①企業内転勤ビザ(在留資格「企業内転勤」)
または
②技術・人文知識・国際業務ビザ(在留資格「技術・人文知識・国際業務」)

<役員・部門長クラスでの転勤の場合>
③経営・管理ビザ(在留資格「経営・管理」)

<高学歴・高報酬な転勤者を対象とする場合>
④高度専門職ビザ(在留資格「高度専門職」)

 最初にお伝えすると、いずれのVISAも、日本でいわゆるホワイトカラー業務にしか従事することはできません。
 少し話が脱線してしまいますが、現状の入国管理法令上、原則として「単純労働」に対しては、就労ビザが与えられないこととなっています。
 単純労働とは、語弊があるかもしれませんが、マニュアルに従えば誰でも従事できるような業務のことで、コンビニエンスストアなどの店員、飲食店のホールスタッフ、工場のライン作業員、建設現場作業員などが、入国管理法令の運用上、単純労働とみなされています。
 転勤者に対して就労ビザの申請をご検討の場合、念のため、日本での活動内容が単純労働に当たらないことをまず確認する必要があります。
 例えば、転勤期間中ほとんど店舗で接客業務についたり、工場で商品の製造に携わったりするような場合、単純労働とみなされる可能性が高いので、注意が必要となります。

 いずれのVISAもホワイトカラー業務を対象としており、細かな部分での違いはありますが、日本で業務に従事できる内容は概ね同じと考えて問題ありません。
 つまり、申請要件に該当するVISAを選んで申請すれば良いということです。


 実務上、ほとんどのケースでは①企業内転勤ビザの取得となるケースが多いです。その他の②~④は例外的なパターンと考えて頂ければと思います。
 今回は、①企業内転勤ビザと②技術・人文知識・国際業務ビザについてご紹介します。

 受け入れる出向者が、日本法人へ役員や部門長以外のマネージャークラス・スタッフクラスで来日する場合には、まず①企業内転勤ビザを検討し、該当しない要件がある場合、②技術・人文知識・国際業務を検討します。
 そして、要件については、【出向条件に関する要件】と【出向対象者に関する要件】の2つの視点で見ていく必要があります。

出向条件に関する要件

1.出向元海外法人と出向先日本法人の関係性
【①企業内転勤ビザで必要】
 出向元海外法人と出向先日本法人の関係が、外国法人の本店・支店、親子会社、兄弟会社、関連会社等である必要があります。
 企業内転勤ビザという名称からも、転勤をターゲットとしたVISAだからです。企業内転勤ビザ取得の際に、重要なポイントです。
 ちなみに、この関係性の判断は、会社法に準拠していますので、例えば、親会社とは、ある法人の議決権(株式)の50%超を保有している会社等を指し、関連会社とは、同じく20%以上50%未満を保有している会社等のことです。
 大規模なグローバル企業ですと、法人間に複雑な階層が存在するケースが多いですが、純粋な資本関係だけでなく、経営・人事に関する支配関係の有無など、実態としての関係性が認められるかで判断されます。
 実務上、幣所でも、出向元の海外法人と出向先の日本法人との間にいくつも他の会社が挟まっているケースで、これらの関係性を資料によって入国管理局に説明し、企業内転勤ビザを取得したケースも多々あります。
 出向元海外法人と出向先日本法人との関連性について判断に迷った場合は、事前に入国管理局かVISA申請業務の経験が豊富な行政書士に相談することをおすすめします。
 関係性が遠すぎる場合や証明書類を用意できない場合、技術・人文知識・国際業務ビザの申請を検討することとなります。

【②技術・人文知識・国際業務ビザでは不要】


2.業務内容
【①企業内転勤ビザでも②技術・人文知識・国際業務ビザでも必要】
 企画部門、営業部門、経理部門、IT等技術部門などの業務に従事するために出向する場合のケースです。
 繰り返しとなりますが、単純労働への従事を目的とすることはできません。


3.出向中の給与額
【①企業内転勤ビザでも②技術・人文知識・国際業務ビザでも必要】
 日本人と同等額以上である必要があります。
 厳密には、日本法人の同役職の従業員と同レベル以上が望ましいですが、経験上、月額20万円以上は必要と考えます。


4.出向中の給与支払元
【①企業内転勤ビザ】
 企業内転勤ビザの場合、以下のいずれかの方法が可能です。
A.出向先の日本法人が全額支払う
B.出向元の海外法人が全額支払う
C.出向先の日本法人と出向元の海外法人がそれぞれ支払う
 出向目的によっても、出向先・出向元の費用負担に対する考え方が異なると思いますが、いずれのケースでも対応できます。

【②技術・人文知識・国際業務ビザ】
 原則として、「A.出向先の日本法人が全額支払う」か「C.出向先の日本法人と出向元の海外法人がそれぞれ支払う」の方法を取る必要があります。
 もともと、技術・人文知識・国際業務ビザは転勤・出向者を対象としたVISAではなく、日本法人による外国人従業員の直接雇用を前提としているVISAであり、雇用している日本法人が給与を支払うのが原則というわけです。
 「C.出向先の日本法人と出向元の海外法人がそれぞれ支払う」の方法を取る場合、日本法人側で最低ラインの月額20万円以上の給与支払とすることをおすすめします。


5.出向予定期間
【①企業内転勤ビザで必要】
 あくまで転勤・出向なので、半年、1年など出向予定期間を特定する必要があります。
 もちろん出向後に出向期間を延長することは可能です。

【②技術・人文知識・国際業務ビザでは不要】
 当初から期限を定めないことも可能です。

 いずれのVISAでも、初回の申請時に許可されるVISAの期間(在留期間)は最長で5年となりますが、この期間は、来日後再度申請(在留期間更新許可申請)を行うことで、延長することが可能です。

出向対象者に関する要件

6.学歴
【①企業内転勤ビザでは不要】
 以下のような学歴がなくともビザ取得が可能です。

【②技術・人文知識・国際業務では原則必要】
 原則、海外か日本国内の大学(学士)・大学院(修士・博士)、または日本国内の専門 学校 (専門士・高度専門士)を修了し、学位を有していることが必要となります。
 実務上、ヨーロッパ等日本と学校制度の異なる国の教育機関を卒業している場合、それが日本において学士などとして認められるかを事前に確認しておくことが必要となります。
 もし、これらの学歴がない場合、日本で従事する予定の業務について、原則10年以上の実務経験があれば、学歴要件に代えることが出来ます。


7.出向元法人での在籍期間
【①企業内転勤ビザで必要】
 原則として、日本への出向前に、出向元の海外法人に1年以上在籍している必要があります。
 出向元海外法人で中途採用したばかりの経験豊富な従業員を日本法人に出向させたいというような場合などでも、企業内転勤ビザの要件をみたさないということになります。
 この要件をみたさない場合、技術・人文知識・国際業務ビザの申請を検討します。

【②技術・人文知識・国際業務ビザでは不要】

まとめ

 ご覧のとおり、ほとんどの要件において、企業内転勤ビザと技術・人文知識・国際業務ビザで違いが出ています。
 しかし、繰り返しになりますが、どちらのビザも日本での出向中に従事できる業務内容は基本的に同じです。
 出向を計画する際に、出向条件と出向対象者の要件を確認の上、要件に該当する方のビザを申請することになります。

 最後に事例を紹介します。
 次の場合、①企業内転勤ビザと②技術・人文知識・国際業務ビザのどちらを取得すべきでしょう?


【事例】
 ITサービスを提供しているX国法人Y社は、100%子会社であるX国法人Wに勤務している技術者(アシスタントマネージャー級/入社3年目/X国内の専門学校を卒業)を日本法人Aに出向させたいと考えている。
 日本法人Aは、X国法人Yの100%子会社で、Y社と同じITサービスを提供している。
 今回の出向期間は1年を予定しており、日本市場にあった新サービス・商品の開発を目的としている。
 日本法人への出向期間中の月額給与は30万円で、出向元のW社と出向先のA社が半分 ずつ支払う予定である。

<答>
 企業内転勤ビザの申請が可能


 次回は、出向者の取得対象となる就労ビザのうち、少し例外的なものとして、③経営・管理ビザと④高度専門職ビザについて要件とポイントをご案内します。