なぜ女性は管理職になりたがらないのか?

前回は、企業と女性それぞれの立場から、女性が活躍するべき理由を述べてきました。今回は、女性が活躍できる企業をつくるにあたり、何が課題になるのかについて詳しく説明したいと思います。

女性管理職の育成上の課題

 前回は、企業と女性それぞれの立場から、女性が活躍するべき理由を述べてきました。今回は、女性が活躍できる企業をつくるにあたり、何が課題になるのかについて詳しく説明したいと思います。
 女性の活躍度を測る指標として代表的なものが管理職に占める女性の比率ですが、これが1割程度であり、女性管理職がゼロの企業が過半数であることは第1回で述べた通りです。しかし大学を卒業して企業に就職する時点では、女性の割合は49.1%です 。入社時点では約半数が女性であるにも拘らず、管理職となると女性がこれほどまで少なくなる理由の1つは、女性が結婚や出産を機に離職したり、離職はしないまでも昇進を希望せず非管理職に留まったりという現象です。厚生労働省の調査でも、女性管理職を育成する上での課題として、①必要な知識や経験を有する女性がいない、②就業期間が短い、③女性本人が希望しない、を多くの企業があげています 。つまり企業側に女性を管理職にする意欲があっても、対象となる女性がいない、いてもなりたがらないという問題があるのです。

 そこで今回は、女性が企業で活躍するうえでの課題を、1)継続就業の問題、2)女性個人の意欲の問題に分けて解説します。

1)継続就業の問題

 女性の社会進出を支援する制度自体は、これまで整備が進んできています。1986年に施行された労働者や求職者を性別によって差別することを禁じる男女雇用機会均等法(均等法)は、その鏑矢です。ただ、この制度は男性と同じ仕事上のチャンスを女性に与えることにはなりましたが、それはすなわち男性並みのハードワークを女性に求めることを意味しており、その代償として家庭や子どもを持つことを諦めざるを得なかった女性が多かったと考えられます。
 例えば一部上場企業の均等法世代の女性を対象にしたある調査を見ると、回答者の4割が未婚、7割が子どもを設けていません。このように「こどもかキャリアか」の選択を突き付けられた女性は、6割が出産を機に離職する「M字カーブ問題」につながりました。M字カーブとは、女性の労働力率が出産・育児の適齢期である20代後半は急激に下がり、子どもの手が離れる30代後半から緩やかに復活することでグラフがM字を描くという現象です。しかし1991年に制定され2009年に改正された育児・介護休業制度(育休制度)で子どもが1歳になるまでは休みをとれるようになったことで、このM字カーブは改善されつつあると言われています。
 
 ここで1つ面白いデータを紹介します。結婚・出産というライフイベントによって女性の就業状態がどう変化してきたかという調査なのですが、調査期間は1985年から2009年ということで均等法および育休制度の整備の前後でどう影響があったかを見ることが出来ます 。このデータでは、結婚をきっかけとした退職が37.3%(1985-1989年)から25.6%(2005-2009年)に減少しており、いわゆる「寿退社」は減少傾向にあることがわかるのですが、興味深いのは出産前後での就業状態の変化です(図3)。確かに「育休利用で就業継続」が5.7%から17.1%と急激に増えているのですが、これは「育休なしで就業継続」から転換しているだけであり、これらを足した「出産を経ても継続就業をする人」の割合としては24.0%から26.8%とほとんど増えていません。むしろ出産を機に退職する女性の割合は、37.4%から43.9%に増加しています。「妊娠前から無職」が35.5%から24.1%に減少している状況を併せて考えると、育休制度はこれまで働くこと自体を諦めていた層を就業させる効果はあったかもしれませんが、実際出産した後に就業を継続する要因にはなっていないと言えるのです。
なぜ女性は管理職になりたがらないのか?
 また上記は社会全体で女性の就業状態の変化を見るデータでしたが、次に就業状態にある女性に限定してライフイベントがどう変化するかを調査したデータを見てみます(表1) 。すると育休制度の有無に関わらず出産後の継続就業率が4割前後でほとんど変化していないこと、つまり育休制度の前も後も6割が出産を機に退職していることがわかります。さらに就労形態ごとに比較すると、正規職員は就業継続率がやや向上し、育休制度を利用した割合も13.0%から43.1%に変化しており、育児休業制度の恩恵を受けていることが分かりますが、パート・派遣の就業継続率は23.7%から18.0%にむしろ低下しており、育休制度利用者も少ないままです。つまり育休制度の整備は出産後の就業継続につながっていないこと、かつ非正規雇用の女性に至っては制度の利用すら進んでいないことが分かります。近年は非正規雇用者の割合が増加していることを踏まえると、Mカーブの解消傾向は女性が就業を継続することではなく、非正規雇用での就労が増えたことの結果であると考えられます。
なぜ女性は管理職になりたがらないのか?

2)女性の意欲の問題

 ではなぜ就業意欲が強い出産後の女性が離職するのでしょうか。内閣府男女共同参画局は30-40代の女性を対象として、出産前後の働き方の理想と現実を比較しています (図4)。理想ベースでは出産前は「残業もあるフルタイムの仕事」の割合が高いのですが、出産から「子どもが3歳以下」では一時的に「働きたくない」の割合が高くなり、その後は「残業のないフルタイム」「短時間勤務」「在宅勤務」の割合が高くなっています。つまり子どもができるまでは残業を厭わず働いていた人も、子どもが小さいうちは子育てに専念し、その後は子育てと両立できるような時間帯での働き方を求めているのです。しかし、現実ベースでは結婚・出産によって「正社員」の割合が低下し、その割合はその後も上昇しません。増加しているのはパート・アルバイトの割合のみであり、さらに「働いていない」の割合が「働きたくない」希望と比較して圧倒的に多くなっていることを指摘しています。第2回でも述べた通り、一度離職すると多くの女性にとって復職時は非正規雇用の道しかないという現象がここでも見て取れます。つまり、女性が子育て期に希望する「残業のないフルタイム・短時間勤務・在宅勤務」といった働き方を実現する職場がないために、就労意欲がありながらも現実には働くことができない、またはパートとして働くという選択をする女性が多いのです。
なぜ女性は管理職になりたがらないのか?
 これまでのところで、女性が企業で活躍するうえでの課題は、1)出産後も仕事を続けるためには育休制度を整えるだけでは不十分である、2)女性に就労意欲があっても子育てと両立できる働き方が実現できない、であることが分かりました。そしてその結果が、女性の活躍度指標である女性管理職比率の低さとなっているのです。