今後も続くであろうVUCAの時代を生き残り、企業が持続的な成長を果たすために「人的資本経営」の推進を重視する動きが、企業の間で広がっている。また、2022年8月30日に内閣官房より公表された人的資本に関する開示のガイドラインである「人的資本可視化指針」により、今年度より上場企業には有価証券報告書で複数項目の開示が義務化された。
このような動きを受けて、HR総研では、人的資本経営の捉え方や取組みの実態を把握するアンケートを実施した。本調査第1報の本レポートでは、「調査結果の全体概要」について以下に報告する。

<概要>
●人的資本経営を重視する企業が7割に急増、大企業では8割にも
●人的資本経営に取り組む企業も昨年より増加
●「パーパス浸透」と「従業員エンゲージメント」を重視する企業は7割
●「社員のウェルビーイング」を重視するほど人的資本経営へも前向きか
●人的資本経営に取り組む目的、「従業員エンゲージメント向上」が最多
●「経営戦略と人材戦略との連動」などへのステップが大企業で前進傾向
●キャリア採用や外国人の獲得や社員のリスキルに取り組む企業が顕著に増加、
●6割の企業で従業員エンゲージメント向上に手応え

人的資本経営を重視する企業が全体で7割、大企業では8割にも

まず、人的資本経営の重視度について見てみる。
「重要だと認識している」が最多で36%、次いで「やや重要だと認識している」が33%となり、これらを合わせて「重視派」は69%とほぼ7割に上っている。一方、「あまり重要だと認識していない」(6%)と「重要だと認識していない」(5%)を合わせた「重視していない派」はわずか11%で、重視派の割合の方が58ポイントもの差で上回っている。

【図表1-1】「人的資本経営」の重視度

HR総研:「人的資本経営・開示の現状」に関するアンケート2023 結果報告(第1報)

これを企業規模別に見ると、従業員数1,001名以上の大企業では「重視派」の割合が81%と8割にも上っており、そのうち「重要だと認識している」は46%と半数近くにも上っている。301~1,000名の中堅企業では「重視派」は59%と6割で、うち「重要だと認識している」は39%と4割程度に上るものの、大企業と比較するとその割合は低くなっている。300名以下の中小企業では、「重視派」は66%と7割近くで中堅企業より高くなっている。ただし、「重要だと認識している」に注目すると28%で3割未満となっており、中堅企業より11ポイントも低くなっている(図表1-2)。
いずれの企業規模でも「(あまり)重要だと認識していない」の割合は2割にも満たず、人的資本経営の重要性が企業規模を問わず、ある程度浸透していることがうかがえる。

【図表1-2】企業規模別 「人的資本経営」の重視度

HR総研:「人的資本経営・開示の現状」に関するアンケート2023 結果報告(第1報)

人的資本経営に取り組む企業も昨年より増加

人的資本経営への取り組み状況を昨年と比較しながら見てみる。
まず、今年調査の結果では、「取組みを開始した段階」が24%、「安定的に取り組みを継続中」が14%となっており、これらを合計した「取り組み中」の割合は38%と4割近くに上っている。この「取り組み中」について昨年調査の結果では29%であったことから、この一年で9ポイント増加している。また、「取り組む予定はない」の割合は今年28%、昨年32%で、4ポイント低下しており、このことからも人的資本経営が重要だと認識するだけでなく、実際に取り組みに前向きに動き出している企業が増加傾向にあることが推測できる(図表2-1)。

【図表2-1】「人的資本経営」の取り組み状況(昨年比較)

HR総研:「人的資本経営・開示の現状」に関するアンケート2023 結果報告(第1報)

これを企業規模別に見ると、大企業では「取り組み中」の割合は62%、うち「取組みを開始した段階」は38%に上り、開始したての企業が多くを占めていることが分かる。「取り組み中」について中堅企業では27%、中小企業では25%となり、いずれも4分の1程度となっている(図表2-2)。
このように、特に大企業で取り組み始めた割合が高い背景には、2022年8月30日に内閣官房より公表された人的資本に関する開示のガイドラインである「人的資本可視化指針」により、今年度より上場企業には有価証券報告書で複数項目の開示が義務化されたことが、少なからず影響しているものと考えられる。

【図表2-2】企業規模別 「人的資本経営」の取組み状況

HR総研:「人的資本経営・開示の現状」に関するアンケート2023 結果報告(第1報)

「パーパス浸透」と「従業員エンゲージメント」を重視する企業は7割

ここで、「パーパス浸透」、「従業員エンゲージメント」、「社員のキャリア自律」、「社員のウェルビーイング」の4つの人材施策について、重視度を見てみる。
4つの施策の中で「重視している」の割合が最も高いのは「パーパスの社内浸透」で30%となっており、逆に最も低いのは「社員のウェルビーイング」で17%、これらの差異は13ポイントと倍近くの開きがある。また、「やや重視している」まで含めた「重視派」の割合は、4つの施策とも6割以上に上り、いずれの施策も重視する企業の方が多数派であることが分かる。特に「パーパス浸透」と「従業員エンゲージメント」がともに71%と7割を超えている(図表3-1)。

【図表3-1】各人材施策の重視度

HR総研:「人的資本経営・開示の現状」に関するアンケート2023 結果報告(第1報)

次に、「イノベーション風土」と「組織のレジリエンス」に関する組織力の状態については、いずれも「ある」の割合は1割未満で、それぞれ9%、7%にとどまっている。ただし、「ある程度ある」まで含めた「ある派」の割合は、それぞれ49%、60%と半数程度以上に上っている(図表3-2)。

【図表3-2】「イノベーション風土」と「レジリエンス」に関する組織力の状態

HR総研:「人的資本経営・開示の現状」に関するアンケート2023 結果報告(第1報)

そして、現在の業況を企業規模別に見てみると、「良い」の割合は大企業で17%、中堅企業で5%、中小企業で13%と、いずれも2割未満にとどまっている。「やや良い」まで含めた「良い派」については、大企業では74%、中堅企業では46%、中小企業では61%となり、大企業と中小企業では業況が良い傾向で、中堅企業では比較的悪い傾向となっている(図表3-3)。

【図表3-3】企業規模別 現在の業況

HR総研:「人的資本経営・開示の現状」に関するアンケート2023 結果報告(第1報)

「社員のウェルビーイング」を重視するほど人的資本経営へも前向きか

現在の業況(4段階評価)について、各人材施策の重視度が高い企業群、及び「イノベーション風土」と「レジリエンス」に関する組織力がある企業群の平均値を並べてみた。
その結果、最も業況の平均値が高いのは「人的資本経営の実施」企業群で2.94となっている。一方、最も平均値が低いのは「従業員エンゲージメント重視」企業群で2.75となっている(図表4-1)。
人的資本経営の実施率(「取り組み中」の割合、図表2-1を参照)は38%で、従業員エンゲージメント重視率(「重視派」の割合、図表3-1を参照)はパーパス浸透重視率とともに71%となっており、これらの間には33ポイントと大きな差異がある。このことから、従業員エンゲージメントは7割にも上る大半の企業で重視されているのに対して、4割未満にとどまる人的資本経営を実施する企業群はより踏み込んだ具体的な取組みを実施している企業群であり、そのような企業群でこそ業況が良好な傾向となっていると推測される。また、「組織のレジリエンスあり」企業群(業況平均値2.86)が、「人的資本経営の実施」企業群に次いで業況の良い状態にあることも、興味深い結果である。

【図表4-1】人材施策の重視度・組織状態による業況の違い(平均値)
業況:4段階評価(1:悪い、2:やや悪い、3:やや良い、4:良い)

HR総研:「人的資本経営・開示の現状」に関するアンケート2023 結果報告(第1報)

次に、人的資本経営の取組みレベル(5段階評価)について、各人材施策の重視度が高い企業群、及び「イノベーション風土」と「レジリエンス」に関する組織力がある企業群の平均値を並べてみた。
その結果、最も人的資本経営の取組みレベル平均値が高いのは「社員のウェルビーイング重視」企業群で3.33、一方、最も低いのは業況と同様に「従業員エンゲージメント重視」企業群で3.16となっている。したがって、「社員のウェルビーイング」を重視する企業群では、他の施策を推進する企業群より人的資本経営に対して前向きに取り組む傾向にあることがうかがえる(図表4-2)。

【図表4-2】人材施策の重視度・組織状態による人的資本経営の取組みレベル
(平均値)
人的資本経営取組みレベル:5段階評価
(1:取り組む予定はない、2:取組みを検討中、3:取組みへの準備中、4:取組みを開始した段階、5:安定的に取組みを継続中)

HR総研:「人的資本経営・開示の現状」に関するアンケート2023 結果報告(第1報)

人的資本経営に取り組む目的、「従業員エンゲージメント向上」が最多

人的資本経営に取り組む目的について、企業規模別に見てみると、大企業では「従業員エンゲージメント向上」が最多で67%、次いで「採用力の強化」と「生産性の向上」がともに52%などとなっている。中堅企業では「生産性の向上」が最多で59%、次いで「従業員エンゲージメント向上」が56%、「採用力の強化」が47%などとなっており、上位3項目は大企業と同様となっている。中小企業では「従業員エンゲージメント向上」が最多で70%と大企業より高い割合で、次いで「組織力の強化」が59%、「生産性の向上」が58%などとなっており、「組織力の強化」については大企業や中堅企業より顕著に高い割合であることが分かる(図表5-1)。

【図表5-1】企業規模別 「人的資本経営」に取り組む目的

HR総研:「人的資本経営・開示の現状」に関するアンケート2023 結果報告(第1報)

「経営戦略と人材戦略との連動」などへのステップが大企業で前進傾向

ここからは、人的資本経営への取り組み状況について見てみる。
経済産業省から2022年5月13日に公表された『人材版伊藤レポート2.0』(以降、レポート2.0)で、「3つの視点」と「5つの共通要素」の実現に向けて例示されている各項目への取組み状況について、回答企業全体と大企業を比較しながら確認していく。
ただし、これら各項目について、すべてに取り組むことが求められているわけではなく、各企業の経営戦略や事業内容、置かれた環境の違いなどを考慮し、自社の人的資本経営の実現に必要な取組みを、着実に実践していくことが重要となる。

「3つの視点」については図表6-1~6-3で、「5つの共通要素」については図表7-1~7-5で、レポート2.0で例示されている具体的な項目への企業の取組み状況を示している。
これらの図表を概観的に眺めると、すべての項目において、全体より大企業の方が「取り組み中」(「安定的に取組みを継続中」と「取組みを開始した段階」の合計)の割合が高くなっており、他の企業規模より大企業での取組み状況が先行していることがうかがえる。これは昨年調査と同様の傾向となっている。
そこで、各項目に対する大企業での取り組み状況を中心に見ていく。

まず、「視点1:経営戦略と人材戦略との連動」への取り組み状況を見てみる。
大企業で「取り組み中」の割合が最も高いのは「人材面での全社的な経営課題の抽出」で60%(全体37%)と6割に上る。昨年調査では「経営戦略の意思決定への人事部門の関与」(55%)が最多だったことを踏まえると、やや踏み込んだステージに入っている企業が増えていることが推測される。一方、大企業での「取り組み中」の割合が最も低くなっている項目は昨年と同じで「人材に関するKPIの役員報酬への反映」で25%(全体12%)となり、「人材面での全社的な経営課題の抽出」より35ポイント低く、項目により取り組み状況が顕著に異なることが分かる。ただし、大企業で「取り組み中」の割合が過半数に達している項目が4項目ある(昨年調査では1項目のみ)ことは、取り組みを進めている企業が増加していることが期待される(図表6-1)。

【図表6-1】「視点1:経営戦略と人材戦略との連動」への取り組み状況

HR総研:「人的資本経営・開示の現状」に関するアンケート2023 結果報告(第1報)

次に、「視点2:『As is(現在の姿) - To be(目指すべき姿)のギャップ』の定量把握」への取り組み状況については、「人事情報基盤の整備」の「取り組み中」の割合が最も多く、大企業で49%(昨年40%)、全体で32%となっている(図表6-2)。他2項目は「人事情報基盤の整備」ができた上で、現在の姿と目指すべき姿のギャップを定量的に可視化するために必要な取組みであり、今後、各種の取組みを計画的かつ効果的に進める中で、重要なステップとなる。

【図表6-2】「視点2:『As is(現在の姿) - To be(目指すべき姿)のギャップ』の定量把握」への取り組み状況

HR総研:「人的資本経営・開示の現状」に関するアンケート2023 結果報告(第1報)

「視点3:企業文化への定着」への取り組み状況については、視点1,2に比べて大企業のみでなく全体でも「取り組み中」の割合が高いことが分かる。特に高いのは「経営理念、企業の存在意義、企業文化の定義づけ」で、全体で49%、大企業では69%(昨年71%)に及んでおり、「経営理念等について、社員の具体的な行動や姿勢に紐づける取組み」は全体で39%、大企業で57%となっている(図表6-3)。これらの項目に関しては、人的資本経営を意識する以前から重視している企業が多く、近年では、人的資本経営の軸として「パーパス経営」の重要性が増してきている。企業のパーパス(存在意義)や企業文化を社員に共有し、社員から共感を得るための有効な手段の一つである「CEO・CHROと社員の『対話の場』の設定」に取り組む企業は、全体で25%、大企業では52%と過半数に上り、昨年の39%より顕著に増加している。

【図表6-3】「視点3:企業文化への定着」への取り組み状況

HR総研:「人的資本経営・開示の現状」に関するアンケート2023 結果報告(第1報)

キャリア採用や外国人の獲得や社員のリスキルに取り組む企業が顕著に増加

ここからは、「5つの共通要素」に関してレポート2.0で例示されている取組み項目について、企業の取り組み状況を見ていく。

まず、「要素1:動的な人材ポートフォリオ計画の策定と運用」への取組み状況については、視点2との関連が特に強い要素と捉えられる。「取り組み中」の割合が最も高い項目は「将来の事業構想を踏まえた、中期的な人材ポートフォリオのギャップ分析」で、全体で16%、大企業では43%と4割程度となっている。逆に、最も低いのは「博士人材等の専門人材の積極的な採用」で、全体では18%、大企業では32%となっており、この項目以外の3項目では大企業の4割程度が取組みを既に開始しているとともに、「取組みへの準備中」まで含めると6割程度が前向きに取り組んでいることが分かる(図表7-1)。

【図表7-1】「要素1:動的な人材ポートフォリオ計画の策定と運用」への取組み状況

HR総研:「人的資本経営・開示の現状」に関するアンケート2023 結果報告(第1報)

「要素2:知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」への取組み状況については、2項目のいずれも「取り組み中」の割合が全体で23%、大企業では「キャリア採用や外国人の比率・定着・能力発揮のKPIの活用によるモニタリング」が47%と半数近くとなっている。昨年の33%より14ポイントも増加しており、大企業において新卒採用だけに頼らず、キャリア採用を含めた多様な人材の計画的な獲得・能力発揮に注目され始めていることがうかがえる。「『課長やマネージャーがマネジメント方針の相互共有によって学びあう環境』の整備」については大企業では32%で、「取組みへの準備中」が28%となっており、今後の増加が期待される(図表7-2)。

【図表7-2】「要素2:知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」への取組み状況

HR総研:「人的資本経営・開示の現状」に関するアンケート2023 結果報告(第1報)

続いて、「要素3:リスキル・学び直し」への取組み状況を見てみる。
5つの取組み項目の中で大企業での「取り組み中」の割合が最も高いのは「組織として不足しているスキル・専門性の特定」で48%、全体では27%となっている。これに次いで「社内外からのキーパーソン登用、当該キーパーソンによる社内でのスキル伝搬」が大企業で43%、全体で22%となっており、これら2項目については昨年と同様に他の3項目より顕著に取組みが進んでいる。他3項目については、昨年調査ではいずれも大企業でも2割程度にとどまり低水準の取組み率となっていたのに対して、今回調査では3割程度まで増加しており、社員のリスキルや学び直しを重視している企業が増加していることがうかがえる(図表7-3)。

【図表7-3】「要素3:リスキル・学び直し」への取組み状況

HR総研:「人的資本経営・開示の現状」に関するアンケート2023 結果報告(第1報)

「要素4:従業員エンゲージメント向上」への取組み状況については、大企業において「取り組み中」の割合が最も高いのが「従業員エンゲージメントレベルの定期的な把握」で、昨年と同じく65%と7割近くにも上っている。全体でも39%と4割程度となっている。人的資本経営の主要な目的として「従業員エンゲージメント向上」が挙がっていることから、現状のレベルを定期的に把握することは、必要不可欠な取組みとなっていることがうかがえる。また、「社内のできるだけ広いポジションの公募制化」も大企業では47%と半数近くに上っており、キャリア自律した従業員が自身のキャリアイメージに合った仕事を獲得し、積極的に活躍できる環境を整備する企業の動きが見られる(図表7-4)。
さらに、昨年調査では大企業でも4割未満にとどまった「健康経営への投資とWell-beingの視点の取り込み」は、今回は大企業で46%と半数近くに増加しており、社員の健康や幸福度の向上にも目を向ける企業の動きが見られている。

【図表7-4】「要素4:従業員エンゲージメント向上」への取組み状況

HR総研:「人的資本経営・開示の現状」に関するアンケート2023 結果報告(第1報)

「要素5:『時間や場所にとらわれない働き方』の推進」への取組み状況について見てみると、5つの共通要素の中で最も取り組み率が高いテーマとなっており、この傾向は昨年から同様となっている。中でも「取り組み中」の割合が最も高いのは「リモートワークを円滑化するための業務のデジタル化の推進」で、全体で55%、大企業では76%と8割近くに上っている。一方、「リアルワークの意義の再定義」への「取り組み中」の割合は比較的低く、大企業で60%となっている。コロナ禍による混乱が落ち着いたところでオフィス出社に回帰する方針の企業も増加している中、出社の意義を明確に再定義して従業員に共有し、リモートとリアルをバランスよく運用することが求められるだろう(図表7-5)。

【図表7-5】「要素5:『時間や場所にとらわれない働き方』の推進」への取組み状況

HR総研:「人的資本経営・開示の現状」に関するアンケート2023 結果報告(第1報)

6割の企業で従業員エンゲージメント向上に手応え

最後に、人的資本経営への取組みによって得られているメリットと実践に関する課題を見てみる。
まず、メリットについては「従業員エンゲージメント向上」が圧倒的に多く62%、次いで「組織力の強化」が41%、「生産性の向上」が39%などとなっている。「従業員エンゲージメント向上」は、取組みの目的としても大企業と中小企業の7割程度が挙げており、目的に合った取組みの効果が出ていることがうかがえる(図表8-1)。

【図表8-1】人的資本経営への取組みにより得られているメリット

HR総研:「人的資本経営・開示の現状」に関するアンケート2023 結果報告(第1報)

人的資本経営の実践に関する課題については、「次世代経営人材の育成」が最多で43%、次いで「従業員のスキル・能力の情報把握とデータ化」が40%、「経営戦略に基づく人材要件の明確化」が38%などとなっている。人的資本経営の根本的な目的となる「企業価値の持続的な向上」について、目的達成に向けたストーリーを描いていない企業が多い現状ではあるが、どのような人材戦略によって人的資本価値を高め、さらには企業自体の持続的価値向上を図っていくかを明確に説明できるストーリー構築が、求められるだろう(図表8-2)。

【図表8-2】人的資本経営の実践に関する課題

HR総研:「人的資本経営・開示の現状」に関するアンケート2023 結果報告(第1報)

【HR総研 客員研究員からの分析コメント】

  • 曽和 利光氏

    株式会社人材研究所 代表取締役社長/HR総研 客員研究員 曽和 利光氏

    ようやく「人への投資」が本格化する兆し
    「企業は人なり」とは大昔から言われてきたことではあったが、人事担当者として経営者に対して人に対する「投資」を要望することは骨の折れる仕事であった。採用費や教育研修費などは基本的に経費として処理されるもので短期的には利益を押し下げるのに対して、その一方で資産としては計上されず、財務諸表上では評価されないものであったためだ。

    それが人的資本可視化指針や「ISO30414」などによって、7割もの企業が「人的資本経営」を重視する時代に急速に変化しているのは大変喜ばしいことである。人的資本が可視化されて正しく評価されるようになることで、各企業はステークホルダーの理解を得ながら、積極的な人材投資をしやすくなるであろう。ただ、このことは、人事担当者の説明責任が増大することでもある。自身の推進する人事諸施策において、より成果を意識することも要求される。この緊張感が、人事諸施策を磨き上げることにもつながると期待したい。

    調査の中身で興味深かったのは、従業員エンゲージメントやパーパス浸透を重視している企業の業況判断が低いことであった。経営サイドとしては従業員エンゲージメントが高まって離職が減ったり、パーパスが浸透して組織が方針通りに動いたりすることを望むのは当然だ。しかし、それらはあくまで結果であって、その前にまずきちんと人に投資をし、社員のキャリア自律やウェルビーイングを支援していることが大事だと言うことであろう。実際、人的資本経営を実施している企業の業況はトップであり、そのメリットとして従業員エンゲージメントの向上があげられている。

     なお、現時点での人的資本経営はひとまず「人材面での全社的な経営課題の抽出」への取り組みが最大ということで、今は課題の洗い出し段階ということだ。そのベースとして「人事情報基盤の整備」を行なって、データ化・可視化を行おうともしている。日本企業の人的資本経営はまだ始まったばかりだ。

【調査概要】

アンケート名称:【HR総研】「データドリブンな人事と人的資本経営・開示の現状」に関するアンケート        
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2023年4月17~24日
調査方法:WEBアンケート
調査対象: 企業の人事責任者・担当者
有効回答:221件

※HR総研では、人事の皆様の業務改善や経営に貢献する調査を実施しております。本レポート内容は、会員の皆様の活動に役立てるために引用、参照いただけます。その場合、下記要項にてお願いいたします。
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  ・目的
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詳細につきましては、上記メールアドレスまでお問合せください。

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