せっかく大きな投資をしてタレントマネジメントシステム(以下、TM)を導入したのに、なかなか思ったように使いこなせないという話をよく耳にする。実際に訪問した企業で、そうした現状を直接聞いたことも一度や二度ではない。実にもったいなく、残念な話だ。思ったように使いこなせない原因は何なのだろうか。
タレントマネジメントシステムは「からっぽの箱」
せっかく大きな投資をしてタレントマネジメントシステム(以下、TM)を導入したのに、なかなか思ったように使いこなせないという話をよく耳にする。実際に訪問した企業で、そうした現状を直接聞いたことも一度や二度ではない。実にもったいなく、残念な話だ。思ったように使いこなせない原因は何なのだろうか。まず、TMの中身をシステムの観点から説明しよう。
ビジネスでもっとも広く使われているソフトに表計算があるが、その代表格がExcel。マイクロソフトオフィス製品の中核をなすものだが、ご存じのように、Excelを買っただけでは、これ自体では何もできない。使う人が自分で数値を入れ、計算式を入れることで初めて本来の便利な使い方ができる。今、一般の企業でExcelを使わずに経理や財務処理を行なっているという例があれば教えてほしい。その位、便利に普及している。しかしきちんと使いこなせないと、あまり役に立たない。TMも似ている。
TM自体は大小様々な組織や業種に対応できる柔軟な仕組みを備えてはいるが、データは入っていない。その意味で、Excel同様、「からっぽの箱」である。使うためには、あらかじめ、必要なデータを入れ、どんな処理をしたいのかをよく考えておく必要がある。考えがまとまっていれば、その目的に沿った仕組みとしてTMは驚くべき機能を発揮するのは間違いない。それでは順番に見てみよう。
パフォーマンス機能
TMの基本機能としてパフォーマンス評価機能というものがある。人事評価のプロセスを自動化する機能であるが、何を評価して、その結果を何に利用するのかをあらかじめ考えておく必要がある。
評価というと、もともとは、評価結果を昇給やボーナス査定に利用し、反映するというのがある。TMでも当然こうした使い方はできるのであるが、それだけのためにTMを導入するのは得策ではない。どういうことか。
今話題のホワイトカラー・エグゼンプション(White Color Exemption;以降、WE)との関連で考えてみよう。ただし、本コラムでWEの是非を問うつもりはない。あくまで高年収者の成果主義における評価の仕組みとして有望だという話である。
WEの対象となるは一般に年収が高く、時間軸だけでは成果を計れない従業員が対象となる。そのような人は他より秀でたスキルや技能を備えていることが多い。つまり評価を行なうとき、単に結果に注目するだけではなく、評価が高かった場合、その理由は何であったのか、あるいは、評価が低かった場合、どのような反省点があるのか、など一歩踏み込むことが重要となる。TMでは踏み込みの方向を期待された成果と関連性の高いスキルや技能に注目する。つまり評価の裏付けにもなる本人のスキルと技能を、評価とは別項目としてデータベース化する。その結果、成果に対する評価データベースと、その人が持つタレント(スキル、技能など)データベースの両方が出来上がる。これがTMの基本的な考え方とある。
このような評価をすべての対象者に対して行なうと、有用なデータが蓄積されていく。ただ評価するのではなく、能力開発や弱点の補強につながるラーニングシステムとの連動が重要なポイントとなる。問題点が明確になったら、すかさず訓練や研修を行なうのである。
TMの評価機能により、タレントを把握し、それを伸ばし、さらなるポテンシャルを明確化する。ここまでやらないと、TMのもう一つの核となる機能である、サクセション(後継者管理)が有効に働かない。有能な社員のポテンシャルをタレントという観点で把握しておけば、新たな組織編成の際、ぴったりはまる候補者として選抜しやすくなる。
サクセション機能は一般に「後継者管理」と訳されるが、この表現は必ずしも的を得ていない。確かにプロジェクトのキーとなる人の代わりをノミネートする機能が出発点ではあるが、最近のサクセション機能は、一つのポジションだけに注目ではなく、所属するメンバーや組織全体の影響をシミュレーションするところまできている。具体的には、人の構成のシミュレーションだけではなく、新たに構成された組織で期待される売上げやコストをシミュレーションするという機能を実装することも可能になってきている。そういう意味では組織シミュレーション機能にもなりうる。
TMの評価機能は、単に○×の評価するのではない。そこが従来型の人事考課システムと異なる。TMは評価で終わりなのではなく、そこから始まるのである。