様々な要因から、現在あらゆる業種・業態、企業ステージ、職種において「人材確保」が最重要テーマとなっています。事業成長や経営における成功の必須要件は、人材確保。だからこそ、優れた社長はみな「採用」と「組織づくり」に徹底的にこだわることで、自社の人材の最適化を目指します。本稿ではこれを“メンバリング”と名付け、その骨格をご紹介してみたいと思います。
第35回:採用~組織づくりは「ドラマ」だ。経営幹部がこだわりたい、ビジョン達成のための“メンバリング”と“演出”
そもそも企業にとって、「人は城、人は石垣、人は堀」(武田信玄の言葉 ※諸説あり)と言われます。松下幸之助氏は「物をつくる前にまず人をつくる」と言い、トヨタ自動車は「モノづくりは人づくりから」、グーグルは「経営者にとって、あなたの仕事のうち一番重要なものは? という問いへの正解は、採用」と言います。

古今東西、優れた企業の経営者が「自社にとって最も大切だ」と言い切るのは、「人材確保」。リクルート創業者の江副浩正氏は、社長の専管事項として「人事(特に採用)」を置いていました(ご参考までに、もう一つは「広報」でした)。

冒頭で述べた“メンバリング”は筆者の造語ですが、簡単に言えば「自分のための良いチームを作る」こと。そのために必要なのは、適切な採用(人集め)をし、集めたメンバーそれぞれに適切な場(役割と働く場所)を提供することです。今回、この「採用」と「組織づくり」の要諦をご紹介します。

仕事とは「ドラマ」のようなもの

さて、突然ですが、仕事や事業とはドラマのようなものだと思いませんか?

自分も一つの役を貰って、自社を舞台としたドラマを日々生きていく。私は若手の頃から今に至るまで、そんな感覚でウィークデーを過ごしてきました。こんな風に考えてみると、仕事におけるその時々の役割を客観的に捉えることができます。また、何か業務上でのクライマックス(大口のクライアント提案、企画や事業の提案、顧客クレーム対応など)が到来したときに、自分を盛り上げることができ、時には頭の中でテーマ音楽が鳴り響くこともあるでしょう。例えば映画『ロッキー』のテーマかもしれませんし、今ならクイーンでしょうか…(笑)

ともあれ、仕事や事業、自社経営をひとつのドラマと見なしてみると、採用や組織づくりにおいて、非常にわかりやすいヒントを得ることができるのです。以下で詳しく見てみましょう。

「採用」とは“配役を決定する”行為

読者の皆さんの中には、「採用は人事部がやること」と思っていらっしゃる方もいるのではないでしょうか? しかしよく考えてみると、「採用」とは自社あるいは自事業部・部署の不足人材を補充することですよね。そのように捉えると、あなたが自分のチーム(課や部、あるいはプロジェクトチーム)を組成する際に能動的に取るアクションも、立派な「採用」です。外部から人材を調達することを「採用」といいますが、あなたが自分のチームのために、社内の別部署にいるメンバーを巻き込んだり、自分のチームに異動させたりすることもまた「採用」なのです。以降は、ぜひそんな視点でお読みください。

先述のとおりドラマに見立ててみれば、採用とは「実現したいドラマを撮影する/舞台上演するための配役を決定すること」です。そのために、何をやらなければいけないかを具体的に考えてみれば、望ましい採用プロセスは自ずと明らかになるでしょう。

ドラマを作るには、そもそも「台本」が必要です。「こんなドラマを作るぞ」という台本を用意し、「こんなドラマを作るんだけど、主役にこんな人、助演にこんな人に出て欲しいんだ」という出演者集めの動きをし、他薦・自薦で役者希望者を集めてオーディションを実施したのち、適した役者を選んで「配役決定」をする。こうした「台本設計」→「出演者集め」→「オーディション」→「配役決定」までが、「採用」のプロセスです。

さて皆さん、あなたは自らの組織における台本を作っているでしょうか? 台本なしに、先に役者探しをしていたりはしませんか? また、その台本は役者さん(同僚)たちに、「ぜひ自分が出てみたい!」と思わせる魅力的なシナリオやプロットを持っているでしょうか? さらに、「主役はどのような役者がぴったりで、逆にどのような人以外は適役ではない」といったことがはっきりと分かるでしょうか?

企業の求人票によくありがちなこととして、「そもそも事業部や部署の体制、役割、テーマは何か」(台本)、「理想的な構成、フォーメーションはどのようなものだと考えているか」(演出プラン)、「理想の状態に近づくために、当該ポジションにはどのような人が適しているか」(配役設定)などが明確になっておらず、一般概要的な職種募集の内容となっていることがあります。

言葉足らずの台本には一流の役者は集まってきませんし、どんなに口説いたって一流の役者を集めることなど叶いませんよね。

「組織づくり」とは“上演のための舞台稽古”

さあ、ドラマ台本に基づいた役者たちを集めることができました。ここから「組織づくり」です。台本があって、配役に割り当てられた役者たちが集まってくれても、この段階ではまだドラマは動き出しません。ここからは、集まった役者たち一人ひとりに役の真意や意味、価値をしっかり説明することで動機付けをし、本読みから舞台稽古に入り、監督であるあなたは役者らに演出をつけます(育成)。そうして、いざ本番を迎えるのです。つまり、ドラマでいう「動機付け」→「舞台稽古」→「演出」→「上演」が、“組織づくり”のプロセスとなります。

どうでしょう? ピンときましたでしょうか。

舞台稽古でもドラマの撮影のためのリハーサルでも、役者や監督らが実際に台本通りにリハを繰り返しながら、「ここはもっとこうしたほうが良いね」、「ここは冗長だから削ろう」というように台本の修正を行なっていきます。こだわる組・班ほどこのプロセスを大事にしており、ドラマでもミュージシャンのコンサートでも、あるいはアスリートたちの試合においても、一流であればあるほどその準備としてのリハーサル、稽古、トレーニングには物凄い時間と負荷、情熱が注ぎ込まれます。それが、私たちに感動を与えてくれる技となって表舞台に提示されるのですよね。企業人である我々に置き換えて言えば、PDCAをガンガン回すという感じですね。

では、ビジネスパーソンである私たちは日頃、顧客に感動を与えうるだけの“猛稽古”をできているでしょうか? そんなことをこのドラマ・アナロジーで私はいつも思い、自戒の念を抱いています。

“メンバリング”のために、前提として必要なこと

“メンバリング”=自分のための良いチームづくりには、「採用」と「組織づくり」が欠かせません。本稿ではそのポイントを、私たちが日々行うビジネス=ドラマと見なしてご紹介しました。この例えから、日頃の「採用」や「組織づくり」において、もしかしたら見逃してしまっていた点、必要なことやその順序などについての発見があればと思います。

この「採用力」、「組織力」を強化するために、前提として必要なことがあります。それは採用のくだりで少し触れた、「テーマ設定」、「配役設定」、「テーマ、配役の魅力度チェック」です。そもそも魅力ある事業テーマ、部署のテーマや役割が設定されているか。その役どころには演ずる魅力があるのか。企業にミッションやビジョンが必要であり、また社長になる人に、採用時および採用後の自社の社員たちを惹きつけ魅了する(口説く)力が欠かせないのは、このことによるのです。
自社、自部署、自チームがビジネスを通じて演ずる「ドラマ」を、あなたはどんな風に企画し、出演者達をアサイン、演出するでしょうか? 読者である経営者、経営幹部の皆さんが演出するドラマの、大ヒット・ロングランを祈念いたします。
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