HRサミット・経営プロサミット2015講演レポート。「グローバルインテグレーションに向けた人事変革」をテーマにマーサー ジャパン株式会社 代表取締役社長 マーサー ファー・イースト地域代表 鴨居 達哉 氏による講演の模様をお届けする。
マーサー ジャパン株式会社 代表取締役社長 マーサー ファー・イースト地域代表
鴨居 達哉 氏
セイコーエプソン株式会社、プライスウォーターハウスクーパース株式会社、IBM ビジネスコンサルティング サービス (IBCS)、米国IBMを経て、2006年日本IBM 執行役員兼 IBMビジネスコンサルティングサービス取締役、2012年日本IBM常務執行役員に就任。 2014年8月、マーサージャパン株式会社代表取締役社長兼 Mercer Far East Market Leaderに着任。 事業会社、コンサルティング会社双方における経営の経験を有し、15年以上に亘り国内外のグローバル企業のコンサルティング、IT構築の推進に従事。 10年以上の海外業務経験を活かし、ビジネスのグローバル化に関する豊富なコンサルティング経験を持つ。 上智大学外国語学部卒。 1961年長野県生まれ。
鴨居 達哉 氏
セイコーエプソン株式会社、プライスウォーターハウスクーパース株式会社、IBM ビジネスコンサルティング サービス (IBCS)、米国IBMを経て、2006年日本IBM 執行役員兼 IBMビジネスコンサルティングサービス取締役、2012年日本IBM常務執行役員に就任。 2014年8月、マーサージャパン株式会社代表取締役社長兼 Mercer Far East Market Leaderに着任。 事業会社、コンサルティング会社双方における経営の経験を有し、15年以上に亘り国内外のグローバル企業のコンサルティング、IT構築の推進に従事。 10年以上の海外業務経験を活かし、ビジネスのグローバル化に関する豊富なコンサルティング経験を持つ。 上智大学外国語学部卒。 1961年長野県生まれ。
これからの海外展開はグローバルインテグレーションへの変革が必要
日本のマーケットが成熟期に入り、更なる成長を求めてグローバル展開を考える上で重要な視点は、今までの延長線上にあるやり方を続けても発展的な未来はないということです。既に多くの日本企業が海外に進出し、試行錯誤で仕組みを創り上げており、高いブランド認知度もある中、今求められるのは、これからのグローバル戦略を実現していくための仕組みにどう変革していくか、検討の目線をもう一段高いにステージに上げるということになります。フォーチューン誌の「グローバル500」はグローバル企業の売上上位500社のランキングですが、1996年には、日本企業が141社ランクインし、全体の売り上げに占める割合も35%あったのですが、2011年には11%に落ち、現在は10%を切っています。昨年ランクインした日本企業はわずか57社でした。 この間、500社のランクから消えた日本企業100社に取って代わったのが、中国やロシア、ブラジルなどの国々の、いわゆるエマージング・ジャイアンツと呼ばれる企業です。日本企業が大きくランキングから落ちていった背景について、まとめられた興味深いレポートがあります。
理由はいくつかに整理されていますが、組織、人事に関する視点では、2つあります。1つは、日本は勤勉で画一的な考え方を共有し、高い行動規範を持つ組織の輪で高品質な商品をつくり、そのモデルで海外進出し、成功した。 その成功体験から、そのモデルをさらに展開したが、海外マーケットは必ずしもこうした日本での成功モデルが適用できる環境ばかりでではなく、新たな環境下で多様な人材を有する組織を経営していくことに不慣れであったこと。 もう1つは、日本企業のトップマネージメント層には、日本人男性が圧倒的に多いという均質さが、考え方を硬直させていったのではないかという点です。
こうした新たな環境下でのグローバル化を推進していくにあたっては、グローバル横断に、オペレーションを統合管理し、効率的に運営をしていけるモデルを構築する必要があります。グローバルな視点で見た地域戦略の中で、その仕事に適した人材を確保し、最適活用を進めるためにも、オペレーションモデルやプロセス、ルールを標準化していくことが求められます。
新たな情報技術の発展が、こうしたグローバルを統合してオペレーションしていく仕組みの構築にも、大きく貢献することにもなりました。 ドイツでは製造業のモデルを大きく変える取り組みとして官民共同で、インダストリー4.0という考え方を推進しています。インターネット技術を基盤とした、ものづくりのプラットフォームの標準化により、必要な専門性を連携し、最も適した場所、人がデザインし、調達できるような取り組みを進めようとしています。 人材の育成や登用、それを運営する組織の設計も、こうした動きに近くなっていくと考えられます。 グローバルに統合的に管理をし、また、その可視化が出来る基盤づくりが必要になっています。
また、グローバルの競争に打ち勝っていくためには、意思決定のスピードを上げ、戦略や方針をビジネスの現場に、タイムリーに浸透させ、確実に実行していける人材の育成も必要になります。
グローバル人材を育成し、活用していくか、日本化した多国籍人材を重用していくか?
従来、多くの日本企業は、社員同士の輪を大事にし、その中で、共通の価値観に根ざして、安心感を持って仕事ができるという、企業コミュニティー型で組織能力を最大化する仕組みを軸にしてきました。たとえば、製造業においても、「すり合わせの効率」と言われるように、業務プロセスにしても、器用に重複するような形を取ることで、お互いを尊重して、協力し合える、共通の価値観を持つことで成り立つ効率化を図ってきました。企業統治、特に、海外子会社のガバナンスなどにおいても、日本人を派遣し、人治主義によるマネジメントが主軸になっていました。こうしたモデルは、一定の地域への展開、あるいは、日本型のモデルを輸出していくようなフェーズにおいては非常に有効なものでしたが、今は、事業展開する地域も非常に広範囲にわたり、日本モデルではなく、現地でオペレーションを回していく、一定の権限委譲をはかり、かつ、事業軸、地域軸の2軸経営の複雑さも手伝って、人治主義だけで、運営することには、限界がきています。 従来の日本型の強みを、現在のグローバル市場で、そのままに発揮することが困難になってきていると言うことも出来ると思います。こうした環境の中での、一段、ステージの上がったグローバル化を推進するにあたっては、戦略、ルールを明確にし、現場まで浸透できるような仕組みを作り、徹底した明示知化を図る必要があります。
従来の人治主義に対して言えば、プロセスやルールを明確にしてオペレーションする法治主義に変えていくということになります。
これにり、従来型の日本人と、それ以外という分類ではなく、また、現地のメンバーでもこうした人治主義、輪の中での共通認識を持てる、日本化した現地のメンバーに依存するのではなく、国籍不問で、もっとも、それぞれの業務に適した人材を活用し、立ち上げ当初から現地化するオペレーションに変えていくことが可能になります。 一方、先にご説明したとおり、ルールやプロセスが明確になっていますので、その枠組みの中での統治は徹底して進めていくことが、もう一方の本社の影響力というバランスを維持することになります。
仕組みを共有化するが人材は均質化しない
一方、グローバルに管理基盤は導入したが、各ローカルでの個別運用が強く残り、仕組みやルールが形骸化し、結局、日本人駐在員に頼る状況から脱せない、あるいは、グローバルで統一的な組織運営を入れたが、様々なところで、軋轢や調整が発生し、かえって組織としての効率が低下した、という声も、グローバル人事基盤を導入した企業の中で、聞かれます。モデルを作る、と申し上げてきましたが、形だけグローバルインテグレーションしても実際のオペレーションが、それによってうまく回るわけではない、ということです。 その運営を実際に回していく人材の質、量の確保を、重点事項として併せて検討する必要があります。“日本人”による運営には限界があることは、すでに触れましたが、広い視点で、優秀人材の獲得・維持を進めることが不可欠になります。
プロセスやオペレーションの仕組みを共通化、共有化はしても、均質化した人材のみを求めず、多様な人材の中から優秀人材を確保し、育成することがポイントです。仕組みとルールを共通化し、そこで働く人を多様化させる場合、企業としての価値観を従業員に浸透させ、組織として形成していくことは、大変に難しいテーマです。
経営トップが、強いリーダーシップを発揮し、企業理念や企業全体での価値観形成の推進を自ら行うことも必要です。一方で、そうした価値観の醸成を、現場のリーダーとメンバーが日々の活動の中でどう進めていくか、どう行動様式を変えていけるかを自分たちで考えていける仕組みを作ることが、価値観浸透の上では重要なポイントになります。
海外のリーディング企業はこうした取り組みをたくみに推進しています。私は、10年ほど前までは、アメリカの企業は徹底したグローバル統治モデルを志向し、早くからプロセスやオペレーションモデルの共通化に取り組んでいたのに対し、日本企業は現地のことは現地に任せ、経営トップや財務責任者などに日本人を派遣する人治主義モデルを推進する志向が強く、両者はかなり対極にあるグローバル展開を推進してきた、と考えていました。 その中、ヨーロッパは中庸で、アメリカほど中央集権での統治をしていないが、一方で、一定の法治主義を主軸に進め、アメリカ型と日本型の間に位置づけられるモデルを志向してきたと考えてきました。しかし最近、ドイツの名だたる企業の人事責任者の方たちに話を聞く機会があり、熾烈なグローバルな競争環境の中にあるドイツ企業の統治システムが、かなりアメリカ型の、強いグローバル統合モデルに移行してきていることを再認識しました。
海外進出する日本企業が取り組むべき人事領域の5つのテーマ
グローバル化の推進における人事の主要テーマは、5つの領域に整理をして考えてみると、わかりやすくなります。 1、組織方針を明示する、2、それにより、明快な組織設計を行う、 3、組織間の調整ルールを明確にする、 また、運用面で見ると、4.透明性を持ったわかりやすい処遇をする、5.多様な人材の中での積極的な人材活用を推進する、というテーマです。人事は、それぞれの会社で、様々な変革を進め、歴史を持って、現在の形にたどり着いており、今後の変革のテーマも、それぞれの背景を反映し、一律とはなりません。 この5つのテーマのどの領域を適用の範囲とするか、また、組織的な広がりの中で、どの深さまでその適用をするか、を事前にきちんと評価、検討をする必要があります。
ある企業は、グローバルの競争環境に対応できる優秀人材を、国籍を問わず活用することに取り組みました。 短期間で一気にグローバル化を進めるという組織方針を立て、自社のトップ層をまず国際化するという対応を進めましたが、組織間の調整のルールがあいまいで、処遇制度はローカルの対応を維持するなど、施策の一貫性を欠く結果になり、上層部と現場とのコミュニケーションのギャップが発生する結果となり、コミュニケーションコストがかさむと同時に、現場での活動のスピードが低下するという結果となりました。
一方、一層強く求められるグローバル市場への積極的な展開に対応し、5つのテーマを軸に、本格的にグローバル化取り組んでいる企業も増えています。また、海外での事業成長を推進するため、海外企業を買収し、その統合を進めている企業も増えてきています。優れたリーダーを国籍問わず活用する例も増えてきており、場所、国籍問わず人材を獲得し、そのための仕組みを明確にし、組織ルールを再設計し、グローバルで統一的で透明な評価モデルを導入した例もあります。 こうした成功例では、5つのテーマごとに、実施する施策を決め、数年間をかけて構築するロードマップを策定し、主要戦略として全社規模での取り組みとなっています。
5つのテーマに沿った変革を進める上で注意すべきこと
こうした大規模な改革を進める際、プログラムの推進そのものが目的になってしまいがちです。改めて、何を目指した改革なのか、原点に立ち返り、経営チームおよび、プログラムの推進責任チームが、共同で定期的に、以下のようなポイントで活動状況を振り返っていく必要があります。「トップは明確にコミットしているか」
「企業の成長のための変革につながっているか」
「自社の強みを活かし、ビジネスに勝てるのか」
「最高のパフォーマンスを発揮し、グローバルで戦える人材を活用できるのか」
「ロードマップは明確か」
「部分適用でローカライズを妥協していないか」
「社員のモラルは向上するか」
グローバルなリーダーを育てるための手法
ここからは、グローバルなリーダーをどう育てるのかについてお話しします。様々な研究においてリーダーは、組織に与える影響は大きく、組織の業績につながる結果が報告されています。リーダーというと、組織のライン・マネージャーと考えられがちですが、現在、組織の縦構造だけで対応で来ている仕事は減っており、組織横断で、様々なスキルや経験を持つ人材を集め、課題対応を進めるプロジェクト型での仕事の進め方が有効になってきています。プロジェクト型での働き方では、それぞれの専門性を効果的に発揮でき、迅速に業務が進められます。さらに、プロジェクトにおいては、そのプロジェクトで目指すゴール、与えられている予算、期間が明確に決まっています。したがって、リーダーは、与えられた前提条件の中で、そのプロジェクトを遂行し、課題解決を進めるという明確な役割を持つことになります。働く場所や時間を問わないワークスタイル、類似しないバックグラウンドを持つチームをまとめていくという活動の中で、リーダーのプロジェクトマネジメント力とリーダーシップがいっそう求められています。一方、グローバルリーダーを育成・活用しようとする際に、直面することになるいくつかの課題を整理します。 一つ目は、特にトップ人材においては、欧米のトップと日本の処遇格差が大きく、最適な人材が確保しづらいという点です。たとえば、日本企業がM&Aを通じ、成長を図り、その買収先のトップ人材を継続して登用しようとするケースなどは典型的にこの課題が浮上してきます。グローバル視点での経営層の処遇の見直しは、今後、日本企業にとっては、ひとつの重要なテーマとなっていきます。
また、人材育成は、時間のかかる取り組みです。 リーダー層の育成においては、特にその点、しっかり腰をすえて取り組むことが必要になります。 とかく、業績の良い時は、人材育成にも投資を進めるが、業績が悪くなると、低調になるなど、プログラムの推進が断片的になりがちです。継続的に実施することにより効果が出るのが人材育成です。
色々なプログラムをやったが効果がなかった、というケースは、多くがそのプログラムの実施が断片的であった傾向があります。
必要なリーダー人材を層別化し、それぞれに応じた取り組みをする
人材育成においては、全ての人材が、グローバルリーダーとなることを目指す、ということにはなりませんので、グローバルリーダーの他、働く場所を問わず、地域横断的に、自らの深いスキルで仕事を担う、グローバル市場を縦横に活躍の場とするプロフェッショナル、あるいは、各国の市場に適用したサービス・製品の提供を担うローカルチャンピオンなど、求められる人材像を層別化し、個々人の適正やキャリア志向に応じた育成プログラムを実行していくことが重要です。グローバルリーダーの育成について、私の経験からお話しします。私はグローバル環境でのビジネスにおいて、2つの、似て非なる経験をしました。1つ目は日本本社から海外拠点に駐在員として、ヨーロッパやアメリカに派遣された経験です。もう1つはアメリカ本社の会社の日本法人の一人として、本社のあるアメリカで勤務するという経験です。 どちらも、当時の私にとっては、極めてストレッチされたアサイメントで、大いなる成長機会になったのですが、どうしても、日本企業から、駐在員として海外に派遣されたときは、日本人であること自体に、すでに一定の付加価値があり、その器の中でのみ、ストレッチする業務遂行をする、という形になりました。 この経験は、若い世代には有効な育成機会となりますが、経験を積み、リーダーレベルになってからの育成においては、そうした過去からの蓄積が既定の付加価値として通用しない局面に置かれるというストレッチが有効ではないか、と私自身の経験を踏まえ、提言をしています。
グローバルリーダー育成の原点は、求められる能力を持つと人材を、選抜・育成する仕組みと、リーダーとして併せ持つべき経験を、適切なタイミングで与える仕組みの両輪を継続的に回していくことに他なりません。 自社におけるリーダーとして必要な能力の定義を行い、その能力獲得に必要な経験させるべき領域を明確化するステップで進めますが、何より重要なことは、この選抜と育成を、徹底して継続していくということです。
言うまでもなく、簡単には人材は育ちません。グローバルな環境での修羅場の経験を通じ、事業業績に明確に執着を持ち、自分の言葉で戦略を語り、リスクを取っても事業遂行することが出来るリーダーを根気強く、育成していくことが必要です。